24 種明かし

「はああああああ、緊張したあ!」


 ルークはそう言うとあらためて仮面を外し、すっきりしたように伸びをした。


「本当に助かりました」

「いえいえ、俺でよければ、こんなもんでよければいつでも手伝いますよ」


 そう言ってにっこりと笑ったその顔、その声、ディレンの部下のハリオであった。

 

 ダルから話があってすぐ、色々と手はずを整えた。

 その時にトーヤが自信を持ってこう言ったのだ。


「ルギは抜かりがねえからな、俺のこの仮面も外して顔を見せろって言うに違いない」

「え、どうすんだよそれ! やっぱりいらんことじゃねえかよダル!」


 ベルがそう言ってキッとダルを睨みつけた。


「いや、そう言ってもさ」


 ダルがオタオタとベルに言い訳するようにそう言った。


 ダルは今年トーヤと同じ25歳、ベルより12歳年上だ。しかも既婚者で5人の子持ち、さらに月虹隊の隊長などをやっているというのに、そのダルに向かってベルは、まるで同い年の男の子にでも言うように言い放ち、平気で睨みつける。


「まあまあ、手はある。そう睨んでやるなって」


 トーヤにそう言われても、まだ歯までむいたまま、ぎいっと音がするほどダルを睨み続けている。


 そうしてトーヤが言った「手」がハリオであった。


 ハリオはディレンの部下の中でも、特にエリス様御一行に好意的だ。


「俺でできることならなんでも力になります!」


 ディレンにもずっとそう言って、今も襲撃された一行に同情的であった。


 そしてハリオはトーヤと背格好が似ていた。身体的特徴が黒髪、黒い瞳、白い肌、そして中肉中背と影武者を勤めるにはピッタリの体格であった。


 ディレンから、警護隊がエリス様一行のことを疑って取り調べに来ること、そして今、ルークの体調があまりよくなくて耐えられるかどうかわからないことなどを聞いた。


「それでな、もしもルークが変な風に思われたり、疑いを持たれたら、この先どうなるか分からねえんだよ」

「なんてひどい話だ!」


 エリス様御一行のことを完全に信じ切っているハリオは憤慨していた。


「あれだけの目にあった御一行にそんなこと言うなんて信じられねえよ! そんで、そんなになってまで奥様を助けたルークさんにそんなしんどいこと!」

「そうなんだよなあ」

 

 ディレンは人のいい正義感の部下に多少心を痛めながらも、うまく乗せて話を持っていけそうだと話を続ける。


「そんでな、アランから頼まれたんだ。おまえ、頼まれてくれるかなあ」

「何をです! 俺でできることならなんでもやりますよ! 船長、言ってください!」


 というわけで、ルークの影武者を努めることを二つ返事で引き受けてくれた。


「ルギって隊長がもしかしたら仮面を外せって言ってくるかも知れない、だからちょっと変装してもらうけどいいかなあ」

「もちろんだ、なんでもやってくれよ!」


 そうして傷の痕をアランとベルで作った。


「すげえなあ、こんなことできるんだな」

「まあ色んな仕事してきたからな。それにベルはエリス様の助手みたいにして、医療の心得がある」


 と、さっきルギに話したように、ハリオにも「エリス様の事情」を説明した。


「なあるほど、そんでルークさんの手当も奥様とベルさんでできたってことなんだな」

「ああ」


 メイクを続けながらアランは答える。


「正直、この国の医者がどのぐらいの腕があるか分からんし、エリス様の方がずっと医者としてはいいと思うぞ」

「すごいな!」


 中の国の高貴な人に見初められ、他の奥方からも妬まれるほど寵愛を受けるエリス様が、そんな腕のいい医者でもあるなんてとハリオはいたく感激し、ますますエリス様びいきとなっていった。


「本当に助かったよ」

「いやいや、緊張したけど俺も面白かった」

「そうか、そう言ってくれりゃ俺も頼んだ甲斐があった、本当、助かった」

「いやいや」

「助かりました。奥様もそうおっしゃっていらっしゃいます」

「いえいえ、あの、いや、申し訳ない」

 

 エリス様からのお礼の言葉に、ハリオは恐縮して頭を下げる。


「そんで、ルギさんじゃなくてルークさんは」


 ハリオには事情を話す時に手形の名前が偽名であることも伝えていた。


「ああ、ダルさんの部屋で休ませてもらってる」


 もしかするとルギがエリス様の部屋を隅々まで調べるかも知れないと思い、トーヤはダルの部屋に避難させてもらっていたのだ。


「調子はどうなんだ?」

「うーん、それがなあ、腰ってのは本当に厄介だよな。少し前まではこの前の宮の廊下をずっと歩けるほどになってたんだが、このところはまた調子が悪いらしくて、じっと座ってるのがしんどいみたいなんだよ」

「そうか、大変だなあ」

「まあ、横になってる分には全く問題ないんだがな。それで1回はマユリアのお茶会にも顔を出せたんだが、どうしたはずみかねえ」

「いや、腰ってそんなもんみたいだぜ、うちのじいさんもずっとそれで寝たり起きたりだ。ルークさんはまだ若いし、今無理したらそれこそ一生もんになっちまう。今の間にゆっくりと治すことだ。よろしく見舞い言っといてくれ」

「分かった、ありがとうな、本当に助かった」

「いやいや、こんなんでよければいつでも使ってくれよ、俺でも力になれることがすごいうれしいんだ」


 ハリオはそう言って笑顔になった。

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