14 リルの手土産
リルの覚悟のほどが深く突き刺さる言葉であった。
「私はね」
リルが静かに続ける。
「最初はあなたたちのお邪魔になっていたかも知れない。それほどあの頃の私は自分勝手で幼くて、私が私がと他の人のことを考える余裕もなく、自分こそが一番だと思っているような、そんな人間だったわ。それを間違いだと教えてくださったのが、そこにおられるエリス様なの」
リルが、ベールの下からのぞく銀色の髪、褐色の肌、深い深い緑の瞳の「主」を見つめる。
「今もどれほど成長できたか分からないわ。もしかしたら、ほとんど変わっていないのかも知れない。それでもね、自分の意識は変わったと思う。少なくとも自分だけではなく、この先のことを考えている。子どもたちのためなら何でもするわ」
ラーラ様とはまた違う「母の姿」を見たとトーヤは思った。
「分かったよ」
しっかりとリルを見て言う。
「リルがそれだけの覚悟を決めてるってことはな。俺は、そういう人間が好きだ」
「ありがとう」
にっこりとリルが微笑み、トーヤも微笑み返した。
「ただな、くれぐれも言っておくが、本当に無理だけはしないでくれ」
「もちろんよ。言ったでしょ、子どもたちのためだって。この子に助けてはもらうけれど、決して犠牲になんてさせないわ」
「分かった。頼むよ、おっかさん」
「ええ、任せて」
そうしてリルは、いくつかの決まり事を決めて帰っていった。
「すげえ人だったな……」
ベルが呆けたように言う。
「ダルさんもかなりしっかりしてるって思ったが、いや、想像できないような人だった」
アランもなんかすごいものを見た、という顔でそう言う。
2人の言葉を聞いてトーヤが楽しそうに笑った。
「本当にな。リルには黙ってようかと思ってた自分を殴ってやりたくなるな」
それを聞いて、シャンタルがたまらなくなったように吹き出した。
「頼もしいね、リル。あの頃も一番おもしろかったけど、今は比べ物にならないよ」
シャンタルの言葉を皮切りに、4人で大笑いすることになった。
どう動いていいか分からなかった暗い道に、一人、また一人と力強い仲間が並んでくれた、そんな気がしていた。
「さあて、俺も動くかな」
「どうするの?」
「まあ歩く訓練だ。色々と見て回る」
「おれ、付いていこうか?」
「そうだな、もうちょいしたら付き添いもいらなくなるだろうし、ちょっと付いてきてもらうか」
「うん」
「あ、その前にリルさんが持ってきてくれた荷物を見てみないと」
「アロの使い」ということで、そう大きくも重くもないが、両手で抱えられるぐらいのバスケットを持ってきていた。
「なんだろうな」
バスケットの中には布で包まれたものがいくつか入っている。
ごそごそと包みを開き、
「なんだよこりゃあ」
トーヤが腹を抱えて笑い出す。
「なんだ?」
出てきたのは、あの島、「リル島」の意匠が入ったさまざまな商品だった。
一緒に手紙が入っていた。
『島の新しい商品をいくつか考えてみました。みなさまのお気に召しましたでしょうか? どれを商品化すれば売れるのかご意見を伺いたい』
「なんだよーあのおっさん、結局商売の話かよー」
「いや、さすが大商人だ」
「ああ、さすがだな」
それをしらっと持ってきたリルにも感心する。
「まあ、特にやることもないんだし、どれがいいか検分ぐらいしてやってもいいだろうよ」
アロとリル親子のおかげで、すっかり気分がほぐれた「エリス様」ご一行だった。
アロからの荷物を見て思いつき、少し動く時間を考え直した。午後、またあのミーヤに連れられた侍女一行が通り掛かるだろう時間を見て、廊下に行く。
廊下の「客殿」寄り、トーヤの部屋よりは手前のあたりで待っていると、予想通りに侍女の一団が「奥宮」方面へ向かって歩いてくるのが見えた。
先頭にいるオレンジの衣装の侍女、ミーヤが2人に気がついたようだ。
壁にもたれたように立つ「緋色の戦士」から離れ、「中の国」の侍女がミーヤに近づく。
「先日はお世話になりました」
そう言ってゆっくりと丁寧に頭を下げる。
「いえ、大したことは。あの、あの後、いかがでしたでしょうか」
「おかげさまで、部屋に戻って休みましたら、すぐに回復いたしました」
「そうですか、それはよかったです」
「それで、あのこれを」
中の国の侍女が、抱えていた布を開いて中を見せる。
「こちらに来る時に立ち寄りました島で買い求めたものですが、みなさまでどうぞお分け下さいと、主からの気持ちでございます」
開いた絹の上にあったのは、あの島特産の香木の細工物であった。
「うわあ、きれい」
「素敵ね」
ミーヤが連れていた侍女見習いたちがキャッキャと喜びの声を上げる。
「あの、このように貴重な物をいただくわけには。大したことをしたわけではございませんし」
ミーヤがそう言って断ろうとする。
「いえ、受け取っていただかなくては困ります。主の気持ちです」
「ですが」
「些細なことのようにおっしゃいますが、この者は主を守ろうとしてケガをいたしました。その者を助けていただいたこと、すなわち主を助けていただいたことと同義でございます」
中の国の侍女は譲らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます