第19話 恥ずかしい格好
「今日という今日こそは、あんたを魅了してやるわよ!」
月麦の部屋の中で、俺たちはいつものように向き合っていた。
「はいはい、わかったから早くしろって。どうせ今日も俺の勝ちなんだから」
「くううぅ、バカにして! そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちよ。今日は秘策を用意したんだから!」
秘策という言葉に、俺は嫌な予感がした。こいつの考えることだ、どうせろくなもんじゃないに決まっている。
「今回は自爆しないんだろうな?」
「しないわよ! もうあんな恥ずかしいこと二度とするもんですか!」
月麦は顔をリンゴのように真っ赤にして言った。
さすがにこいつも、自分の下着を見せるなんて致命傷を負うような作戦はしない方がいいということを学習したらしい。
「今から準備するから待ってなさい。いい? 絶対に部屋の中から出てくるんじゃないわよ! それから、ものを勝手に触ったりしらだめだからね!」
「触らねえから早く準備しに行けって、時間がもったいねえだろ?」
月麦は不満そうにこちらを
なぜか家庭教師に来た生徒の部屋に一人で残される俺。意味が分からない。
「あれ、大地くん一人だけ? 月麦はどこいったの?」
そうして俺が暇を持て
最近知ったことだが、日葵さんはお菓子を作るのが趣味らしい。
このお皿の上に載っているクッキーも、きっと彼女の手作りなのだろう。
「月麦は俺を魅了するための秘策があるから準備するって言って出ていきましたよ。日葵さんは何か知りませんか?」
「秘策? うーん、私は何も知らないかなあ」
いったい何が出てくるというのだろう。というか、あいつ遅くない? どれだけ大掛かりな準備しているんだ?
「ふふ、じゃあ月麦が来るまで二人で休憩してよっか。大地くんはいつもみたいに冷たい麦茶でいいかな?」
「はい、ありがとうございます!」
もう今日は月麦が帰ってこない方がいいや。俺は日葵さんとお茶をしながら、ふたりでのんびりと世間話をして過ごすんだ。
そんなことを考えていたら部屋の扉が開く音がした。どうやら月麦が戻ってきたようだ。
(くそ、あいつめ。まだ日葵さんとおしゃべりすらできていないのに!)
まるで俺の心を読んで邪魔をしにきたかのようなタイミングでの帰還に不満を覚えながら、俺は月麦のほうに視線を向けた。
そして、その姿を見た俺はあんぐりと口を開けて固まってしまった。
「待たせたわね。この格好であんたの前に出るための心の準備に時間がかかったけどもう大丈夫よ! さあ、勝負を始め……ってええええ! なんでお姉ちゃんがいるの!?」
彼女はスクール水着、いや、スクール水着みたいな服装だった。
胸元は水着の生地とは異なり白いひらひらした薄い布切れで、そこにはたくさんのフリルがついている。
腰回りにはこれまた白のエプロンが巻かれていて、メイド服にも見えた。
足はニーハイの黒いストッキングでその
言うならば、男の性癖を全部詰めわせたコスプレっぽくてなんともエッチな姿だった。
「どどど、どうして!? 普段はわたしの勉強の邪魔をしないようにって、ずっと下のリビングにいるじゃない!」
「邪魔はしないつもりだよ。いつもこのくらいの時間になったら、月麦は魅了魔法を大地くんにかけるのをあきらめて勉強を始めているから、飲み物をもってきただけだよ?」
日葵さんはニコニコと笑って言った。
「でも月麦、その姿すごくかわいいね。猫耳もついているし、首に巻いているのは鈴かな? ふふ、本物の猫ちゃんみたい」
日葵さんは月麦の頭をよしよしと撫でた。それと一緒に鈴がちりんと鳴った。
「でも、ちょっと見た目の刺激が強いかな? お外でそれを着ちゃだめだよ」
「にゃああああ! そんなこと言われなくてもわかってるんだから言わないでええええ!」
いよいよ月麦の
「とにかく、早く出てってよお姉ちゃん!」
「あ、そうだよね、お勉強の邪魔をしたらダメだもんね。大地くん、あとはよろしくね」
こんな格好の月麦を前にして、俺はいったい何をよろしくされてしまったのだろうか?
月麦は日葵さんが部屋を出ていくのを見届けると、へなへなと座り込んでしまった。
「こんな恥ずかしい格好をお姉ちゃんに見られた……もうだめ、わたし生きていけない」
月麦はずーんと落ち込んでいた。
つけている猫耳までしゅんとして垂れているが、あの耳は感情に連動して動いたりするんだろうか?
「面倒くさかったけどコンビニで支払いと受け取りをして、お姉ちゃんにこんなものを買っているところを絶対に見つからないように
俺は月麦の行動に妙に共感を覚えてしまうのだった。
俺も実家暮らしのときは、ネットで買ったちょっとえっちなやつを、海羽と母上に見つからないようにこっそりとコンビニへ受け取りに行ったもんだ。
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