王様の最新式ダイエット講座

ちびまるフォイ

なによりもダイエット効果があるもの

「わし、ダイエットするわ」


王様の血迷った独り言に部下たちは驚いた。


「お、王様! どうしてそのようなことを!?」


「いや、わしいつもこうして座っておるじゃん?

 風呂に入るときも体洗ってもらったりで動かないじゃん。

 したらやっぱり下っ腹が目立ってくるのよ」


「そんなことしなくても王様は魅力的です!」


「ならん! わしが嫌じゃといったら嫌なのじゃ!」


こうなると王様はおもちゃをねだる子供のようにけして折れないことを長く仕えている部下たちは知っていた。


さっそく王様のいる玉座の間には世界各国から取り寄せられたダイエット器具が並べられた。

高級感あふれる王宮の一角がさながらジムのような仕上がりになっている。


「さあ王様、これでダイエットを思う存分できますよ!」


「おお! でかした!」


王様はすっかり上機嫌で代わる代わるダイエット器具に乗って運動した。

その目はアスレチックを楽しむ子供のよう。


しばらくしてじっとりと汗をかいた王様は満足げに言った。



「うん! 飽きた!」



「え゛……?」


これには必死に器具を運んできた部下たちも言葉を失った。


「うむ、どれもなかなか楽しかったがいまひとつ気分が乗らないのだ」


「そ、それでは気分が乗るように曲でもひきましょうか?

 それとも我々で王様を応援するとか!?」


「そういうのではないのだ。ここで必死に運動していても景色が変わらんだろう。それが嫌なんじゃ」


「し、しかし王様がみだりに外へ出るのは危険です。

 城下には王様の命を狙う悪い人間がゴロゴロいますので」


「それをなんとかするのがお前らの仕事じゃろうが!!」


「ひえええ……」


もともと王様は剣の腕で成り上がったゴリゴリの武闘派。

平穏で退屈な王宮ぐらしに退屈していたのもあったのかもしれない。


「ようし、城下を走るぞ! わっはっは!」


「王様! 待ってください! せめて甲冑を!」


「そんなもの着ていたら走れんだろう! ぬははは!」


王様は上機嫌で城を出てジョギングを始めた。

街の人達は野生動物より突然現れた王様に見間違いではないかと目を疑った。


「くるしうない! くるしうないぞーー!」


こんな調子で王様が前触れ無く城の外に出てしまうので、部下たちは心配で眠れぬ夜を過ごした。

常に警護するわけもいかないので王様が外に出るときは街に緊急事態宣言が出され、飲食の伴う通行人たちは外出を禁じられた。


さっさと痩せてくれと誰もが願う王様の体型だったが、

高カロリーの王宮料理によりプラスマイナスゼロで王様の体型変化はとぼしかった。


そんなある日のこと。


「王様、今日はランニングよろしいんですか?」


「ん? あーー……そうだな」


王様のダイエット熱はすっかり冷めてしまっていた。

城に持ち込まれたダイエット器具はすっかりホコリをかぶってしまっている。


「……久しぶりに行くか」


王様はダラダラと仕方なく城を出てランニングを始めたが、

早々に飽きてしまって城の外の木陰で休んでいた。


そこにちょうど通りかかった商人の娘に王様の目はくぎづけとなった。


「ややや!! な、なんというべっぴんさんだ!!」


王様はこの日をきっかけにダイエットなどという口実のもと、商人の娘に会いまくるようになった。

お決まりのスポーツウェアを着てはいるが走るのは城を出てから数メートル。

部下が取り寄せた最先端の運動靴が泣いていた。


幾度目かの逢瀬を終えて、偽装工作にちょっと走って汗をかいた王様が城へ戻ってきた。


「ふう、いい汗かいたなぁ」


城の入り口に待っていたのは門番ではなくお妃様だった。


「あなた、おかえりなさい。今日もダイエットしてきたのね?」


その声色はあきらかに労いの色が含まれていなかった。

問い詰めるような冷たい声に王様の体から冷や汗が吹き出す。


「私、知ってるのよ。あなたがなにをしているのか」


「な、ななななな……何を知っているというんだ」


「自分の胸に手をあてて考えてみれば?」


「なにが目的だ! お、お前はわしをどうしたいんだ!」


「あら、私はなにも言ってないわよ? あなたはダイエットをしてきたのでしょう?

 ただ私はあなたより少しおしゃべりだから、あなたが城の外で私以外の人とどうしているのか。

 うっかり話してしまうかもしれないわねぇ?」


「あ、あわわわ……」


王様の体から噴水のように冷や汗が噴き出した。



それから数日後のこと。


部下たちは王様のかわりように驚いていた。


「いやぁ、王様もすっかり痩せたよなぁ」


「前までは全然だったのに急に痩せたから驚いたよ」


「いったいどんなダイエットをしてきたんだろうな」


玉座につく王様はつまようじのように痩せた体型になっていた。

どういうわけか玉座の横につくお妃様の顔色をチラチラうかがうようになっていた。


「それにお妃様へたくさん贈り物をするようになった。

 ダイエットには愛妻家へと変えてくれる効果もあるんだな」


ダイエットを機にかつてのワガママぶりがすっかり引っ込んだ王様に部下たちは大喜びだった。

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