第24話 マネージャーと媚薬
シロの出演交渉は難航したものの、河合が宥めすかして最後は脅しまでかけて、なんとか承諾させることに成功させた。
なにしろシロは一介の高校生で、しかも押しに弱くて善良なタイプだ。
なので河合にマジ顔で「このアルバイトを受けていただけないと、最悪の場合弊社は倒産することになるかもしれません」などと言われてしまえば、いやそれぼくのせいじゃないし……などと平然としていることなんてできないのだった。
もっとも河合としても、話を多少持った気はするがウソをついたつもりなどさらさら無い。
もしも手違いで元カレに逃げられ、リッカが本気で激怒すれば十分あり得る未来予想図である。
とはいえシロに、いわれのない負担を掛けていることも事実なわけで。
「こちらとしても、シロくんの負担をできるだけ減らしたいと思っています。ですのでなんでも言ってくださいね」
「うーん、そう言われても……顔は映らないとはいえ、振られた元カノの動画に出演すること自体がキツいわけで……」
「その点はどうしようもありません」
「それに練習だってあるでしょう? これ以上リッカと顔を合わせる頻度が多くなると、やっぱり昔のことを思い出しそうで……」
「そうですね……」
現在はリッカは、週一のペースでシロのアパートに通っている。
だいたい仕事が押して深夜に到着、そのまま翌朝までお泊まりが通例となっていた。
河合にとって信じがたいことに、いまだエッチなことはしていないらしい。
正確には、探りを入れるとリッカは「ふふっ、まあボクも大人の女性だからね……野暮なことは言いっこなしだよ」などと虚勢を張るのだが、そもそも朝迎えに行くのは河合なのだ。
事後の男女の雰囲気かどうかくらいさすがに分かる、
アレは絶対ヤってない。
「動画出演については、シロくんが素人だと言うことは理解してますので心配いりません。ですがこれまでの企画も平行して続いていますので、シロくんのアルバイト日数はどうしても増える形になりますが」
「リッカってば、夜中まで騒いだあといっつも寝落ちしちゃうから、毎回ベッドに運ぶのも大変なんですよね……」
「床に転がしておけばいいんですよ」
「本当はそうしておきたいんですけどねえ? でも毎日仕事で疲れてるみたいだし、翌日も深夜まで仕事だって聞いちゃうと、それも可哀想だよねって思っちゃって……」
「……ご配慮いただき、誠にありがとうございます」
ふむりと河合が考える。
シロが後輩のカエデ相手にも練習しているなどとは夢にも思わない河合は、シロが演技練習したいのにできない環境で不安になっているのではないか、などと考えた。
シロは近くに居てくれるだけでリッカに対して特大バフ効果があるので十分すぎるのだけれど、まさかそう説明するわけにもいかない。なぜかとツッコまれれば恋心に言及するハメになるからだ。
ならばやはり、シロが女性相手に練習できるようにすべきだろう。
もちろん時給は支払うとして。
けれど自分以外の女をあのエロ台本の相手役として練習させたと知ったら、リッカの激怒はいかほどばかりか。
口が硬くて絶対誰にも漏らさない、それでいてシロの相手としてそれなりに魅力的だと思える女性。
河合はそんな人材に、一人だけ心当たりがあった。
「なるほど。つまり、シロくんがきちんと練習できればいいわけです」
「へ?」
「これからするお話は、誰にも漏らさないでいただきたいのですが」
「それってリッカにもですか?」
「もちろんです」
むしろリッカに話されるのが一番困る。ていうか致命傷だ。
「シロくんの練習に、別の人間──例えばわたしなどがお相手するのは?」
「え?」
「その方がシロくんも気兼ねが無いでしょうし、こちらとしても手間が省けます。いかがでしょうか?」
「え、えっと……たしかにぼくもリッカが練習相手なより、マネージャーさんの方がやりやすいとは思いますけど……」
「そうですか。では今から試してみましょうか」
「今からって……わわわわっ!?」
河合がその場で立ち上がると、スーツのボタンを取っていく。
締め付けから解放されたブラウスがたゆんと弾み、意外なほど豊満なバストが露わになった。続いてタイトスカートを下ろす。マネージャー業務で走り回って鍛えられた、肉付きのいいふとももが眩しい。
意外すぎる艶姿に目を丸くするシロに、河合がくすりと微笑んだ。
「ご存じないでしょうが、わたし数年前までグラビアアイドルをやっておりました。これでも一時期は業界トップだったんですよ? 最終的には偽スキャンダルをでっち上げられて、引退せざるを得なくなりましたが」
「そ、そうだったんですか……?」
「ちなみに胸のカップはJカップです。わたしの胸肉を10人分集めたってリッカさんの片乳にも勝てませんが、それでも並のアイドルに負ける気はいたしませんね……とはいえシロくんは、もう崖っぷち26歳処女のおっぱいなど押しつけられても、嬉しくなんてないでしょうか?」
「マ、マネージャーさん、一体どうしたんですか!? なんだかテンションおかしいですよ! それに練習だけならぼく一人でもできますし!」
河合の様子がおかしい原因。
それは実は、シロがお茶請けとして出されたクッキーにある。
リッカが持ち込んできたお土産をそのまま出したそのクッキー、実は河合がリッカに持たせた『ちょっとエッチな気分が盛り上がる、媚薬入りクッキー』だったのだ。
とはいえ本来ならば成分は微量、効果もほとんど見られないような、お遊び程度のシロモノなのだが。
運悪く河合はその媚薬にめっぽう弱い体質で、その日はかなり疲労困憊していたうえ、最近忙しすぎてシコる暇もなく欲求不満が溜まっていて……という事情が重なり、河合の熟れた肉欲が暴走してしまった結果がこのザマである。
正しく自業自得といえよう。
そしてもちろん、シロにそんな事情が分かるはずもなく。
「マネージャーさん、落ち着いてくださいってば!」
「わたしはいつだって落ち着いてます。──言っておきますが、これは仕事の一環なので勘違いしないでください。決してわたしが、あの世界最強ドチャシコゴッドであるリッカさんが付き合っていた元カレに興味があるとか、あの全身ドエロサキュバスリッカさんが唯一対等な男だと認める元カレのテクニックに興味があるとか、そういうことじゃないんですからっ」
「キャラ付けおかしくなってますよ!?」
「わ、わたしだって……シロくんみたいな彼氏が欲しいだけの人生だった……ぐすっ」
「今度は泣き上戸!?」
そうして最後はパンツ一枚の姿で、まるで酔っ払ったように寝落ちしまった河合は翌朝シロのベッドで目を覚まし。
朝一番から、ほぼ全裸土下座で平謝りしまくったのだった。
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