第39話 女の戰い、或いは二大怪獣大決戦
風が語りかけていた。
目の前の女は敵だ。敵すぎる。
同時に、カエデの頭の中で一本の線が繋がった。
カエデは学校の成績こそ悪いが、頭の回転そのものは悪くない。
押し入れに入っていた六郷リッカグッズ。バイト先から手に入れた宿泊券。指定された日付はレセプションパーティー当日。露天風呂にリッカ本人。それが偶然でないとしたら。
「そういうこと……せんぱいのバイト先って、つまり──!」
「ふふん、理解したようだね。そうさ、アイツがバイトしているのはボクの所属する事務所だよ」
「せんぱいかわいそう。こんなただ滅茶苦茶美少女でおっぱいが死ぬほど大きいだけの、勘違い性悪女が一緒だなんて」
「ななっ!? ボ、ボクのどこが勘違い性悪女だってのさ!?」
「そんなの明らか。どうせ今だって温泉でおっぱいと股間をツルツルに磨き上げて、これから偶然を装って、せんぱいを夜這いしようとしてたに違いない」
カエデの発言は、普通ならば
そもそも夜這いの前準備も兼ねて露天風呂に入っていたのは、むしろカエデの方である。
けれど。
カエデにそう指摘されたリッカは、まるで探偵もののドラマで指名された真犯人のように身体をビクッと震わせた。ついでにメロン顔負けの過剰発育乳房もばるるんっと揺れた。
「ななな、なぜそれをっ!?」
「ふっ。やっぱり」
「はっ。ま、まさかボクに対して誘導尋問を──なんて卑劣なっ!」
「ぶいっ」
無表情ドヤ顔でVサインをかますという器用な真似をした後、カエデがリッカにずずいっと迫る。
「安心していい。せんぱいはわたしが幸せにする。毎日セックスする。なんなら一生チンポを抜かなくてもいい」
「バカをいうな! それはボクの役割だ!!」
「らぶらぶ恋人時代を経て、らぶらぶ結婚。子供はちょっと苦手だけど、せんぱいとの子供なら死ぬほど可愛いに決まってるし何人でも産みたい。でもせんぱいは恐らく、妊娠中はセックスしてくれないと思うから、わたしのココロがチンポ欠乏症で壊れないか今からとても不安」
「分かる、分かるよその不安。わかりみがマリアナ海溝のように深い──ってそうじゃないだろっ!」
「なにが?」
「だからそれはっ! ボクの役目っ! だッッッッッッ!!」
「そんなわけない。動画で見も知らない男に肌を晒すあばずれビッチが、せんぱいに相応しいとでも思ってるの?」
「ぐううっ──」
「リッカはそうして、世界中の男の精液を何百万リットルでも何億リットルでも、好きなだけ搾り取ればいい。わたしはそんなのいらない。その代わり、せんぱい一人が製造した赤ちゃんの素を全部注いでもらえればそれ以上の幸せはない」
「ボクだってそうだ!」
「なに言ってるの? ビッチのくせに」
リッカはギリギリと歯ぎしりしていた。
必ず、いま目の前で偉そうに勝ち誇っている、ただ顔とスタイルがバケモノ級に凄まじいだけの腐れ性悪ビッチを除かなければならぬと決意した。
けれど、ここで勢い余って「グラドルにはアイツの気を引くためになっただけだし、アイツが辞めろって言ってくれればいつでも速攻辞めるもん!」などと本当のことを言うわけにはいかなかった。
もしそんな言葉がアイツに伝わったらドン引きされるに違いない。それは大変困る。
なのでリッカはもう一つの方に絞って、反撃ののろしを上げる。
「ふふっ、部外者がどんなに吠えても意味はないさ」
「わたしとせんぱいは同じ部活。部外者はそっち」
「学校や部活なんてのは所詮、他人同士の寄せ集めさ、特別な関係を構築しない限りはね」
「……それなら職場なんてもっとそう」
「おや、こちらは勘が鈍いようだね? そうじゃない、ボクはアイツから明示的に特別な存在だと認められたのだよ」
「は? 妄想もいい加減に──」
「ボクは昔、アイツと付き合っていたことがある。いわゆる恋人同士というやつさ」
「…………!!」
ガンっ、と特大のスレッジハンマーでぶっ叩かれたような衝撃をカエデが受ける。
うそだ。そんなのうそに決まってる。
そう言い返してやりたいけれど、リッカの自信に満ちあふれた仕草の隅々から、その言葉が本当だと理解する。
それに先輩は中学生時代、恋人がいた。
カエデはソレを知っている。
……その別れた相手が誰なのか、そして別れた理由を詳しく聞いていなかったのは、今のカエデにとって致命的なミスだった。
もし聞いていれば「あんたに元カノヅラする資格なんて無いはず」というまっとうすぎる反撃によって、カエデは圧勝したに違いない。
「……そ、そんな過去のことなんて、どうでもいい……」
「ふふん、強がりかい? 声は完全に震えているし、顔だって今にも泣き出しそうだよ?」
「……過去は過去。今のせんぱいはフリー。大事なのはそこだけ」
「そうかい? でもボクが過去、アイツに選ばれたという事実は揺るがないよ」
「……男子中学生ならヤりたい盛り。女なら誰でもいいし、せんぱいの目が曇ってもおかしくない。でも今のせんぱいは紳士。リッカみたいなビッチは相応しくない」
「アイツが紳士だという点だけは激しく同意するけどね。しかし随分と自信過剰じゃないのかい? どのツラ下げて、アイツの恋人に自分なら相応しいと主張するのかな?」
「あらゆる点で。──なんなら勝負してみる? 絶対勝つけど」
「あははははっ! ボクが直接ケンカを売られたなんて、果たして何年ぶりだろうね? もっとも昔のやんちゃだった頃はよく売られたものさ。もちろんそいつらは全部ボクがキッチリと叩き潰して、身の程ってやつを骨の髄まで叩き込んでやったけれどね!」
「わたしも同じ。──今日、リッカは最初で最後の敗北を味わう」
「それはボクのセリフだよっ!」
──そうして。
恐ろしいほどに似たもの同士な美少女二人が深夜の露天風呂で、果てしない女の戰いを繰り広げたのだった。
ただの同族嫌悪ともいう。
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