第17話 後輩と後輩の親友

 シロの部活唯一の後輩である七番ヶ瀬カエデには、佐藤ささみという親友がいる。

 中学の時、佐藤ささみがレイプされそうになっていたのをカエデが助けた事がきっかけで仲良くなり、今ではお互いに遠慮無い言葉を投げ合う仲になっていた。

 カエデが部活の先輩を狙っているのも、佐藤ささみだけは知っている。

 逆に佐藤ささみはカエデに助けられた事で同性愛に目覚め、カエデを荒々しく抱きたいと思っているけれど、こちらはさすがに話していない。


「ささみ。相談がある」


 昼休みにカエデが親友を手招きして、誰もいない屋上へと連れ出した。

 佐藤ささみはすぐにピンとくる。

 自分の興味がないものは基本どうでもいいカエデが、周囲を気にして話すネタなんて一つしか思い当たらないのだ。


「それで、カエデの相談ってなに? どうせ部活の先輩のことでしょ?」

「そう──緊急事態、発生」

「どうしたの、とうとう告白された? キスしちゃった? それとも最後までヤっちゃった?」


 当然のように聞いていけば、カエデ顔を真っ赤にして首をぶんぶん横に振った。

 このクソデカ乳でなにカマトトぶってんのと問い詰めたい。


 佐藤ささみの見解では、カエデがいまだに部活の先輩を落としていないことの方がよほど非常識だ。

 なにしろカエデは、男子のエロ妄想を完璧に凝縮したものが具現化して、服着て歩いてるような存在で。

 とくにカエデの滅茶苦茶大きいおっぱいを使えば、どんな男も絶対に落とせるに違いないのに。ていうか少しよこせ。


 ちなみについ入学したばかりのころ、佐藤ささみにとって大変悲しいお知らせがあった。

 それとある昼休みのこと。

 ──カエデちゃんのおっぱいって、他の女子と比べてどれだけ重いんだろうな──

 クラスの男子がそんな話をしているのを聞いて、カエデの身体測定結果を見せてもらっていた佐藤ささみは、つい思いつきで計算してしまったのだ。

 その結果。

 佐藤ささみ、推定重量50グラム。

 七番ヶ瀬カエデ、10キロまで計量できる秤が振り切れる。

 つまりカエデのおっぱいは、なんと佐藤ささみが200人分が束になっても敵わないという計算結果が出たのだった。

 佐藤ささみは泣いた。大泣きに泣いた。

 事情を知らないカエデが慰めてくれたけど、カエデのおっぱいが腕に当たって滅茶苦茶柔らかくて更に泣いた。

 不公平な世の中やで。


「それで先輩から告白してきた? それとも成り行き? んもう、カエデが告白すれば絶対に一発でオッケーなのに、カエデってば振られるの怖がってずっとウジウジしてるから──」

「違う」

「違うの? じゃあなによ?」

「……女の影」

「は? あの先輩が? マジで?」


 カエデには言っていないが、佐藤ささみはシロが本当は同性愛者ではないかと睨んでいたりする。

 だってカエデが後輩なのに、手を出してこないとか普通に考えてありえない。

 なので佐藤ささみはわくわくしながら見守っていた。

 シロが本当にゲイだった場合の未来予想図だってバッチリだ。


 1.片思いの部活の先輩に「すまない、ホモ以外は帰ってくれないか!」と言われて拒絶されたカエデ。

 2.傷心のカエデを慰めて好感度爆上がり。

 3.特選BL本を与えて「同性愛って、別におかしな事じゃ無いんだよ?」と囁いて慣らしていく。

 4.告白。

 5.カエデ「実はわたしも、ささみのこと、ずっとずっと気になってた……!」

 6.合体。


 ちなみに佐藤ささみは同性愛者でありBLも大好きなので、シロが同性愛者だったとしても思うところは別にない。

 やっぱゲイなのかしらん、だって受けっぽい顔してるもんねーってな所である。

 しかしその先輩がノーマルだというなら話が変わる。


「どういうことなのカエデ? 詳しく聞かせて」

「……うん」


 なにを思い出すのか、時折ちょっぴり涙目になるカエデをあやしながら、根掘り葉掘り話を聞いていくと。


「……ふーん? グラドルねえ?」

「そう。急募、グラドルに勝つ方法」

「でもカエデなら、どんなグラドルでも楽勝で勝てると思うけど?」

「そんなことない。世の中は広かった」

「そうなんだあ」


 この時カエデが、六郷リッカという名前を出していれば、その後の展開は変わっていたかもしれない。

 けれどカエデは、せんぱいを横取りしようとする泥棒猫の名前など口にするのも汚らわしいと言葉にせず。

 聞いている方だって、まさか親友が六郷リッカに対抗しようとしてるなんて想像もしなかったので、佐藤ささみが『泥棒猫』とやらの正体に気付くことは無かった。

 だいいち佐藤ささみを含めて世間一般の認識では、カエデは既にグラドルではなくスーパーアイドルもしくはトップスターである。


「あのねカエデ。そんなの方法なんて決まってるでしょ」

「……?」

「押して押して押しまくるの。ていうかいい加減、先輩に告白したら?」

「……そ、それは……恥ずかしいし、それにもし断られたら……」

「とはいえまあ、それができてたらカエデじゃないよね。だからプランB」

「ささみ……!」


 カエデがまるで救世主を見つめるように、目をキラキラと輝かせる。

 佐藤ささみがやれやれと肩をすくめた。

 彼女だって、親友には幸せになってほしいのだ。

 カエデはこれが初恋だって言ってたし。

 ただし初恋が破れた暁には、全力でソッチの道に引きずり込もうとしているだけで。


「いいことカエデ。とにかくアンタの武器はそのムカつくほど整った完璧美少女ヅラと、完熟メロンよりも大きいドチャシコクソエロバストなの。まずそこを自覚しなさい」

「そ、そう……? でもささみ、この前はわたしの脚、褒めてくれた……」

「カエデのムチムチ太腿も、セクシーなうなじも、たまに見えちゃう可愛いおへそも、もちろんエッチすぎるんだけど! とにかくカエデの最大の武器は顔! おっぱい! まずはそこで攻めまくるの! ていうか、なんで戦略核クラスの絶対男子殲滅兵器を2つも持ってんのに、普通の大陸弾道ミサイルで戦わなくちゃいけないのよ!」

「その例えはよく分からないけど……」


 カエデが困ったように首をかしげた。


「それにわたし、誘惑ならもうやってるし……」

「ふーん、どんな風にやってるってのよ? ささみさんに言ってみなさいよ」

「せんぱいを後ろから抱きしめるとき、おっぱい押しつけたりとか」

「ふんふん。後は?」

「せんぱいを演技の練習で抱きしめるとき、わざとおっぱいの谷間に顔を埋めたりとか……」

「うーん……なんというか、甘いわね」

「甘い!?」


 がーん、とショックを受けたまま固まるカエデ。

 佐藤ささみが偉そうに平らな胸を反らして、


「いやもちろん、普通の男子相手なら十分すぎるよ? ていうかカエデの爆乳でぱふぱふされたら、普通は男子のちんちん蛇口がばかになって、キンタマぶっ壊れるまでぴゅーぴゅーすると思うよ? でも相手はだからねえ」

「そんなの当然。わたしがおっぱいを押しつけたい相手なんてせんぱいだけ。ていうか揉まれたいし吸われたいししゃぶられたい」

「だったらもっと激しくアピールしなさいよ」

「どんな風に?」

「そうね……例えば『せんぱい! おっぱいが張って苦しいので、わたしの母乳搾ってください!』とかさ?」

「……母乳なんて出ない。わたし処女だし」

「そんなことどうでもいいのよ。誘惑ってのはね、ドキドキさせてナンボなの!」


 ちなみにリッカが台本を魔改変しているとき、ほぼ同じようなシーンを書き加えた結果、さすがにマネージャーからダメ出しされたことを二人が知るはずもない。


「ま、いきなりハードル上げるのも大変だとは思うけどね。でもさ、ちゃんとそういう意識は持っていかないと、このままズルズル時間が過ぎていっちゃうよ? 絶対に先輩のこと落としたいんでしょ? ラブラブになりたいんでしょ?」

「うん……分かった。がんばる」

「頑張ってねー」


 カエデが気合を入れ直す横で、佐藤ささみがひらひらと手を振った。

 彼女にしてみればカエデが上手くいこうがいくまいが、基本的にどっちでもいい。

 カエデの初恋も大事だが、もしもそれがダメだった時は計画通り、自分がじっくりしっぽり慰めてあげればいいのだから。

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