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神は死んだ
否、最初から居なかったのだ
天を照らす球体はただの炎の塊にしか過ぎなかった
与えられた祝福は単なる個の才能にしか過ぎなかった
敷き詰められた運命のレールは
都合の良い幻覚だったのだ
「ゲホッ!ゲホッ!」
巡るめぐ走馬燈よ
どうか真実に靄をかけておくれ
白鳥を夢見た黒鷺が霧の中で眠るように
神という超常不可侵的存在に依拠する
人間という存在であってくれ
罪は裁かれなければならない
罰は贖いである
それをただの生命体である我々が定めうるものか?
彼が本当に穢れなき清廉潔白な審判者と
断言できるか?
それもまた、否
人間は原罪を背負うが故に
裁定者にはなり得ない
ならば、一切の穢れを纏わぬ神にしか罪を断ずることなどできない
その神が坐さぬというのであれば
この世界は廃れゆくのみ
「どうして」
どうして
わたしたちを御見捨てになったのですか?
導いてくださるのではなかったのですか?
"
─あなたが、誰よりも信じているのではないですか?─
「信じて何が悪い。聖徳が利得へと帰することが正しいと、清き貧者がいつか苦することなき楽園へと導かれんことを説いたのは貴様だろうが」
─貴方は怖いだけでしょう?与えられたら大口開けて享受するくせに─
「故に、君は冷たくなってしまった。それが君の罪だとして、今も俺の右手で愛憎を叫んでいるんだろう?」
─お前は何よりもドス黒い悪だ─
「そうかもしれない。君とジャックを地獄へと落としたのは紛れもない俺だ。だから、そんな目で見ないでくれ」
─それは誰なの!? いつ来るの!? 今ここにはお兄さんがいるじゃないか!?どうして? どうしてみんな僕を見捨てるの?─
「すまない、すまない。俺じゃあ、俺なんかじゃあ救えないんだ。罪に塗れたこの俺では手のひらの蝶々さえ、まともに留められやしない」
─それを糧にすらできないのか─
「したとして、俺は何を為すんだ? 陳腐な復讐か? 何に?この惨状を招いた己自身にか?それとも、ありもしなかった運命の女神に唾を吐けとでも!?」
─失ったものばかり数えていたらいつかの幸せも見えなくなってしまいます─
「違う。俺は幸せになってはいけないんだ。どうして大罪を犯した俺が後の幸福を享受できる道理があるんだ。俺は、俺は君まで失いたくない」
─君は君自身を赦さなければならない─
「赦せるものか。逃げる事、それ自体が罪だと自覚してもなお、逃げ続けることしかできなかった俺にいかなる赦免を為すことができようか」
─それでも、ひと匙の勇気さえあれば─
「俺はまだ、あの場所に居られたのかな?」
─じゃあ、私が僂y9をゆるしてあげる─
「でも、
流動する記憶
聞こえなくなった声
見えなくなった顔
言葉だけが循環し
やがて───
金色の絨毯と路傍の萱草
幾何学的紋様
羅列された魔術式
古ぼけた人形
滲んだ古紙に浮かび上がる五芒星
─繋がった─
なだれ込む太古の記憶
紡がれぬ歴史
人間は人ではない
彼らが犯した罪の産物
故に、原罪を背負い、生まれる
人形だったのは
─暖かい、暖かいねぇ─
知っていたのか、君は
知ってなお
おぉ、水底の歌姫よ
君の想いは
楽園の粼となるだろう
─勝手に育んだ罪悪感を和らげるための玩具─
右手の薬指を切り落とし
上面の憎しみを踏み砕き、深層の愛情に口付けをする
君も知ってたのだろう?
罪の呵責に苛まれても
自死すら貫けぬ貧弱な意志
愛でることで、目を逸らし、逃げようとした
─
おぉ、森奥の愚者よ
君の行いは
楽園の戒めとなるだろう
刻み始めた楽園への導
もはや自我さえ消え失せて
『憤怒や憎しみすら超越した君の意志はやがて僕の悲願に達する』
決して必然ではない
楔など存在していない
全ては為されるがままに
事実として成っているのだ
しかし、人はそれを運命と委ねてしまう
─求めよ─
「ああそうか」
そして、人は必ず何かしらその意味を持ってこの世に生まれ落ちると肯定するのだ
或いは勇者
或いは賢者
或いは預言者
或いは───
─主は我等の罪を全て赦します─
─その身を持って、我等の罪を背負い、贖い、一切の罪悪を禊いて、 我等を正しき世界へと導くことでしょう─
わらう兎は揺れて己の顔に
牙に見えていたのは歪んで抉れた親知らず
晴れた
晴れた!
ハレルヤ!!
Hallelujah!!!
─眼前に起こりうるものは全て己が招いた結果だ─
「俺が
真実を知った無神論者は悟る
もはや救いはない
ならば
私が救わねば と
一気に視界が開ける
残る四感も急激に鋭敏となり
全身が彌立つ
なんと心地よいのだろうか
「Hilfe」
もはや恐怖はない
深い絶望も
途方もない無力感も
限りない諦観も
自身に纏わりついていた一切の闇が祓われた
祝福の鐘が告げる
今
ここに主が降臨した
純白の兎等が宣う
これより
主は洗礼を施し、我等の罪を清算する
街宣の異教徒が
主は我等の罪を一身に背負い、禊い、そして人間を楽園へと導くだろう
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