熊の王

「なんとか……間に合った」


シンは、肉食獣の死体の山を築き上げ、その隣に座り込んだ。返り血と自らの傷、どちらかもわからないほどに血塗れになっていた。


目を閉じると、〝Lv.5〟と表示されている。


今までのレベルと身体能力の上昇を考えれば、おそらくキンググリズリーの攻撃にも反応できるようになったはずだ。


「よし」






#






「何か変わったの? 作戦でも考えた?」


訝しげにこちらを見るエレナ。


一週間、彼女には大人しくしてもらった。


その不満からか、何も策が無ければ承知しないというような、そんな顔だ。


「もう勝てる。信じて戦え」


「あなたが戦うことを止めたんじゃない! 言われなくても戦うわよ」


こちらを睨む彼女の目は、シンにもわかるほど不安を孕んでいた。




キンググリズリーの住処へ向かう道すがら、シンは言った。


「不安ならやめるか?」


「……今更引き返すつもりはないから」


こわばった表情。恐らく、一週間という時間が彼女を冷静にさせたのだろう。


対峙した時の殺気、死と隣り合わせの緊張感、絶対的な力の差。彼女は本当はわかっていたんだ。今の自分では勝てないことを。


「日和ったか。勝てねーと思ってるだろ」


「なっ! ……あなただって、無理してるんじゃないの。あれだけ大口叩いたから、引き返せなくて」


どちらからともなく、立ち止まる。もう、キンググリズリーの住処は間近。緊張感からか、エレナの額には薄っすら汗が滲んでいた。


「……お前がちゃんとすれば勝てる。ただ、俺もお前もお互い一人では勝てない。俺たちは今から命を預け合うんだ。とにかく信じろ」


俺が差し出した手を、彼女は真剣な眼差しで握った。


手を繋いで歩くように。


「そうじゃねえ、どう考えても握手だろバカ! もう行くぞ」


シンは、照れを隠すようにそのまま手を引き、走り出した。


「えっ⁉︎ あ、いや、わかってるわよ! 冗談! 離して!」


「グルルル……」


道中、グリズリーやレオパルドが現れるが、エレナの能力で難なく凍らせて動きを止めながら駆け抜ける。


「なるべく消耗を抑えろ。敵の足元だけ凍らせれば動きは止まる」


「……文句ばっかり」


「なんか言ったか?」


「なんでもないですよーだ」


緊張感の無い女だと、シンは少し呆れた顔をして立ち止まった。


「この木を抜けたらキンググリズリーの住処だ。少し休んでから行こうか」


エレナは肩で息をしている。


「……いい、このまま行く」


シンはエレナから顔を背けてため息をつき、「意地っ張りな奴……」と呟く。


「足は引っ張るなよ」


「こっちのセリフよ」


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人 工 天 使 @urey

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