第2話 妖精
朝だ。昨日のよどんだ空気が嘘のように晴れやかになっている。暗闇に沈んだ森は、いいようのない不気味さを感じたが、明けてみるとなんとも、代わり映えのない普通の森だ。
「んー、いい天気。今日こそは、何が何でも町につかなきゃ。食料も心もとないし」
肩に背負っている浅葱色の荷袋を覗く。布にくるまった柑橘系のドライフルーツと半分になった堅焼きビスケットがある。
初めの頃はズッシリとしていた袋も、わずかな食料を残すばかりで、今はいくつか残った保存食がカサカサと揺れるばかり。
「とりあえず、食料を何とかしなきゃね」
彼女はずいぶんと軽くなった荷袋を見て渋い顔をした。
ひょろりとした木々がところ狭しに乱立していて、周りを見回しても、これと言って食べる事が出来そうな物はなさそうだ。
空腹と先の見えない不安で少しばかりゲンナリしながらも、いつまでもうじうじしていても仕方ないと考え町を目指し、先に進むことにした。
「まぁ、歩いていれば、どうにかなるでしょ」
彼女は楽天家でよく言えばポジティブ、悪く言えば何も考えてない変わった冒険者だった。この乱世の時世でよく彼女みたいな性格な冒険者が今まで生きのびてこられたか不思議である。
しばらく進んでいると、彼女は自分の周りをチラチラと白い光の線のようなモノがうっすらと自分の周りを漂っていることに気がついた。
丸くて白い何かだ。淡く青白く発行し、その何かが通った後にはわずかばかりの白の軌跡が残り淡く光っている。
彼女は初めのうちは、妖精か何かだろうと気にもとめていなかったが、いつまでたっても自分の周りをグルグルと回っているその青白い光が気になりだした。
「何かしら?目ぼしいものなんて何ももってないわよ」
彼女がそう、少し煩わしげに青白い光たいして問いかけると、青白い光はちょっと驚いたように身を震わせたように見えた。
彼女が初めて自分にアクションを起こしてくれたのが嬉しいのか、ぴょんぴょんとその場で跳ねると、先ほど以上にグルグル回り出す。
彼女はちょっと困った顔をしながらも、この森に入って初めて出会った生命体?に少しばかりの嬉しさと心細さがほぐされて、そこまで嫌な気分ではなさそうだ。
しばらく回っていると疲れたのか、彼女の鞄の上にトンと乗った。光の玉は鞄の上に乗ると、しきりに発行し始める。何か訴えてるようだ。
「何か欲しいのかしら?どこかの妖精とはぐれたのかな?でもこの辺じゃ妖精境があるなんて聞いたことないし、んー、」
妖精境とは妖精世界の境目のことである。世界中の特定の場所に存在し、人間界と妖精界を繋いでる窓みたいなものだ。ときおりその境目から好奇心旺盛な妖精がフラフラと人間界に現れ、イタズラをして帰っていく。妖精と関わった人間は何かしら祝福を授かり、人間界でも妖精は大事に扱われていた。
妖精が現れるのは必ず妖精橋の近くであり、このような何もない薄暗い森の中では、まずありえないのだが、彼女はそこまで深くは考えずにいた。
妖精は鞄の中にある、何かが欲しいようで、しきりに発行して主張する。しまいには、ぴょんぴょんと飛び跳ねてきた。
あまりにも主張するので、思わず彼女は鞄を開けると、妖精は緑色のカケラが入った小瓶に近づく。
「あ!」
彼女の止めるまもなく、妖精は小瓶に近づくと強く発行し、あっという間にカケラから力を吸い取ってしまった。
ネクロマンサー 賢者 @kennja
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