第26話 スタジオ撮影2
リッカがプールサイドにうつ伏せになってビキニの紐をほどくと、カメラもそれに合わせるようにローアングルになった。
同時にシロの元に駆け寄った撮影助手がサンオイルを手渡す。
「リッカちゃんイイ! プールの床に押しつけられて、ぐにゅ〜って左右に押し潰されたおっぱい最高だぁ! ──おいカメラ! リッカちゃんの押し出されてむにむにって滅茶苦茶はみ出た潰れ横乳ガッツリ映せよ! ムチムチ感が出てなかったら殺すぞ!」
「……ず、ずいぶん熱心な監督さんですね……?」
「あれ口癖なんで気にしないでください。根はいい人なんですよ……そろそろです」
「よーし元カレ、リッカちゃんの背中にサンオイルを塗りたくれ! はみ出たおっぱいの裏側まで勢いで塗りたくってもいいぞ!」
「そんなことしませんよ……えっと、こうですか?」
近づいたシロがカメラにできるだけ映らないよう気をつけながら、リッカの背中にサンオイルを落として手で伸ばしていく。
「ッ違う! もっとエロくだ、元カレ!」
「ええ……エロくってどんな感じですか?」
「感じろ! フィーリングだ! 魂なんだよ! お前がエロいと思った気持ちを、全力でリッカちゃんの背中に──ぶちまけやがれ!」
「そ、そう言われても……?」
「あはは。ねえキミ、あの監督の言うことマトモに聞いちゃダメだよ? どうせ言ってることはよく分かんないんだから、オッケーが出るまで色々変えてやってみればいいのさ」
たしかに周りの反応を見ても、いつもの監督の発作が出たというような扱いだ。
撮影助手も頷いている。
リッカの言葉が正しいと言いたいのだろう。
「じゃあまあ、マッサージ風にでも」
シロの手つきが変わった。
それまでの背中表面に塗りたくる手つきから、背中の筋肉を揉み込むような手つきへ。
まるでサンオイルを、肉体の奥深くまで染みこませるように。
「はふうっ……♡」
リッカが幸せそうに喉を鳴らす。
久々に揉んだリッカの背中はガチガチに凝り固まっていた。
リッカもすごく疲れてるんだなと思うと、たとえ振られた元カノではあっても、癒してあげなくちゃという気持ちが強くなる。
「いいっ♡ 気持ち良すぎるぞキミっ♡」
体内の老廃物を全部搾り出すように、時にはツボを指圧したりもしながら、シロなりのサンオイル塗りを続けていく。
リッカの背中に全力で集中していたので、シロは気付かなかった。
あれだけうるさかったヒゲ監督が口を閉じ、ギラギラした目で二人を凝視していた。
誰も、なにも、喋れなかった。
静寂に包まれた空間で、リッカの「……んっ♡ ……ふっ♡」という甘すぎる吐息と、窓の外からかすかに選挙カーのスピーカー音が聞こえた。新宿区にお住まいのみなさま、大文字為五郎、大文字為五郎をよろしくお願いいたします──
「ちょ、キミっ♡ 気持ちよすぎっ♡ このままだとボク、ばかになりゅっ♡」
リッカが息も絶え絶えといった感じで中止を求めてくるけど、監督からなにも声が掛からない。
シロがそっと顔を上げると、視線だけで人を殺せそうな目つきで監督がこっちを激睨みしていた。すぐに目を逸らす。
……今のがいいにせよ悪いにせよ、監督が声を掛けないと言うことは続行なのだろう。
でもこれ以上やりようもないと思うんだけどな……?
そう思ったシロはふと、リッカの胴体に押し潰されて盛大にはみ出たおっぱいに目が止まった。
(そう言えば監督「おっぱいの裏側まで塗りたくっていいぞ」とか言ってたっけ)
そしてシロは、芸能界にはヘンな風習があることも知っていた。
なので今の状況も、ひょっとしてそういうことかもと思ってしまった。
(……あれって芸能界的な使い方だと「塗れよ、絶対に塗れよ!」って意味なのかな?)
(……えっと、どうしよう……?)
(……もしかして、ぼくがおっぱいに触ってないから、監督は何も言わないで待ってるのかな?)
実際それは完全にシロの勘違いで、監督を始め一同がなにも言わないのは、リッカの声や表情があまりにクソシコすぎて、圧倒されていたからなのだけど。
もっともシロに言わせれば、リッカはマッサージに弱いのでいつもこうなる……という程度の話であったりする。
シロは見慣れているリッカの痴態だが、他の人間が受けたインパクトは大きすぎた。
けれどシロが、そんなことを知るよしもなく。
しかも初めての撮影でテンパっていることもあって、安易な思考で結論を出した。
(よし、揉もう)
そうと決まれば話は早い。
シロがほんの少し手をずらせば、背中に押し潰されてはみ出た横乳が、まるで潰れた中華まんみたいに盛り上がっている。
ごくりと唾を飲み込んで手を伸ばし──
「だ、ダメですよこんなのっ!! 終わりです終わりっっ!!」
直前で河合の絶叫が響いて、リッカの乳房が揉まれることは無かった。
「……マネージャーさん?」
「えっちすぎます! 犯罪です! こんな映像は18禁、いえ81歳以下禁止なレベルです! リッカさんとシロくんは、未来ある青少年のおちんちんをシコらせすぎてぶっ壊すつもりなんですかっ!?」
マネージャーの悲痛な叫びを聞いて、はっと周囲を見回すと。
スタッフ全員が内股でモジモジしながら、けれど鼻息も荒くギンギンに目を血走らせて、二人のオイル塗りをガン見していたのであった。
撮影がストップした直後、スタッフ全員がトイレへダッシュしたことは言うまでもない。
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