2 一蓮托生

「さすがアランだ、思った通りだ、分かってる。そんでベルも思った通り、いつも通りで安心した」

「安心したじゃねえよ!」


 と、いつものようにベルがトーヤにからみだすのをアランが止める。


「で、金払えば謁見してもらえるのか?」

「確実じゃねえが、できると思ってる」

「それもトーヤの勘か?」

「だけじゃねえ」


 トーヤがきっぱりと言う。


「そこもちょっと確認したいことがあるから待ってくれ。だがまあ、いけると思う」

「なんだよなんだよ~なんだよこのたよんない感じ……もしかしたら、金全部取られた挙げ句、謁見もできず、結果的に正体もバレて、ここ追ん出されるだけならともかく、宮をたばかった罪! とかで死刑に……」

 

 ベルが闇黒あんこくな先行きを想像して今にも死にそうに言う。


「そうなったらそうなった時。いっつも戦場に出る時と一緒だろうが、もうつべこべ言うな」

「兄貴ぃ~」

「ほれ、続き聞くぞ」


 そう言ってアランがベルの頭を掴んでトーヤの方にクルッと向ける。

 トーヤが笑って、優しく笑って兄と妹を見た。


「まあな、それで謁見を求めるに当たって、全財産を寄進する、そう持っていきたいと思ってる」

「だからってな、ほんとに全部出すことねえじゃん。ちょっと残しとこうよ、な?」

「神様の前で嘘はいけないな」


 ディレンがベルにそう言って笑う。


「分かった、預かってるの全部渡す。で?」

「うん、すまんな。でな、キリエさんに謁見を申し出ようと思う」

「キリエのおばはんに?」


 相変わらず口の悪さではメンバー1のベルがふてくされながら言う。


「ああ、キリエさんに頼む。それが一番の近道だろう」

「断られたら?」

「それはないと思う。その部分が俺の勘だ」

「分かった」


 トーヤにそう言い切られたら、もうベルもそこから先は納得しようがしまいが、何も言わない。これもいつものことだ。


「金渡してもらったら、すぐにでもキリエさんに話をつけてもらう」

「それならすぐにでもいけるぞ、ほれ」


 ディレンが自分が身につけている荷物入れの革袋から重そうな金袋を取り出した。


「全部一等上の金貨だからな、重かったぞ」


 アルディナの神域とここでは通貨が違う。それはそれぞれの港などにある両替所で現地の金に交換してもらって使うのだ。


「船の金だって言やあ、このぐらいの交換は不思議でもなんでもないからな」


 ディレンが言う通り、船長という肩書があるから高額の換金も行えた。一般の人間には一応ある程度の上限が設けてある。そうでもない限り、犯罪で手に入れた金を交換して出先を分からなくする、ということもありえるからだ。


「ありがとう、助かるよ」


 トーヤが重そうな金袋を受け取る。ベルが恨めしそうな目で見ている気がするが気にしない。


「じゃあ、早速今から侍女に話つけてきてくれ。俺は話せないからな、アラン頼む」

「分かったけど、どう話をもってきゃいいんだ?」

「そうだな、奥様がシャンタルの託宣のことを知り、自分とご主人の先行きをぜひとも知りたい、そんな感じか。話はディレンとの世間話で出た、とかなんとか」

「分かった」


 話が決まり、早速侍女にキリエへの取次を頼むと、思ったより早く返事があり、ケガ人もいることから、キリエの方から部屋へ出向く、今日はもう遅いので明日になるが、時間はまだ分からないとのことであった。


「そういやこの国に来てもう10日だよな。トーヤは最初、行って数日で封鎖になるって言ってなかった?」


 ベルが思い出して聞く。


「ああ、そう思ってた。だが、来てみたら思ってたのとちょっと違った」

「ほらあ、だからトーヤの勘だってはずれるんだよ~ああ、おれの……」


 何かは言わなかったが、言わなくても分かる。


「まさか当代シャンタルが託宣ができないとは思わなかったからな」

「それな」


 アランが気になることを言う。


「それ、本当に普通の託宣がないだけで、次代様に関してはできるってことないのか? そんで予定通り二年後だってこと」

「ない」


 トーヤがきっぱりと言う。


「俺はこいつの託宣は絶対だと思ってる」

「そうか」


 そこまで言い切られると、もうそれを信じるしかない。


「こいつはあっちを出る時に三月みつきほどって言った。ってことは、そろそろ封鎖に入る時期だ。それが発表されてない。そんで……」


 ここまで言って口をつぐむ。


「そこが気になるんだよな、なんかあるんだろ? 教えてくれていいんじゃねえのか?」

「いや、だめだ」


 トーヤがアランに言う。


「それだけはまだ言えねえ。だが次代様は確実に近々生まれる」

「なんか分からんが、あんたがそこまで言うならまあ信じるしかねえんだろうな」

「そうしてくれ」

「分かった」


 こうしてここも話が終わる。


 どんな場面でも、最後にはトーヤが決める。そして決まったら残りの3人はもう何も言わない。


「一蓮托生だ、そう決めたからには従う」


 きっぱりとアランが言う。

 

 その重み、それが分かるからこそトーヤも考えて考えて考えた結果のことしか口にしない。それが分かっているから3人も預けた命に関してもう何も言わないのだ。


「見事なもんだな、え」


 ディレンが口笛を吹いて感心した。

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