「おっさんが感染る」とSランクなのにギルドを追放されたから、ずっと依頼されてきた第二王女のお守り役でも受けようと思う〜近々そのギルドが潰れるらしいが、こっちは元気でやってます〜
@サブまる
第1話 追放
ログドア・フリス36歳。
世間で「おっさんのライン」とまことしやかに囁かれる基準を、一昨日超えてしまったむさいおっさんだ。
無性髭に、寝癖のつきまくった頭。
こりゃ言い訳できねえな。俺もガキの頃よくバカにしていた、等身大のおっさんだわ。
まあ、ですが。
ただのおっさんではありません。俺はそこらじゃちょいと名の知れたSランクの有名おっさんであります。
「お、今日も大量じゃねえか」
今日も森を歩いて、狩りのポイントへと来ていた。
「100匹くらいか?」
オーク。
猪のような顔に、太った人間のような肉体。詳しくは覚えてないがランクCくらいの魔物である。
Sランク冒険者が狩るようなもんではないが、楽、大量に狩れる、そして高く売れる、といいことずくめの魔物で、俺は好んでこいつを狩っている。
「んじゃ、大人しくしてくれよ」
風魔法で穴の中を真空にし、一気に命を刈り取る。
ギルドから配られているマジックバックに、100匹越えのオークを入れる。
もちろん、手作業は面倒なので重力魔法で。
これで、俺の一日の仕事はおしまいだ。あとはギルドに持っていって買い取ってもらい、残りの時間をぐーたら酒でも飲みながら潰して、時間が来たら寝る。
早いときは往復一時間で終わる時もある。
ギルドにつくと、羨望の眼差しが俺を出迎えた。
「おお! Sランクのフリスさんだ!」「今日もすげえ貫禄! あれがSランクなんだな!」「しかもさっき出ていったばっかで、もう帰ってきてるんだぜ! Sランクすげえ!」
俺も手を振って答えてやる。
「おーおー、若い連中は元気でいいな」
一階は酒場。主に仲間との交流を深めたり、掲示板で何か依頼が出てないか確認したりするとこだ。
ツカツカと歩いていって、酒場の隣に併設されている買取所に行く。
マジックバックを肩から下ろすと、美人な受付嬢がにこやかな笑みを浮かべた。
「フリスさんおはようございます! 今日も大量ですね」
「ん、ああ。まあいつものこった」
相槌を打った後、受付嬢が中を確認して、すぐ精査を始める。
手際はいいが、数が数なので、精査にはちょっと時間がかかる。
その間、すぐ横の掲示板をみるのが俺のルーティンだ。
『指名ログドア・フリス』
赤字でデカデカと書かれた紙が目に入った。
毎日見ている依頼書。相変わらず一番に飛び込んでくるんだよな。あの紙。
魔法でも使ってんじゃねえのか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『内容:第二王女の教育係』
・報酬 月給40,000,000ガルド
・仕事内容 第二王女の教育。護衛。遊び相手。その他雑務。
・労働環境 王城(泊まり込み)
・待遇 賞与あり。生活費支給。健康診断あり。税金免除。
・勤務時間 9:00〜17:00(ただし、有事の場合はその限りではない)
・休日 祝日休み。週休二日、完全解放(ただし、有事の場合はその限りではない)
・長期休暇 夏休みあり(ただし、有事の場合はその限りではない)
・条件など 仕事にかかる費用は全て経費として扱う(記録なし・自己申告)、三食昼寝付き(有事の際はその限りではない)、服装自由(ただし身なりは整えること)
*以上のことで不明な点は、質問を受け付けます。
・注意事項 第二王女が、次の王位の座を獲得できなかった場合はこれまでの費用を全額返済する義務を負う。なお、返済を断った場合は王家反逆罪として死刑に処する。
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と、いった募集内容だが、給料はそこそこ悪くない。
ギルドで貰ってるのが、月大体30,000,000ガルドだから、10,000,000の報酬アップだ。
悪くないように思えるが、これの一番怖いところは、アポストロフィの部分だ。
以上のことでの部分。
つまり、下の注意事項については質問を受け付けないどころか、交渉すらさせないということらしい。
俺はよくクズと言われるが、金に釣られるようなおっさんじゃねえ。
と思っていたら、精査が終わったようで、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「はい、完了いたしました。オークが116体、それとオーガが7匹です」
「す、すげえ!! もう桁がちげえよ!」「フリスさんマジすげーよな! 俺もあんな冒険者になるのが夢なんだ」「俺たち、Cランクだけど、フリスさんを見習ってゴブリン討伐に行ってくる!」
ギャラリーが騒ぎ立てる中、受付嬢さんがスッと小袋を渡してくる。
「オークが一匹、」
「あー大丈夫大丈夫。わかってるから」
受付嬢の手を煩わせないように、途中で言葉を遮る。
このギルドでは、倒した分の魔物の買取金額の約1割を賞与として受け取れるのだ。
オークは一匹5ガルド。オーガは一匹10ガルド。
それを定型句のように毎回受付嬢は言う。おそらくマニュアルかなんかでそう指示されてるんだろう。
俺はできるおっさんだから、そういった気遣いもできる。
さて、今日の仕事も終わったことだし、帰って酒でも飲むとするか。
「おい」
と、後ろからしゃがれたおっさんの声が聞こえた。
振り返ると、そこには俺をこのギルドにスカウトしたおっさんが立っていた。
ドナルド・クルーマン、43歳。それがこいつの名だ。
「てめえ、俺がなんでてめえをスカウトしたかわかるか?」
「なんだよ、今帰るとこなんだから後にしてくれ」
「毎日毎日、オークばかり狩ってきやがって! ふざけんなよ! 俺はお前をこのギルドの広告塔として高い給料払ってスカウトしたんだぞ!」
聞く耳持たねえな。
そんな思惑があったのか? 初耳だな。
「それ相応の利益はギルドに献上してるだろ?」
クルーマンの手には、紙が握られていた。それを突き出して言う。
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△年×月 討伐履歴 ログドア・フリス(S)
×月×1日 オーク1**(C)
×月×2日 オーク1**(C)
×月×3日 オーク1**(C)
×月×4日 オーク1**(C)
×月×5日 オーク1**(C)
×月×6日 オーク1**(C)
×月×7日 オーク1**(C)
×月×8日 オーク1**(C)
×月×9日 オーク1**(C)
×月10日 オーク1**(C)
×月11日 オーク1**(C)
×月12日 オーク1**(C)
×月13日 オーク1**(C)
×月14日 オーク1**(C)
×月15日 オーク1**(C)
×月16日 オーク1**(C)
×月17日 オーク1**(C)
×月18日 オーク1**(C)
×月19日 オーク1**(C)
×月20日 オーク1**(C)
×月21日 オーク1**(C)
×月22日 オーク1**(C)
×月23日 オーク1**(C)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんだ、ああ?! この花の無い討伐履歴は!! 上から下まで『オーク・オーク・オーク』! おまけにクエストすら受けようとせん! お前自分のランクを知ってるのか?!」
知ってるも何も、俺がスカウトされた理由がSランクっていうことだし。
「いい歳したおっさんがわめいてみっともねえ。あーいやいや、こんなおっさんにはなりたくなーい」
やれやれ。俺は早く帰って酒飲みたいのに。
「俺はお前に何度も言ったよな。高ランク、せめてランクA以上の魔物を狩ってこいと。そしたら給料も上げてやるからと」
「あー、言われてた気がするわ」
「今からでもいってこい」
「今からだと……?」
クルーマンはその厳ついおっさん顔を上下に振った。
「だが、断る」
「は?」
「高ランクの魔物は頭いいからめんどくせえし」
「貴様のせいで、向上心が取り柄の若手が、ゴブリンばかり狩ってくるようになったのだぞ……」
「いいじゃねえか。命の危険も少ねえし、若いうちはそれでいい。年取ってからもそれでいいけど」
「ふざけるな!! もういい。これ以上ここにいられると、若者にもお前のおっさんが感染るわ! 今日限りで契約は解消だ! 出ていけ!」
おいおいおい。ひょっとして俺無職?
大股で歩いていくおっさん、クルーマンに声を掛ける。
「どうすんだよ? 俺が稼いでたギルドの収益は?」
「お前に払っていた給料で、Aランクの若手を10人以上雇えるわ! 出ていけ!」
まじか。
御歳36歳、男、ログリア・フリスは、たった今無職になりました。
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