第4話 黒い希望
真依に何度連絡しても返事はありませんでした。
当然ですね。僕に婚約者がいて、その女性も妊娠していることを黙っていたのですから。
数日出勤してこないなと思っていたら、真依は休職することになったと発表されました。
驚いたことに、隠していたつもりの僕と真依との関係を皆が知っていました。妊娠のことまでは知られていませんでしたが、僕のせいで何か気を病んで真依が体調を崩したのだと噂が広まりました。
優奈は母親と実家に籠っていましたが、ストレスのせいか残念ながら流産してしまいました。
もちろん即破談です。高額な慰謝料を請求されました。僕ひとりではとても払えない金額です。
自分の親に殴られながらもなんとか少し援助してもらえる話にまとまりました。
しかし僕の親も優奈の実家が裕福なことにいくばくか期待していたようで、そこと縁が切れたうえに慰謝料まで支払うことになるとは、と延々毒づかれました。
真依は相変わらず音信不通でした。
そうこうしているうちにもお腹の子はどんどん成長しているはずで、僕は頭の中で色々なシミュレーションをしていました。
優奈とのことが白紙に戻ったので、真依と結婚して普通に子育てをしていくのもありだとも思い始めていました。ただ、真依に対して以前ほどの愛情を持てなくなっていることに自分自身気づいていました。これから何十年も真依と一緒にいられる自信がありませんでした。きっと何かにつけて僕を束縛し、厳しく詰問してくるでしょう。
僕は密かに真依の流産を願うようになりました。
なにもかもリセットしたくなったのです。あまりにも黒い側面を持った希望なので、自分でもそんなことを思ったのが恐ろしくなりました。
何度も打ち消そうとしましたが、消えては現れ消えては現れ、その希望は徐々に大きく膨らんで居座るようになりました。
優奈との結婚が白紙になったのはもったいないことでした。彼女と結婚したらきっと楽な人生が送れたに違いありません。でも、前にも言いましたが自業自得なのです。
せめて真依が妊娠しなければ良かったのに、と僕は悔やみました。優奈の妊娠がわかった時点で真依と別れられれば万事OKだったのです。妊娠しなければ、ではなく妊娠させなければ、というのが正しいですね。
しかし僕は、真依の妊娠が全てを壊したのだという考えにとらわれ、いつしか真依を恨むようになりました。お門違いと言われればその通りです。
でも、夜一人になると優奈と結婚したら手に入っただろう未来を色々と考えてしまい、悔しくて涙が出てくるのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます