第3話 まさかの結果

真依はたしかに魅力的です。僕にはもったいないくらいのレベルの女性なのです。

しかし、真依の積極性が少々重荷に感じはじめていた頃、婚約者との結婚の日程も具体的になってきていました。ドレスも選び、招待状も準備し、詳細を詰める時期となりました。

ちょうどそのころでした。

真依と優奈、二人とも妊娠していたのです。


これがまさしく修羅場なのだなと、まるで他人事のように思っている自分がいました。

対処しきれない出来事が起こったとき、人は思考を停止してしまうんだと思います。

自分の親と優奈の親、両方から殴られた僕は口の中を切り、頭にこぶを作りました。

でも、そのときはもう隠さなくていいのだと、発覚を恐れていた数日の間よりは気が楽だったのです。


優奈の妊娠がわかった時、結婚式の前ではありますが、優奈の実家は喜んでくれました。

どうせ結婚するのだから、少し順序は違ってもまあいいじゃないかという意見が大半でした。

父親だけは明らかに怒っていましたが。

優奈自身も喜んでいて、ドレスをもう少しゆるいものに替えるということ以外は、あまり深く考えていないみたいでした。

その喜びから一転、僕が真依と浮気していたと知り、しかも妊娠までさせていると知ったときの優奈側の人たちの驚きやいかに、です。


優奈はというとただ泣くばかりで、真依のことを追及もせず、婚約破棄だと僕を責めるでもなく、引きこもり状態になってしまいました。

優奈の母も、僕のことを人間のクズだとか、二度と現れるなだとか言って罵り、何度も蹴ったりしましたが、一番大事なのは優奈の身体だということで、娘共々実家に籠ったきり、出てこなくなりました。


真依の部屋で妊娠を打ち明けられたときのことです。僕は既に優奈の妊娠を知っていました。

僕たちは真依のベッドで裸で寝転がりながらテレビを見ていて、ベッドサイドのテーブルにグラスを置いてちびちびとカンパリソーダを飲んでいました。

僕はカンパリを何かで割った飲み物が好きで、でもこれは苦味があるので昔ほどは流行っていないみたいです。真依はこれまた奇遇なのですがカンパリが好きで、二人で大瓶を買ったのです。

ワインとは違うインクのような明るい赤色が不思議にきれいで、色からイメージする味とは全然違っているところもまた面白いというのが二人の共通の意見でした。

「ねえ」

「なに?」

「生理来なくて検査したの。そしたら妊娠してた」


まずはどこから何を真依に話すべきか、僕は頭の中が混乱してしまいました。

優奈の父親に頼んでお金を用意してもらい、中絶することにしたいと真依に謝るか、それとも婚約のことを話して、私生児として子供を産んでもらい僕は頑張って二重生活をするか。


「あ・・・あの、ほんとなの?妊娠」

「見る?検査したスティックとってあるよ」

見なくても本当だと思いました。真依はそんな嘘をつくタイプではないのです。

「ごめん。謝らなきゃいけないことがある」

「なに?」

真依の顔は凍りつくような無表情でした。

「僕、婚約者がいて近々式を挙げるんだ・・・真依の妊娠を聞いて、今どうしたらいいかわかんなくなってる」

真依は無言でした。自分の身にこんなセリフを言う場面が訪れるなんて予想もしていませんでした。

現実味のない沈黙の時間、僕は真依の二の腕のなめらかな肌をじっくりと見ていました。

真依がなにか発言してくれないと、次にどういう態度に出ていいのか全くわからなかったのです。

「ごめん。本当に」

真依は何も言わず、ベッドで毛布にくるまって向こうを向いてしまいました。

その日は、結局ひとことも口をきいてくれなかったので、僕は真依を刺激しないようにそっと部屋をでて、あとから改めて連絡して話し合おうと考えました。

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