ねずみの三兄弟

Miya

ねずみの三兄弟

とある森の山小屋に、ねずみの三兄弟が住んでおりました。長男のカールは兄弟の中で一番足が速く、次男のミールはとても利口でした。三男のテールだけこれといって自慢できるものがありません。太っていて頭も悪く、ただいざって時に悪知恵だけははたらくずる賢いやつでした。

ある春の日、三兄弟は小川のほとりにある木苺を詰みに来ました。しかし森には自分たちを食べようとするたくさんのけものがいます。十分に気をつけて行かなければなりません。三兄弟は木の根と根の間を素早く移動し、野花や岩陰に身を隠しながら無事、木苺のある小川へたどり着きました。しばらくして、足のすばやいカールが木苺の場所を見つけると、二人も喜んで駆けつけてきました。

「いいかい二人とも、木苺はここにたくさんある。欲張らないで、ここで少し腹ごしらえしたら、あとは手分けして持ち帰ろう」

カールは実に長男らしく、二人に言い聞かせるように言いました。

ミールとテールはうなづくと、一つずつ木苺を手に取り、赤く熟れた木苺を食べ始めました。

「そうだ兄さん。僕にいい考えがある」

次男のミールは得意げに言いました。ミールは近くに生えていた柏の葉と木のツルを採ってきて、器用にそれを組みはじめました。やがてできがったのは、ツルで匠に編まれた手作りの籠です。

「ミール、いったいこれは何に使うんだい」

三男のテールが聞きました。

「これさえあればここにある木苺をありったけ載せられる。小屋に持ち帰ってもしばらくはたらふく食べれるだろうさ」

それを聞いた二人は大いに喜びました。食いしん坊なテールなんかはとんではしゃいで大騒ぎです。

三兄弟は籠に木苺をありったけ載せて、予定よりも早く小川を出発しました。出発してしばらくすると、背後の頭上からがさっと木々の揺れる音がしました。そうです。フクロウです。三兄弟は少し油断していたようです。しかしどうでしょう。たくさんの木苺を載せた大きな籠は、彼らが逃げるには大きな障害となっているではありませんか。

ずる賢いテールは考えました。この籠さえ手放せば、三人とも走って逃げ切れるかもしれません。でもせっかくの赤く熟れた木苺です。手放すのは少々惜しく思いました。

「カール兄さん、兄さんは僕らよりもずっとすばやいだろう。どうか僕たちが逃げる時間を稼いではくれないか。きっと兄さんならフクロウだって追いつけないはずさ」

テールは長男のカールにそう調子のいいことを言ってやりました。

「よしいいだろう。二人とも、僕がお前たちの逃げる時間を稼いでやるから先にお行き」

カールはついつい得意になり、そのまま道を別れてしまいました。ですが相手はフクロウです。いくら足が速くても、追いつかれるのは時間の問題です。まもなく二人の耳にはカールの悲鳴が聞こえてきました。

残ったミールとテールは走り続けました。やがて自分たちの山小屋が見えてきます。しかし不幸なことに、小屋まであと少しというところで、腹を空かせた小さなヤマネコが現れました。二人は動揺しました。ヤマネコは小屋の入口を塞ぐようにして佇んでいます。

そしてテールが口を開きます。

「ミール兄さん、どうか僕を先に逃がしておくれ。君は僕より頭が良いだろう。僕が逃げたあとでも、兄さんなら何とかなるはずさ」

テールは上手く言いくるめたつもりでした。しかし、ミールは騙されません。

「その手には乗らないよ。兄さんは不幸だったけれど、僕は死にたくない。僕が残っても生き残る保証なんてないんだから。それに囮になるなら君だろう。どうせ生きてても、大した仕事なんかできないじゃないか」

ミールはそう言い捨てました。それに腹がたったテールは、ミールをヤマネコの前へ突き飛ばしてしまいます。ミールに気づいたヤマネコは徐々に近づいて来ます。ヤマネコを目の前にしたミールは、恐怖で何もすることができませんでした。次男のミールが襲われているすきに、テールは籠を抱えながらヤマネコの横をすり抜け、逃げ出します。やがてミールの悲鳴が聞こえてきます。

無事に山小屋に着いたテールはほっと胸を撫で下ろしました。一息つくと、テールは木苺を一つ手に取りかじりました。いつもなら騒がしい小屋の中が、今は嘘みたいに、静寂を装っていました。しんみりした空気に耐え兼ねて、テールは一人呟きました。

「せっかくたくさん木苺があるんだ。どうせなら屋根裏の小窓で、日に当たりながらゆっくりと楽しもう」

テールは少し重たい足取りで屋根裏へと足を運びます。そしたら何やら美味しそうな匂いがしてきました。チーズです。テールの大好物です。チーズは木の板の上に固定されておりました。テールは何も怪しむ素振りもなくチーズにかじりつきました。その瞬間ガチャっと、何かを捕らえる音がしました。


三兄弟のねずみの話はこれでおしまいです。

窓から様子を伺っていたのですが、彼の最後は実に呆気なかったですね。彼は悲鳴なんてあげることもなく、すっぱりと首をやられていました。

私? 私はフクロウです。そうです。あのフクロウです。彼らのことは最初から最後までずっと見ておりました。本当は三匹とも捕まえるつもりだったんですけれど。あの太ったねずみが最後、次男のミールまで囮に使うとは私もさすがに驚きです。あんな冷酷なやつを私の子どもたちに与えるわけには行きません。

それがどうでしょう。最後は自分で首を締めに行ったではありませんか。実に愚かです。あれがもし、賢いミールだったら、あんな罠にとっとと気づいて避けていたかもしれません。可能性は低いですが、もしすばやいカールだったら、間一髪で回避した可能性もあります。まあどちらにせよ、あの二人は今頃私の子どもたちの胃袋のなかです。

しかしながら、私の子どもたちも三兄弟です。あの愚か者を抜くとなると数が足りません。少しばかり大きかったですが、ミールを襲おうとした子ネコをいただきました。まだ柔らかくて実に美味しそうでした。

こうして彼らは私の手によってさばかれることとなったのです。ええ、世界は残酷です。

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