第7話 樹海迷宮
「ご案内はここまでで十分ですわ」
そう言ってわたしは馬を降りると、手近な木に馬を繋ぎました。
「「?」」
レイアとチャールズの頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのが目に見えるようでしたわ。まぁ、わたくしの行動が奇行にしか見えないのは当然とも言えますね。樹海迷宮まで正しい順路を辿るのであれば、まだ半分にも到達していないのですから。
「この辺りだったはず……」
複数の大岩の上に根を張った巨大な樹木。この森の中では似たようなものはいくらでもあって、とりたてて珍しいものでもないのですけれど……。
「この三叉路、大小大大の岩並び、間違いないですわ」
わたしはブツブツ言いながら、巨大樹木が抱える岩のひとつを丁寧に調べました。
「何をしているのアレクサ?」
「そんなところに何かあるのか?」
レイアとチャールズも馬を降りて、わたくしの奇妙な行動にどんな意味があるのか突き止めようと近づいてきました。
「あっ、ありましたわ!」
わたくしがそう叫んだ瞬間……
「消えた!」
「アレクサが消えてしまった!」
視界からわたしの姿が消えてしまい、どうやら二人を混乱させてしまったようです。
「別に消えたりしてませんわ」
「なっ!?」
「岩にアレクサの首が生えてる!?」
「失礼な! ちゃんと身体はございますわ! これは岩の幻影魔法ですわよ!」
それを二人に理解させるために、わたしは首を出したり引っ込めたりするのを繰り返しました。端から見ればシュールな光景ですわね。
これはゲームではバグとして知られていたショートカット。この世界においては隠し通路だったというわけですわ。
ゲームでは一瞬でボスのいるフロアに移動するのだけれど、この世界では人がひとりやっと通れるくらいの狭い通路を進んでいくことになるようです。
「この隠し通路は、聖獣『森の守り手』の住処までつながっていますわ。通路を出たらすぐに戦闘になるはず。お二人ともお覚悟を」
「「わかった」」
色々と聞きたいことはあるはずだけれど、隠し通路まで知っていたわたしの警告に疑念を挟むことなく、二人は素早く戦いの準備を整えてくれました。
「聖獣は身体が大きく一撃が重たいですが、恐れず動きをしっかりと観察していれば攻撃を避けるのは簡単です」
ゲームでの知識だけれど、聖獣への対処もゲームと同じと考えてよいでしょう。
「あと火に極端に反応しますので、わたしが松明をもって聖獣の気を引き付けますわ。お二人はその隙をついて攻撃してください」
「どうしてそんなに詳しいの? まるで聖獣を見たことがあるみたい」
レイアが訝し気にわたしを見つめて言いました。まぁ、確かに怪しいですわよね。
「あくまで文献で得た知識でしかありませんわ。ですから、いまわたしが言ったことは全部通用しない可能性もあることは心にお留めになって」
「もし通用しなかったときは……」
チャールズがわたしの目を見つめて答えを待っています。
「その時は、ただベストを尽くすだけですわ」
二人の目をそれぞれ見つめ、その覚悟を確認した後、わたしはランタンを灯し、隠し通路を先導して進みました。
――――――
―――
―
≪樹海迷宮 ~試練の間~≫
結局、1時間ほどで隠し通路を抜けることができましたわ。正規ルートであれば、樹海迷宮まで1日、迷宮から試練の間まで半日掛かるところですの。しかも道中では、トラップや亜人や野獣への対処で、かなりの体力やアイテムを消耗することになるのですわ。
ショートカットのおかげでそうした消耗がないだけでなく、もしゲームと同じであれば聖獣が眠っているところに先制攻撃を加えることができるはずですの。
試練の間は、森の樹木で作られた天然のドーム。
その中央に聖獣が眠っていましたわ。
聖獣は巨大なクマとトカゲを合成したような形態で、その全身を緑の蔦が覆っていましたの。それが迷彩にもなっているので、普通に森で遭遇した場合、森に慣れてない人間だと目の前に居ても気が付かないかもしれませんわ。
わたくしは二本指を立て、それを聖獣に向けて倒しましたの。事前に打ち合わせていた通り、レイアとチャールズは左右から、わたくしは正面から聖獣に向かって進み始めました。
レイアは弓で中距離から、チャールズは短槍を使って近接攻撃、わたくしは聖獣のヘイトを稼ぐ手筈になってますわ。
途中で接近に気づかれるか松明に点火するかが攻撃の合図ですの。もし松明点火前に気が付かれた場合、わたくしが【乙女の叫び】での牽制を試みるので、その際は二人に耳を塞ぐよう伝えてありますわ。
幸い、風下だったせいか数メートルの距離まで近づくことができました。なるべく音を出さないように注意しながら、わたくしはランタンの火を使って松明に火をつけました。
松明に火が付いた瞬間、聖獣に向かって駆け出し松明をその顔に押し付けます。
同時に聖獣へ二人による左右からの攻撃が入りましたの。
「ぐおぉぉお!」
咆哮する聖獣にランタンを叩きつけ、わたくしは背後へ飛びのきました。運の良いことに聖獣の顔に油が燃え広がってくれたようです。
「お前の敵はこっちですわ!」
そう叫びながら、わたくしは聖獣の正面で松明を大きく振ってみせました。
「ぐおおあ!」
怒り狂った聖獣がわたしの方に飛びかかろうとした瞬間、その背後からチャールズによる短槍の強烈な一撃が入ります。
聖獣の注意がチャールズに向いたところで、今度はレイアが矢を浴びせかけます。注意がレイアに変わったところで、わたくしが松明を持って近づいていく。
松明よりも槍や矢の方がダメージが大きいはずですが、聖獣にとっては火が最も脅威であると感じているようでしたの。
聖獣の顔に広がった炎はまだ消えていません。聖獣の身体には一度火が付くと消えずに燃え続けるような性質があるのでしょうか。
いずれにせよ。パターンにはまったのか、後はわたしたちは黙々と作業のように攻撃を繰り返すだけでしたわ。
攻撃が一巡する度に、聖獣の反撃に力がなくなっていき、やがて――
聖獣はその動きを完全に止めましたの。
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