第2話『お、噂の不審者発見』

【ABAWORLD MINICITY HANKAGAIエリア 繝?ヰ繝?げルーム】


「へぽしっ!」

 ビタンッという音と共にソウゴは固い床に全身を叩き付けられた。

「痛ぇ! ……って痛くは……無いか」

 結構激しく叩き付けられたにも関わらず痛みは一切無く、ここが仮想空間だという事を再認識する。痛みは無いけど触覚があるのは何というか変な感じだった。それに相変わらず自分の声に凄い違和感がある。いや可愛らしい声ではあるけどそれを自分が発しているという事実に脳味噌が未だに混乱していた。

「うーん……慣れないなこれは……」

 そのまま床で蛙のように伸び続けるわけにもいかず、顔だけ上げて周りを見渡した。

「ここは……?」

 そこは壁も床も薄緑色をした部屋だった。結構広くて小学校の体育館くらいある。ただ本当にだだっ広いだけの空間で殺風景極まり無い。床にも壁にも模様すらなく緑一色で目に良さそうだなという変な感想しか浮かばなかった

「よっと……――あぁ……やっぱりこれ完全に女の子だよなぁ。うわっ顔小っちゃ。腕細っそ」

 ソウゴは床から立ち上がり、改めて自分の姿を確かめ始める。自分の顔に触れたり、手を見てみたが物凄く変な感じだ。体格も変わっているせいか視界も大分下になっている気がする。しかしそれにしても……。

「本当に別人になった気分……凄い技術だな、これ」

 手足の感覚も完全に現実とは違っている。動作が軽いというか機敏というか。でも違和感なく動かせる辺りこれは凄い技術なんじゃないだろうか。声は未だに慣れないけど……。何となくピョンピョンジャンプしてみたり、クルっと一回転してみたりする。動く度にスカートがヒラヒラしたり髪がふわっとして何というか落ち着かない……。よくよく考えたらこの姿は姉さんが使っていたアバとかいう奴? なわけだ。だからこそ女の子の姿なんだろう。つまりこの容姿も姉さんが考えたのだろうか……?

「……姉さんがこういうのが好みだったのは意外だな。もっと渋いデザインが好きそうだったけど――それよりここ出口あるのかな……あっ!」

 壁際に扉のようなモノがあるのを見つけた。あそこから出れそうだ。小走りでそこへと向かい手で扉に触れた。

『注意!』

「うわ!?」

 音声と共に突然目の前にパソコンのウィンドウのようなモノが飛び出してくる。思わずビックリして手を引っ込めてしまった。ウィンドウにはデカデカと【一定期間ログインが確認されなかったため再度表示】とタイトルが書かれており、その後ろにつらつらと注意書きのような物が羅列されている。内容は……。

「――この仮想空間【ABA・WORLD】での生活がここから始まります。この仮想空間で生活している人たちはあなたと同じ現実の世界の人間です。それを考慮し、公序良俗を弁え、マナーを守り、思いやりを持って行動しましょう――か。やっぱり普通のゲームとは違う感じなんだなぁ。注意しないといけないか」

 改めて身を引き締めるとウィンドウを押しのけて、もう一度扉に触れて押した。ゆっくりと扉が開き始める。それと同時に視界一杯に光が広がり始めた。

「わぁお……」

 思わず感嘆の声が漏れる。扉の先には想像を超える光景が広がっていた。

 そこには【街】があった。まるで繁華街のように様々な建物が立ち並び、色鮮やかなネオンや電飾が施された看板が見える。どことなく未来的なデザインが何れも施されていて、ここが現実ではないことを否応なしに実感させられた。

 そして次に目に付いたのが、見渡す限りの人人人。様々な姿をしたアバたちが往来を歩いている。ロボットみたいな恰好の人。動物を擬人化したような姿の人。どこかで見たようなアニメキャラクターのような容姿の人もいた。それぞれが独特な姿をしており個性がある。その人たちは歩きながら談笑したり建物にあるお店のようなところで買い物をしたりしていた。

「本当に生活してるって感じだ。流石仮想現実……」

 ふと背後を振り返って自分が出てきた扉に目をやる。まるで廃ビルのような……というより出てきたのは廃ビルでそこの下にある扉だった。随分辺鄙なところからスタートさせられたみたいだ。改めて喧騒の方へ向き直る。何度見ても凄い人の数だ。この中に姉さんの事を知ってる人がいたりするのだろうか。元々姉さんはここに来ていたわけだろうし。でも……。

「……流石にちょっと直ぐ聞き込み出来そうな雰囲気じゃない、か」

 いくら何でも往来しているアバたちにいきなり色々訪ねて回る勇気は無かった。ここに歩いている人全員、姿は特殊だけど現実の人間が中にいるわけだし、邪魔しちゃ悪いだろう。というか話し掛けるのが怖かった。あまりにリアルな仮想現実過ぎて人と接するための距離感が全くわからない。そもそも話し掛け方がわからないという問題もあるけど……。

「……取り合えず歩こう」

 そう思って自分も往来へ足を踏み出し、歩き出そうとした。

「お! もしかしてキミぃ~ニューフェイスかい~?」

「へ?」

 突如背後から陽気そうな男の声で話し掛けられ、思わず振り向く。

「ボ、ボーン!?」

 喧騒の中からソウゴに向かって話し掛けてきたのは、どう見ても動く人間の骨格標本にしか見えないアバだった。頭にソンブレロ(後で知った)を被っている以外は全裸(?)のその骨格標本は顎の骨をカチカチ言わせながらこちらへ笑顔を向けてきた。

「うぉ~生のバトルアバ会ったの初めてだよ! コンチハ!」

 そう言って骨のアバは握手を求めてくる。ソウゴは戸惑いながらも応じた。

「あっ、えっと……こ、こんにちは……です」

 ネット初心者特有の妙な丁寧語になりながらソウゴは挨拶を返す。掌に骨特有の固い感触があり、何とも言えない気持ちになる。そんなソウゴを気にせず骨のアバは楽し気に会話を続けた。

「ねぇねぇ! 新人だよね、キミ! ネームなんて言うの!」

「ネ、ネーム? あっその……名前は……ソ――はっ!?」

「ん~? どったのさ?」

 口ごもったこちらに不思議そうな表情を浮かべる骨のアバ。うっかり実名を答えそうになったがよく考えたらここはリアルではない。流石に本名を答えるのは不味いくらいのネット知識はソウゴにもあった。慌てて事前に登録させられた名前を言った。

「ミ、ミカです……」

「はぇ~ミカちゃんって言うのか! ボクは556だよ! 五百五十六って書いてゴゴロー!」

「ど、どうも556さん……」

「いやーやっぱバトルアバってモデリング気合入ってるよなぁ~! 声もくっそ可愛いし!  最高かよ! ワハハ!」

「は、はぁ……?」

 よくわからないがどうも褒められているらしい。その勢いに押されながらソウゴは握手を続けさせられていた。周囲にもこの大騒ぎの様子は聞こえているのか何人かのアバが振り向いてきている。ちょっと気恥ずかしい。

「あっ! そうだ、そうだ! SS撮らせて!」

 ※SS スクリーンショット。パソコン上で画面を画像として撮影する機能。

「えっ? あっ!」

「ほい! 笑って~」

 556と名乗ったアバはあっという間にミカの横に移動すると何か小さいウィンドウを出現させて、操作した。

「はい! チーズ!」

「チ、チーズ……」

 反射でピースサインを出してしまうミカ。どこからかシャッター音のような音がした。撮影とやらが終わったのか556が満足げにミカから離れる。そして嬉しげに感謝を伝えてきた。

「ありがとー! うへへ~♪ あっ! このSSはフォーラムに貼ったりしないから安心してくれよ! 飽くまでボクの記念品にするからさ! ミカちゃんが有名になった時にこのSS見て悦に浸る用だから!」

「そ、そうですか……?」

「そんじゃ! デビュー待ってるぜ~!」

 そう言って556はその場から足早に去って行く。後には呆然としているソウゴだけが残された。

「なんだったんだ……?」

 全く何が起きたのかわからない。まるで嵐のようだった。

「……取り合えず分かったことがある」

 実名を使わないように注意する。流石に不特定多数から見られているこの仮想空間で本名がバレるのは良くない。これからあの登録した名前の【ミカ】って方を使うべきだ。慣れるまで時間掛かりそうだけど……。それとこれが姉さんのアバである以上、発言とかにも気を付けた方が良さそうだ。自分の発言が姉さんの発言になってしまう可能性がある。誰が聞いてるかわからないし。

「これからは、注意した方が、良さそうですね……」

 完全にネット初心者特有の変な丁寧語になっている事に気が付かず、ソウゴ改め【ミカ】は今度こそ往来に向かって歩き出した。


【ABAWORLD MINICITY HANKAGAIエリア ふかの池公園】

「はぁー……」

 ウロウロとさ迷い歩き、辿り着いた公園のような場所。ミカはそこにあった噴水のへりに座り、すっかり疲れ果て、一人溜息を吐いていた。

「……疲れた」

 556との嵐のような会話から既に二時間ほど経っている。肉体的な疲労は仮想現実だから無い筈だけど精神的な面で疲労してしまった。

 あれからミカは色々とABAWORLDの洗礼(?)のようなモノを受けていた。

 まず色々と目新しい物だらけの街を歩いていると、周囲から妙に視線を集めてしまっていた。理由はわからないけどみんな何故かこちらを珍獣でもいるかのように見てくる。流石に視線が気になりすぎていたたまれなくなり、人の多い往来から逃げるように離れてしまった。

 裏通りのようなところは人が少なく、ここなら少しは落ち着いて聞き込み出来るかもと一念発起。早速近場のお店の人に話し掛けた。それがNPCと気が付かずに。

 ※NPC ノンプレイヤーキャラクターの略。

 当然、決まり切った固定の台詞しか喋らないNPC相手に暫く問答を繰り返し、悲しき一人芝居を演じているのを周囲のアバに見られていた。

 横から親切なアバが「それ、NPCですよ」と声を掛けられ、顔から火を噴きそうな気持ちになりながらそのアバに教えてもらった礼を慌てて告げ、その場から逃亡した。

 そしてこの公園に流れ着き、今に至る。ミカは少々不貞腐れながら呟いた。

「……この仮想現実がリアルすぎるのが悪いんですよ」

 あのNPCの店員も本物の店員のようにしか見えなかった。街を歩くアバたちも、この公園も、目の前にあるもの全てが現実の物のように錯覚してしまう。ふと腕を上げて手を風に翳す。風が軽く吹いているのを感じた。まるで本物の風のように、この世界にも風が吹いている。脳波シンクロ式のVRがここまで現実と相違無い物だとは思わなかった。

「……一旦、戻りましょうか……現実に」

 歩き回ったせいか肉体的な疲れも蓄積している気がする。慣れない状況も相まって本当に疲れているかもしれない。

「……そもそもこれどうやってゲーム止めるんですかね……ヘッドセットこの状態で取れば良いのかな」

 そう思って頭に手をやってヘッドセットを持ち上げる動作をする。ヘッドセットが取れる代わりに被っている軍帽がポンッと脱げた。

「…………クルクル~」

 投げやりに軍帽を指を刺してクルクルと回す。固い材質なのか指を軸にして綺麗に回転した。

(これどうすれば良いんだ?)

 呆然自失になりながら途方に暮れていると、急に上方から誰かの声が聞こえてきた。

「お、噂の不審者発見」

「ふ、不審者!? どこに!?」

 誰か怪しいのがいるのかと思ってミカは慌てて周囲を見回した。

「いや、あんただよあんた。よっとっ……」

「わっ!?」

 ミカの目の前に一人のアバがどこからかシュタッと飛び降りてきた。

「へぇ。ホントに出来の良いモデリングしてんだな、あんた。金掛かってそうじゃん」

 そこにいたのは不思議な姿したアバだった。

 吸い込まれそうな程碧い髪色のショートヘア。これまた作り物みたいに碧い瞳。整った中性的な顔。しかし碧いボディースーツのような物を纏った身体の方は関節の部分に継ぎ目があり、人形みたいだった。目を凝らしてよく見ると身体の至る所に人工的なラインや機械的な意匠もある。それに……。

(男性……いや女性?)

 意図的に中性的なデザインなのか顔を見ても、身体を見ても性別が判別出来ない。声はハスキーだから男っぽいけど……。

 全身骨格の556も人間離れした姿だったけど、このアバはまた別の意味で人間離れした容姿だった。

「あ、あの何か……?」

「あんただろ? 挙動不審な行動してるバトルアバって」

「きょ、きょどうふしん……」

「タウンの方でお上りさんみたいにキョロキョロしてたり、NPCに話し掛けたり、挙動不審の不審者以外の何物でもないだろ」

「み……見てたんですか!」

「ハハハッ! バトルアバがあんな奇行してたらそりゃ見たくなくても見ちまうよ。ただでさえバトルアバってだけで目立つのにさ」

 朗らかに笑いながらそのアバはミカの前に胡坐を組んで座り込む。そしてミカを見据えた。

「あんたHNは?」

 ※HN ハンドルネーム。インターネット上で使用する仮名。

「ハンド――あぁ、名前はミ、ミカですけど……」

「ふーん。オレは【B.L.U.E】って言うんだ」

「ブ……え?」

「ビーピリオド、エルピリオド、ユーピリオド、イーピリオドだよ。こうしないと名前が被って登録出来なかったからさ。まぁ読みはブルーで良いわ。自分でも呼ぶの面倒だし。しかしそれにしても――」

「ひゃい!?」

 そのアバは急にミカへ近づき、その碧い瞳でこちらの顔を覗き込んでくる。いきなり急接近され思わず悲鳴を上げてしまった。

「――あんたマジで良く出来てるな。顔のグラも良いし、コスも気合入ってる。この出来でレディメイドって事無いだろうし、どこがスポンサーに付いてんだ?」

 ※レディメイド 大量生産の既製品。

「ス、スポンサー?」

「バトルアバなんだからスポンサー付いてんだろ」

 。ここABAWORLDに来てから何度も聞いた言葉だ。あの556もこちらのことをそう呼んでいた。ミカは思い切ってその事をブルーと名乗ったアバに尋ねてみた。

「あの……すみません。そもそもバトル……アバってなんですか? お……私このゲーム始めたばっかりで……わからないんです……」

「は?」

 ミカの発言に呆けたような表情をするブルー。一気にその表情が訝し気なモノへと変わった。

「……若しかしてあんたって改造か? 不正アバって奴?」

「えっ!? ふ、不正!?」

 動揺するこちらを余所にブルーは右腕を虚空へ翳した。ピコンッという軽い電子音と共に小さいウィンドウがミカとブルーの間に現れる。そのウィンドウに指を這わせて何かしら操作し始めた。

「――【バトルアバ・ミカ】――バトルアバ登録は……なんだあるじゃん。ちゃんと公認のリストにも入ってるし、しかもガチガチのデルフォのお墨付きマーク付き。不正アバだったら通報してやろとか思ってたのに」

「公認って……?」

「ほれ」

 ブルーはウィンドウを回転をさせこちらに向かって見せてきた。そのリストには色々な名前が羅列されており、その最下部の辺りに確かにミカの名前がある。ご丁寧に顔写真のような物まで載っていた。

「あんた、ミカって言ったっけ? 何か面白――複雑な事情ありそうだな」

「……それは……」

「そのアバの出所も気になるしちょっと話してみろよ。話半分に聞いてやるから」

「……私は――」

 ミカはブルーへ事情をある程度かいつまんで話始めた……。


 ミカが様々な事を話し終えるとブルーは思案顔で何か考えていた。

「……ふーん」

「あ、あの……?」

 考え込んでいるブルーの様子から流石に信じてもらえなかったか、と不安になるミカ。

「面白いじゃん。姉ちゃん探してABAWORLD来るなんて」

「信じてもらえましたか!?」

「いや完全に信じてはいねえけど」

「えぇ……」

「まぁ与太話にしては面白いなとは思ったわ。後、あんたが実際スポンサー無しのバトルアバ使ってんのは事実だしな。筋自体は通ってる」

 そこまで言うとブルーは小さなウィンドウを掌に表示させ何か操作をする。すると急にミカの前にもウィンドウが現れた。

「ふれんどとうろく……?」

「何だよフレ登録も知らないのか……本当にネット初心者って感じだな、おい。承認って書いてあるボタンをタッチすれば申請が受理されるから押してみろ。ポンッとな」

「こうですか?」

 ミカが点滅している承認ボタンを指でタッチする。するとピコンッという音と共にウィンドウ上に【B.L.U.E】の名前が表示された。

「オッケー。これで晴れてあんたとオレはフレになったわけだ」

「あの……フレンドって?」

「まぁ友達になりました程度に考えときゃ良いよ。これ登録しとけば連絡とか色々便利だから」

「なるほど……」

「さて……」

 突然、ブルーは真剣な表情になる。そしてミカにズイっと近付いて尋ねてきた。

「――ガチで聞きたいんだけどマジで中の人、男なん?」

「は、はい。そうなんです。姉さんのアバ使ってて……」

「どうみても声、女なんだけど? ボイチェンには聞こえないし」

「それは私にもよくわからなくて……喋ると勝手にこの声になるんです」

「すげー……本物の自動調声かよ。それまだ一般普及してねえ技術なんだぞ。そこまで完璧に声を変えるの。たはー……遂にここまで来たか……」

 そこまで言ってブルーは俯く。何かショックを受けているようだ。一体どうしたというのか。

「あの……どうしたんですか?」

「なんちゅう羨ましい奴なんだ、あんたは!」

「へ? ……うぇっぷ!?」

 ブルーはミカの肩を掴み興奮した様子でガクガクと揺すり、まくし立てた。

「好きなだけアニメ声になれるんだぞ! 自分のもっさいボイスに苦しまなくて良いとか、最高だろ! SVRになってから外見はどうにか出来たのに、声はどうにもならないから超不満だったのがやっと解消されるんだぞ!」

「ゆ、ゆらさ、ゆらさない、で」

「はぁ~ウラヤマだわマジで。なぁ? あんたミカって言ったっけ? 姉ちゃん見つけたらオレにもその技術横流ししてくれって頼んでくれよ。絶対流出させたりしないからさぁ、グヘヘヘ……」

「ぐぇぇ……」

 揺れる視界で気持ち悪くなりながらミカは呻き声を漏らす。そんなミカを気にせずブルーは手を離すと上機嫌な様子で立ち上がった。

「取り合えずオレもミカの姉ちゃん探しってヤツを手伝ってやるわ。どうせ暇だしな」

「ほ、ほん、とです、か」

「ま、本音言えばバトルアバのフレって貴重だからってのもあんだけど。あぁそういや……バトルアバの事も知らないんだっけ。あんた」

「……うぅ……やっと揺れが治ってきました……そうなんですよ。皆さん、私の事をバトルアバって呼ぶんですけど……それって普通のアバと違うんですか?」

 やっと揺れが収まってきたミカは被りを振って頭を正す。そして前々からの疑問を再び口にした。ここに来てからみんながこちらの事をと呼んでいる。今思えば往来をさ迷っている時も何人かのアバはこちらを見てそう言っていたかもしれない。

「全く、違うぞ。なにせ――ん?」

 そこまで言い掛けてブルーが自分の腕を見る。小さめのウィンドウが腕のところに表示されていた。そこを眺めつつ困ったような表情をする。

「あっわりい……バイトの連絡きちまった。続きはまた今度な」

「あ、あの!」

 その場から去ろうとするブルーをミカは引き留める。あることを聞き忘れていた事を思い出したからだ。

「なんだ?」

「最後に一つだけ良いですか!? 重要なことなんです!」

「良いけど……? どしたん?」

「こ、このゲーム、どうやって止めるんですか!?」

「……ハァ?」

 ブルーは恐らく今日一番呆れた顔をしていた。


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