第11話 スポンサー

*閲覧注意。暴力表現があります。

 そういうのが苦手な人は読み飛ばし推奨。

 この話を読み飛ばしても、ストーリーは繋がるようになっております。


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 グラドルのみならず、芸能人が一番大切にしなければならない物はなにか?

 世間の評判? そんなものはお金で買える。

 けれどそれを買うためには、お金が必要で。


 そう、一番大事なのは大口スポンサー様だと、リッカのマネージャーである河合は断言する。


 いくらリッカが飛ぶ鳥を落とすスーパーグラドルであっても、いやそれだからこそ、スポンサー対応でしくじるのは大きなダメージとなる。

 なにしろリッカが直接対応するランクのスポンサーともなると、片手で数百億は軽く動かせる、政財界の超大物もしくはITや金融世界の超絶勝ち組経営者ばかりだから。

 もちろんリッカもそこは大人。

 愛想笑いもするし、下品な冗談に付き合ったりもする。

 その中でも特別な最上級VIPスポンサーが相手となれば、相手が強く希望すれば目の前でリッカがバストサイズを測ってみせたり、計量秤の上におっぱいをのっけて実測したりすらしてみせるのだ。


 大部分のスポンサーは、リッカに対して非常に好意的である。

 それに第一、もしもリッカの怒りを買ってヘイトツイートでもされようものなら、相当な大企業でも一発で破滅に追い込まれる危険性すらあった。

 今のリッカにはそれほどに影響力がある。

 けれどそれでも、中にはスポンサーという立場を利用して、リッカにセックスを迫ってくるような下衆げすな輩を排除しきれないもので。

 今日のスポンサーも、そんな下衆人間の一人だった。


 それでも最初は我慢して、作り笑いで相手をしていたリッカだが、その男のでついにブチ切れてしまった。


「……ほう。つまり貴方は、ボクの元カレが甲斐性のない粗チン野郎で、しかもセックスまでヘタクソだったと言うのかい……? アイツに会ったことすら無いくせに?」


 リッカが絶対零度の視線で男を睨むが、男はリッカの態度が変化したことに気付いていなかった。

 その男は、世界中で名を知らぬ者のない大財閥の六代目。

 若くして全世界の富の数パーセントを保有すると言われる男。


「そうだリッカ、キミは可哀想なガールなのさ。たった一人の昔の恋人が、小さくつまらない男だったことを認められず、おれのような素晴らしい男に抱かれるのを拒んでいる、ね」

「そうかそうか……ずいぶんと自分の夜のテクニックに自信があるようじゃないか?」


 リッカの後ろで立つマネージャーの河合は、ガクガク震えて膝から崩れ落ちないようにするのが精一杯だった。

 なんでこの男、リッカさんの絶対零度ブリザード殺気を浴びて平然としてられるのよマジ信じられない。

 こんな男でも修羅場をくぐったから……ううん。単純に、ブタ並に鈍すぎるだけでしょコイツ。


「もちろん、子作りにかけては誰にも負けないぞ! おれにかかればリッカだってただの女も同然だぜ! おれが本当のセックスってものを教えてやるって言ってるのに、リッカはいつまで逃げているつもりだ? 恥ずかしがるのも度が過ぎれば可愛くないぞ!」

「冗談も大概にしてくれと言いたいんだがね……どうやら本当に痛い目に遭わないと、いつまでも付きまとってくるようだ。ならばこちらも一つ条件を出そう」

「ファッツ?」


 リッカが椅子から立ち上がると、ゆっくりと服を脱ぎ捨てていき、やがてブラまで外して、ぱんつだけを纏った姿になった。

 男が血走った目でリッカを凝視する。


 河合は内心で十字を切った──処刑の始まりだ。

 リッカが目の前で服を脱ぎ捨てて、ぶっ壊されていない男は元カレ以外にいない。


「あんたの逞しい腕で、ボクを思いきりハグできるものならしてみればいい。──もしボクが納得のいくハグができたなら、あんたの嫁でも性奴隷でもなってやろうじゃないか。まあ命が惜しいのならば止めておけと忠告しておくよ」

「ハハハッ! そうかそうか、そういうことか!」


 リッカの言葉を、遠回しなプロポーズだと勘違いした男は俄然身を乗り出す。

 本当はその真逆、最後通告であることは、河合には明らかなのだけれど。


「じゃあ遠慮なく──こうだ!」


 男が素直にハグするように見せかけて、直前で腰を落として顔をリッカの剥き出しの谷間に思いっきり挟み込む。

 男は斬新なハグをしてみせたつもりだったけど、河合はマンネリのプロレスを見せられたかのような気分になった。

 なにしろ今までチャレンジした男は全員、まったく同じ事をしたのだから。


「ぶふふうっ──!?」


 リッカの恐ろしいほど張り詰めて形も完璧な乳房は、谷間に掛かる乳圧が非常に高い。

 それに比べるまでもなく、リッカの乳房は男の頭より大きい。

 その爆乳が左右から押しつけられ、きめ細かいもち肌が男の顔にピッタリ張り付く。

 鼻も口も乳肉に埋まってしまい息が出来ない。


「ぶふふうっ──!?」

「おいおい、このまま息をしなければ死んでしまうよ? とはいえ息止めの世界記録は24分だというから、頑張れば可能かもしれないがね──最後の忠告だ、ボクは今すぐギブアップすることをお薦めするよ。間違っても深呼吸などしてしまわないうちにね」


 もし男が全てを知っていたら、ほんの僅かな可能性に賭けて息を止めていただろう。

 けれど男は知らなかった。

 だから顔をよじらせ、大きく深呼吸して吸い込んでしまった。

 リッカのフェロモンが滅茶苦茶濃厚に充満する、おっぱいの谷間の空気を──


「あ゛っ♡ あ゛っ♡ あ゛っ♡」

「……ふん、落ちたようだね。クソ男の喘ぎ声なんて聞きたくもないが……」


 相変わらずえっぐい、と見ているだけの河合ですら慄然とする。

 それはリッカの甘すぎる谷間のフェロモン臭だけで、大の男が完膚なきまでにKOされるという、圧倒的なまでの格差を見せつける構図。

 リッカの超絶発育おっぱいの臭いをクンクンしただけで、オスの精神が根底からぶっ壊されてしまう、つよつよとよわよわの余りにも鮮烈な図式。


 いっそ残酷なまでの、一人のオスと一人のメスの果てしないレベル差。


 勝負がリッカの完全勝利であることは、誰がどう見ても明らかだった。

 男が深呼吸をしてしまった瞬間から、男が壊れた人形のように腰をカクカク震わせて。

 ビクビクン、ビクビクビクン……という男の全身の震えはおよそ10分間も続いた。

 世界中のVIPを迎える応接室に、例のイカ臭いにおいが充満する。


 リッカがうんざりした顔で、谷間から無理矢理男の頭を引っこ抜くと、そこには目つきがトロンとした、まるで欲望を全て吐き出したかのような男がそこにいた。


「さて、この勝負は貴様の負けだ。異論はあるかい?」

「あ、ありましぇんっ……♡ おれのようなザコオスに、文句なんかあるはじゅが、ごじゃいまひぇんっ……♡」

「そういえば負けたときの条件を決めていなかったね。望みがあるなら言ってみるといい」

「は、はいっ……♡ おれ、いえわたくしはっ……♡ これから一生、リッカ様以外で決してシコったりいたしましぇんっ……♡ わたくしの財産もザーメンも、全てリッカ様のものでしゅっ……♡」

「腐れ男の財産なんて興味も無いけど、まあ今後も適当にスポンサーを続ればいいさ。あと二度とアイツを侮辱するな。──次は本当に殺すよ?」


 断罪は終わった。

 それからの話をすれば、この男はこれから死ぬまでの間、総額で1兆ドル以上をリッカに貢ぐことになる。


 ****


 後処理を全て終えた河合が、肩をすくめてリッカに言った。


「リッカさん。──元カレを馬鹿にされた瞬間に静かにブチ切れるクセ、そろそろ止めてもらえませんかね?」 

「だが断る。それにどうせ、マネージャーはこうされた方が便利なんだろう?」

「まあそれはそうなんですが」


 リッカが元カレをバカにした相手をぶっ潰したことは、これが始めてではない。

 どいつもこいつもリッカの胸の谷間に自ら飛び込んで、生殖能力を完璧に破壊されたあげくリッカ専属おっぱいドランカーとなって人生全てを捧げることになった。


 起こった出来事だけ並べれば、なんてことはない。

 とある好色でド変態な大富豪がハレンチにも性的接待を要求し、リッカがイヤイヤながら条件付きで受諾した結果、男は約束を破ってリッカの胸の谷間に飛び込んだあげく、リッカに夢中になってしまった。ただそれだけのこと。

 芸能界のどこにでもある一ページだ。

 万が一リッカや事務所が訴えられても絶対に負けない。


 けれどその実態は、リッカの超絶すぎるエロサキュバス性能を背筋が凍るような苛烈さで見せつける殺戮ショーと同じなのだった。


「しかもだね、マネージャーはいろいろ言うけど、アイツはボクのおっぱいの匂いなんていくら嗅いでも平気なんだぞ? そのアイツを馬鹿にするんなら、ボクを満足にハグできるくらいは当然じゃないのかい?」

「はいはい」


 リッカが性的にバケモノなことは、とっくに知っていたけれど。

 元カレの方も相当みたいね、と河合は気を引き締めるのだった。

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