第35話 後輩とえっちなみずぎ

 話し合いは混迷を極めていた。

 話はすぐに二転三転し、とにかく彼氏を誘惑しようって話になって。

 現在のテーマは『夏合宿、海で先輩を悩殺する水着選び』なのだけれど。

 これがまた、各自の意見が見事にバラバラなのだ。


「男がグッとくる水着といえば、なんといってもスク水! おれのAV監督としての経験から言っても間違いない!」


 などと撮影助手が吠えれば、電話の向こうのいとこは冷静な声で、


『いやいやいや、スク水とかさすがにマニアックすぎるでしょーが。ていうかカエデはスタイル滅茶苦茶抜群なんだから、そこを強調しないでどうすんのよ! ぜったいブラジリアンビキニとTバックで決まりでしょ、それももう水着だか紐だか分からないヤツ! カエデもそう思うわよね!』

『半分同意、でもそれは危険度が高い。あんまり露出が多いと、せんぱいにヤリマンだと思われるかもしれない。なのでわたしはその中間、V字でハイレグのスリングショットがいいと思う』


 なにしろこの三人、絶対に自説を曲げない。あとすごく主観的。

 なのでシロには、単なる性癖暴露大会にしか聞こえないのだ。

 もはや(仮名)かっこかめいも省略された熱い議論が展開されているのを、シロが魚の死んだような目で眺めていると、唐突に撮影助手が話を振ってきた。


「元カレさんはどうです、三人の水着のうちどれが一番エロいと思いますか? やっぱりスク水ですよね?」

「いや、ぼくは普通にビキニとかでいいと思うんですけど……それに似合う似合わないは個人によって全然違いますし」

「それはそうですね」

「なので実際に見ないことには、どんな水着がいいかなんて分かりませんよ」

「一理あります。ならばあちらの映像をこっちに繋ぎましょう」

「え、できるんですか?」

「この喫茶店、会議スペース用にプロジェクターも貸し出ししてるんですよ。あとはネットで繋げばそれでオーケーです。えっと、そっち側もそれでいいよな?」

『顔さえ映さなけりゃ問題ないでしょ。じゃあセッティングするわね』

『……わたしはその間、水着に着替えてくる』


 そうして10分ほどで会議スペースの壁にスクリーンと、そこに映写するプロジェクターが用意された。


『セッティング完了。お兄ちゃんは?』

「こっちもバッチリだ。映像映すぞ」


 スクリーンに女子高生らしき人物の胴体が大写しになる。あれがいとこなのだろう。もちろん顔は見えない。


『ああカエデ、やっと着替え終わった──ってなにそれエッロ! ちょっとあんた、エグすぎるくらいエロシコいんですけど!?』

『これは去年買った水着だから、着るのがすごく大変だった。胸が押し潰されて苦しい』

『去年ってカエデ、まだ中学生じゃない! なのにそんなエロすぎるV字ハイレグスリングショットなんて買ってるんじゃないわよ!?』

「……ほう、JC時代にもうスリングショットとは。なかなかAV女優の素質がありおる。ククク……」


 撮影助手がニヤリとしてスクリーンを眺めていたが、余裕があるのはそこまでだった。

 カメラの画角に水着姿のカエデ(仮名)が入ってくる。

 もちろん首から上は映っていない。


 ──リッカ並のスタイル、という言葉に何一つ偽りはなかった。

 片方でバレーボールより大きい乳房は、明らかに小さい水着に潰されて大きく押し潰されている。

 ウエストは折れるほど細く引き締まっている。

 ヒップは大きめの安産型、尻肉がキュッと上にあがって緩さをまるで感じさせない。

 ふとももはムチムチ、膝枕をされたらさぞ気持ちよさそうな──


「うっ」


 うめき声で振り向くと、撮影助手がピクンピクンと身体を小刻みに揺らしていた。

 その表情は恍惚そのもの。

 しばらくして震えが止まった撮影助手は、悟りを開いた賢者のような顔で告げた。


「元カレさん、失礼。ちょっとお手洗いに行ってきます」

「あ、はい。どうぞ」


 股間を押さえながら前屈みで出て行く撮影助手の背中を見送って、シロが改めて画面の少女に注目する。

 はっきり言って、エロいなんてもんじゃないくらいエロい。


『どうよ。カエデの水着姿すっごいでしょ、お兄ちゃん。破壊力抜群すぎない? っておーい、お兄ちゃーん?』

「えっと、今トイレに行っちゃいました」

『あー、そりゃまあ当然ですよね。それで元カレさんの感想は?』

「いや凄いです。これで落ちない男とかいるんですかね?」

『まー普通はそう思いますよね。でも元カレさんは平気みたいですけど?』

「いや平気じゃあないですけどね、でも元カノもスタイルが相当エグかったんで、ちょっとは耐性があるかもです」

『あーなるほどです。そっか、そういう線があるのか……』

「どうかしました?」

『カエデの狙ってる先輩も反応薄くて、わたしとしてはBLびーえる疑惑が大だったんですけど、そっかー、前の彼女がデカ乳で耐性があるって可能性もあるのかと』

「ありえますねえ」

『だったらやっぱりブラジリアン的なドエロ水着で、過激に攻めていったほうが……』

「いやいや、そういう男性なら逆に癒やしを求めてる可能性も大ですし、普通のビキニとかでいいんじゃないでしょうか?」

『……やっぱり間を取ってスリングショット』

「『それはない』」


 このあと結局、水着は清楚な感じを演出する白ビキニと決まるまでに、なんと二時間もの熱い激論が交わされて。

 二つ目の議題『先輩を誘惑するには、どんな色の紐パンが最適か』については、次回に持ち越されることになった。


 もちろんシロは用事があると伝えて、アホすぎる第二回作戦会議への参加を丁重にお断りしたのだった。

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