第8話 神話武器ゲット
聖獣の死を確認すると、わたくしたちは草花でその遺骸を覆い、葬祭を執り行いました。聖樹教会において聖獣は、聖樹が聖人に試練を与えるために遣わした存在であり、戦いにおいては敵であったとしても最大の敬意をもって扱われますの。
わたくしは頭を垂れ、チャールズとレイアが祭詞を唱えるのを静かに聞いていましたわ。
ちなみにゲームでは、聖獣を倒した後に葬祭を行わないと神話武器の出現と同時に聖獣が復活して、再度戦闘するハメになったりするのですわ。
「正直なところ、聖獣が存在するなんて思っていなかったよ。あくまで教義上の暗喩だと思ってた」
祭儀が終わったあと、チャールズがそんなことを感慨深そうに言ったのですわ。レイアはその言葉を聞いて小さく頷きましたの。
「聖獣が守っていたものを確認するといたしましょう」
わたくしは最初に聖獣が眠っていた場所に立ち、火の消えた松明を使って軽く土を掘ってみました。
ガッ!
「土の下に石棺がありますわ!」
「「へ、へぇ……」」
どうして石棺だとわかったのかと言って欲しかったのですが、もう二人はツッコミを入れるのは面倒になってしまったみたいですの。
三人がかりで土を払い、現れた巨大な石棺の蓋を押しのけると、そこには銀色に輝く神話武器『エルフィンリュート』が眠っていましたわ。
「ねぇ、レイア。ちょっと撃ってみてくださらない?」
「えっ? わたしがですか?」
「この中で弓の扱いに最も優れているのは君だし、聖人候補でもある。君ほどふさわしい持ち手はいないはずだ」
「で、では……」
レイアが自分の矢をつがえようとするのをわたくしは制止して言いました。
「聖樹の力が強い森の中において、エルフィンリュートは無限に矢を放つことができると伝え聞いておりますの」
「は?」
「そうなのか?」
うん、まぁ知らないでしょうね。本来ならここから進んだイベントで明らかになる事実なので知らなくて当然ですわ。でも時間が惜しいので、この後のイベントは端折ってショートカットしますわよ。
とはいえレイアには無限ショットを身に着けてもらわないと。
「愛するものを守りたいと思う強い心が光の矢となって顕現するそうで――いいえ、顕現するのですわ」
わたくしは芝居がかった声で言いました。
「は?」
レイアは弓を軽く引いて様子を見ていますわ。チャールズの方はといえば、これから起こる神話武器の奇跡に胸を高鳴らせているようで、その表情がキラキラと輝いているのが傍目からもわかりますわ。
「さぁ、その手元に万物を貫く光の矢を強く想像してください」
「強くって……どうすれば」
「それは愛です!」
「はい!?」
「愛です!!」
わたくし力強く言い切りましたの!
「あなたの愛するもの! それを守る切り札がその光の矢なのですわ! あなたの思いは、儚く消えてしまうような淡い光に過ぎないのですか? もしその矢が敵を貫くことができなければ、愛するものを守りきれず失ってしまうかもしれなのですわ!」
「そ、それはいや……」
キィーーンという高音と共に、光が集まって矢の形状をとり始めました。でもまだ光はぼんやりとしているのですわ。
「あなたの思いはそんなものですか! このまま愛するものが失われてしまってもいいんですか! 具体的にイメージしてみてください。チャールズが魔物に襲われているところを!」
「えっ、僕ですか?」
何言ってるんだか!ですの。あなたがレイアにぞっこんなのは、こちとらゲームで百も承知なのですわ! さっきの聖獣との戦闘だって、わたくしに対するフォローよりレイアへの反応が0.05秒早かったのは紛れもない事実なのですわ!
「そう。チャールズが襲われている! しかもサキュバスにですわ!」
「さ、サキュバスに……」
レイアの光の矢が輝きを増す。
「さ、サキュバス……」
チャールズの鼻の下が伸びた――ような気がしますわね。
「あなたの光の矢だけが、彼を救うことができる! その光の矢はサキュバスを射抜けるのですか?」
「鋼鉄だって射貫く!」
レイアが力強く答えると、光の矢が鋼鉄で作られたかのように銀色に輝きましたの。
「まだまだですわ! あなたのチャールズへの想いはそんなものですの!? もし
「女王だって射貫いて見せるわ!」
「では 魔王だったらどうですの! 魔王がチャールズを奪いに来たら」
わたくし的には、そのシーンはちょっと良いかも? と思ってしまいましたが、レイアにとっては違ったようで――
「魔王だって射貫いて見せる!」
リュートの弦が弾かれたかのような音色と共に光の矢が放たれましたわ。矢は遠く離れた木を貫通し穴を開けて消えました。
「光の矢――飛んでった」
わたくしにとっては見慣れた光景なので特に感想はありませんでした。でも他の二人は目の前で起こった奇跡に放心状態で、お互い見つめ合ったまま動かなくなっていましたの。
「コホンッ」
わたしは二人を正気に戻すために咳払いをして、
「チャールズに対するレイアの想いがあんなに強いものだなんて、わたくしの想定を遥かに超えていましたわ」
ボンッと音が聞こえそうなくらいの勢いで、二人とも真っ赤に茹で上がってしまいました。
「さっ、帰りましょうか」
帰りの道すがら。やもすると自然に二人がくっつこうとするので、その度にわたくしはわざと間に入ってやりましたわ。腹立たしいことに、わたくしが邪魔することで余計にお互いを意識するようになっていくみたいで――二人の距離はどんどん近づいていったみたいですの。
厩舎に馬を戻して宿舎に戻る頃には、仲良く手をつないで歩いていましたわ。
「爆発しろ! ですわ」
二人の後ろからちょっとだけ呪ってやりました。
これくらい許して欲しいですの。
ま、まぁともかく神話武器を手に入れて、二人をくっつけるという目標はこれで達成できたので何も問題ないのですわ。
……。
……。
……。
爆発しろ! ですわ!
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