第二章 第一節 神と神
1 共鳴を起こす
「へ? だってあれだろ? シャンタルって託宣するのが仕事なんだろ?」
ベルが目をパチクリして言う。
「ああ、そうだ。だがシャンタルにも色々あって、ほとんど託宣をしないのもいたらしい」
「そうなの?」
「ああ。必要があってすることだからな、必要がなけりゃ託宣もない」
「ああ、なるほど」
「前に言っただろうが、シャンタルの託宣は、間違えた道に進んで不幸になりそうな時に道を正すものだって。そうだよな?」
「うん」
聞かれてシャンタルが首を振る。
「そういうわけだからな、託宣を求めて謁見をしても、なんもなけりゃ言葉もないってこった。だからリルの時、いきなりこいつがしゃべり始めたわけだ、このままじゃ間違えた道に進む、ってな」
「リル?」
ディレンが聞く。
「アロさんの娘さんもそういう名前だったな」
「ああ、この話はしてなかったな」
ディレンにはアランとベルに話した時のように最初から続けて長く話をしたわけではない。必要なところをかいつまんで、必要があればまた補足するという形で話をしてある。
「リルはこの宮の侍女だ。そんで、行儀見習いの侍女だ」
「行儀見習い?」
「宮の侍女には2種類あってな、選ばれて一生を宮に捧げるって宮に上がる募集で選ばれた侍女と、一時的に宮で行儀見習いなんかして、その後で年頃になったら宮を下がって結婚してってのとがある」
「なるほど、アロさんの娘さんみたいな子は、そうして箔をつけるわけだな」
「そういうこった。でな、そのリルが、ダル、話しただろ?」
「ああ、カースの漁師で虹の兵ってのになったやつだな」
「そうだ。そのダルに恋をしてな、そんで、告白したが断られた」」
「なんと! 大商会の娘さん、そんでべっぴんだって聞くが、そんなのを断るようなやつがいるのか!」
「いるんだよなあ、ダルな、馬鹿なんだよ」
トーヤがうれしそうに笑う。
「子供の頃から好きな幼馴染がいてな、それで断った」
「それでどうなった?」
「まあ、リルは親が親だ、親の力を使ってダルに言うことを聞かせる、だめなら不幸にしてやる、ってな心持ちになったらしい。それをな、こいつが託宣で間違えたことだと教えてな、間違えずに済んだんだよ」
「なるほど……」
ディレンが感心するように言い、
「しかし、あれだな。知人の娘さんのそういう生々しい話を聞いちまうってのも、なんとも言えない気持ちだな」
聞いて4人が笑った。
「リルはいい子だよ」
シャンタルが言う。
「話し上手で、私にも色々な話をしてくれて、楽しかったなあ」
「そうだな」
トーヤもそう言う。
「まあ、そんな風にな、間違える人間とかなんかがあって、それで初めて託宣ってのはあるわけだ」
「なるほど」
「俺が街で色々聞いてきたところによると、こいつのせいだって意見もあったな」
「なんだと?」
「『黒のシャンタル』がもうそういうの全部直して、そんで自分と一緒に
「そういう結論になるのか」
「ああ、この国はそういう国だ」
トーヤが何か含みがあるように言った。
「で、だから、次代様が生まれるって託宣もできねえってのか?」
「俺の勘ではな」
「それ、困るじゃん」
ベルがむうっという顔で言う。
「じゃあ、次のシャンタルが見つからないままになっちまう」
「そうだな」
「どうすんだよ」
「どうするって、人間がどうこうできるってもんでもないんだが」
「どうするんだよ」
またベルが聞く。
「人間にはどうこうできない。だから神様の力を借りようと思う」
「へ?」
「いるだろ、ここに。神様」
「ええっ!」
アラン、ベル、そしてディレンがシャンタルを見る。
「だから金が必要なんだよ。全部もらっていいかな、馬車の金」
「ん? そりゃ構わんが」
「なんでだよー!!!」
ベルがディレンを追い越して言う。
「なんで金いるんだよー!」
「謁見のためだ」
「謁見?」
「ああ、当代シャンタルに託宣を求めて謁見を願い出る」
「ええっ!!!!!」
トーヤが言い出したことにまた一同が驚く。
「いいか、俺たちはキリエさんが受け入れてくれてこの宮の客になった。一応、奥様のご主人が迎えに来てくれるまで、という話にはしてあるが、その間どう動こうと自由だ。じゃあ、先行きが不安になった奥様が託宣を求めてもおかしな話じゃねえだろ?」
「そりゃまあ、そうだが……」
「だが、本当は託宣を求めて謁見したいわけじゃない」
「なんで?」
「こいつの力で当代に託宣をしてもらう」
「ええっ!」
「なんとしても当代に次代様のご誕生の託宣をしてもらう」
「って、え、え、そんなんできるのか?」
「俺はできると思ってる」
「って、トーヤが思ってるだけじゃん。できるの、シャンタル?」
「さあ、どうかなあ」
次に出るカードの数字が何か分からないようにシャンタルが言う。
「頼むぜ~そんなたよんないことに、おれの、おれと兄貴の全財産があ、ああああああ……」
ベルが頭を抱えて嘆くのに、アランが、
「おまえな、ここでうまくいかなかったらもう金どころじゃねえぞ? 俺はもう根性決めた、トーヤが言うようにする」
「兄貴ぃ……」
雨に打たれてしおたれた犬のような目で、ベルがアランを見上げた。
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