3:00
消えた
新緑たちの息吹が
その生命の躍動が
己が拒んだから
それが罪であるかのように
過ちを恐れて
罰を畏れて
気づいた時には枯れていた
それが過ちだと解ったときにはもう──
─────
「た、助けて......」
たとえば、この森にいる猪がそのように命乞いをしたとして、お前はその要求を飲むとでも?
「否」
これは食物連鎖のような自然の摂理ではない。
「これは贖罪。今まで目を逸らし続けてきたお前らに与えられた唯一の機会だ」
「この殺戮者め!!!」
兵と言っても所詮は森に引き篭っている素人か。この程度の実力なら故郷にいた頃の俺といい勝負だ。
「別に贖う意思がなくても構わない。その罪は背負うと遠に決めた。だが、罰は平等に下すとも」
処すは斬首刑。無闇な暴力は殺人と変わりない。故に、執行は一瞬の内に済ませるべきである。
「さて、ここは粗方片付いたか」
あとは、高台に隠れている大罪人だけ。
「居るのだろう?
聞くまでもないことであるが、彼女の意思を確認したい。
だが、返事はなかった。
この広い住居の中ならば隠れられるとの算段だろうか。そんなに気配を出していたら無駄だというのに。
「屋根裏だとは、稚児のかくれんぼでもあるまいに」
それはおそらく長しか知らぬ秘密の部屋。隠れ蓑と言えばそれらしいが、なんとも情けない。
狭い通路を抜けて、扉を開くと
そこには2人のエルフがいた。
「遂に来おったか!!復讐に狂った悪魔が!!」
1人は憔悴しきったエルフの長
もう1人は
「だぁれ?」
踏み砕いたはずの亡霊であった。
「ふっ、ふふ!!!驚いておる!己が殺したはずの者が生きておるものなぁ!!エルフがあの程度で死ぬものか!」
長は汗水を滲ませながら高らかに吠える。
「だが、精神の方は壊れてしまってなぁ!? どうやら貴様に裏切られたのが余程ショックだったらしい!! このように廃人となってしまった!!貴様のせいでな!!! 貴様がシャナータを殺したことには変わりないのだ!!!!」
捲し立てるように糾弾する姿からは断罪の祈りが感じられない。彼女から感じられるのは己が呵責に苦しむであろう姿に対する愉悦だけだ。
「あぁ、そっくりだ。兎の顔に」
「ッッッ!?? 貴様、まさか全てを知って──!?」
「お前の子は海の底で父親の身代わり人形になっていたよ。ヴェレッタ、お前の罪を背負ってな」
「まさか、いや、そんなはずは.......!彼奴は既に.......」
深海の牢獄で終わることのない絶望を唄いながら、君は救いを求めていたんだ。健気に歪んで、泡となってしまった彼女は今もこの胸の中で鮮やかに。
「だが、どうしても不可解だ。道理から外れたお前らがどうして俺達に其れを強いるんだ? それで調和を保とうとでも? お前らにとって既に存在そのものが異常だというのに?
違う。お前たちは都合のいい
「何のお話?」
幼児が如く純粋な声色で尋ねるシャナータ。以前の彼女はその事を知っていた。そして、彼女の姉である、あの魔女もまた同様に。
「エヴァールはその罪悪感と呵責に耐えきれなかったのだろう? もし、愛故の離反ならばあの子の元にいなければおかしい話だ」
「エヴァール......」
「フッ、検討違いも甚だしい。奴は我らがあの荒野に閉じ込めていただけのことよ。しきたりを破る者を野放しにしておくものか!」
フェアラートは愉しそうにケタケタ笑う。
「そうとも知らずに貴様らは魔女だと疑わず、弱っていたあ奴を殺したのだ!! なんと罪深き生物か! 無知なる故に正義を疑わずその刃を振るうとは!!」
「何故愉しそうに笑う?親友だったんだろう? 俺達に怒りはないのか?」
「憤怒、憎しみ、恨み、なんと下賎な感情か!!! だが、それを我らに与えたのは貴様らだ!!貴様らの罪が我らの魂を穢し、恒久の平穏を破壊した!!!
「貴女は愉しんでいたのでしょう?」
シャナータの低い声が部屋に響く。
「グエッ!!!」
裏切り者の頚椎が背後からキリキリと締め上げられる。今まで少女のように小さく座っていたシャナータの手によって。
「シ゛ャ゛ナ゛ー゛タ゛、な゛せ゛?゛」
「屋根裏で飼う都合のいいお人形さんだった私は可愛かったかしら? 私はとっても不愉快極まりないわ。よりにもよって、貴女に良いように使われていたなんて思うと死にたくなるし、殺したくなる」
その目は殺意と憎しみに満ちて、荒々しくも哀しい。柔らかい毛先は急激に痛み始めて、手に込められる力は徐々に強さを増していく。
「最期にひとつだけ伝えておく。これから行われるのは『復讐』ではない。俺達人間が正しく生きるための『救済』だ」
やがて彼女はあおく、あかく、しろくなった。もう動くことはない。そして、その亡骸にシャナータは唾を吐いた。
「ファル君」
踵を返して、この部屋を出ようとした時であった。
「私は貴方を憎まない」
そうだ。臆するな。彼女は既に死んでいるはずだ。今は単に現世に舞い戻ってきたに過ぎない。己の責務から目を背けるな。
「けれど、もう愛することもできないの」
あぁ、サめてしまった
夕餉の沸き立つ湯気が見せた一時の饗しは
たった一度の落日で
泥土の底へと変わり果てた
「お前が愛していたのは俺じゃあない」
違う
ただのママゴト遊びだ
それは最初から泥団子だったよ
木こりが斧を振るうように、タタンと腕をしならせると、驚くほど簡単にその首を切り落とすことができた。その首はなるべく天から見えるようにとこの森で1番高い場所へと奉り、左手の薬指の先っぽを欠けた茶碗に置いてきた。
たとえ
遊びだったとしても
あの時は
本気だったから
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