第4話

 皆の衆、知っているだろうか?海外の入学の次期というものを。

 春じゃないの?と思う読者もいるだろうが、それは大きな間違いだ。何故なら海外では主に秋が入学のシーズンであることが一般的であり、日本の様に春が入学シーズンであることの方が世界的に見て少ないのである。つまり、これがどういう事か。

 異世界は基本的に現実世界とリンクする場合が多い。欧州などをモデルに世界観を設定しているのに何故か四季が存在していたりする。

 そこで一つ疑問が生じる訳だ。

 なぜあの世界は秋に入学するはずなのに、入学して2年生にならないと訪れない筈の夏が1年生の間に訪れてしまうのだろうか?それはすなわち、その世界が春入学の風習であることを示しているのに他ならない。

 そして四季というのは日本独特の気候であることは読者の皆様は承知の筈だ。同じ日本の中でも北は北海道、南は沖縄の気候でさえもガラッと変わる。となればヨーロッパの気候が日本と違う事も容易に想像がつくだろう。

 しかし、ヨーロッパモデルの世界であるにも関わらず、どの世界にも大体四季が存在する。そして私は一つの結論に思い至った。


 この世界ってヨーロッパモデルじゃなくて、日本モデルなんじゃね?と。


 キャラのビジュアルや建築などは確かに中世ヨーロッパ『っぽい』印象は受ける。しかし細部にどうにも日本を拭えずにいるパターンが先ほどの入学時期や四季の存在の様に目立つわけだ。

 存在しない筈の四季。ずれている入学シーズン。

 こういった要素から、この異世界というジャンルは地理的、風習的に非常に日本と近い関係にあると言える。

 異世界だから考えすぎ?そうとも言える。しかし、そこでやめては面白くないじゃないか。ちょっと考えをやめずに進めるだけで、こんなにも考察が出来る。意外な発想が生まれる。読んでる読者にちょっとしたインスピレーションを与えるかもしれない。思考放棄をやめるだけでこんな影響を与えるんだ。だからこそ言いたい。


「生徒諸君!!本を読む際は適当でもいいから考えることをやめるな!!やめた時点で思考は終了ですよ!!!」

「せんせー、言葉は分かりますけど意味が分かりませーん」


 全く、しょうがないな生徒Aくんは。それじゃあ君のためにもう少しかみ砕いて説明するとだな。


「まず前提から結論まで意味不明です分かる話しろ。って言ってんですよ王子」

「なんだい生徒B。ノートもとらないで立ち尽くして。授業を受ける気が無いなら即刻この教室から立ち去りなさい」

「ミジェロです。直ぐにでも逃げ出したいですけど一応仕事中なんで、というかいつまでやってんですか?」

「んー、俺の気が済むまで。もしくは生徒達こいつらが飽きたら」

「「飽きた!!!」」

「よーし正直で結構!それでは本日の授業はここまでとする!!次回は『異世界転生におけるパラメータとスキルの矛盾点について』だ!しっかり予習復習してくるように!」

「「はーい!!」」

「それでは解散!」


 そう言うと生徒こどもたちは四方八方に飛んでいった。うんうん、子供は元気が一番だ。


「それで、何の話だったっけミケ君?」

「あとどれくらいで『異世界恋愛小説のシーンにおける地理的視点から見た矛盾点について』の講義が終わるかって話です」

「お、意外と親身に聞いてくれたな?なんだよ興味津々だねミケ君」

「ミジェロです。というかいつまでやるんですか?」

「あん?もう終わったのが分かんないのか?」

「そうじゃなくて、いつまで辺境の街で子供に勉強教えてんのかって事ですよ」

「あー、そっちね」


 なんだよそんな事か。今更始まった事でもないのにミケ君ってば女々しいなぁ?


「ま、俺の話に興味なくして誰もここに来なくなったらやめるさ。意外に話聞いてくれて続いてんだよな勉強会これ

「あのガキ共そんな風に聞いてないと思いますよ?『なんかデカい声で変な人が面白い話してる』って噂聞きつけて参加したって、さっきここに居たガキの一人が言ってました」

「それで結構。勉強なんて面白く出来る所はしてった方がいいだろ?机にかぶりつくのも一つだけど、それ以外で身に付くんならその方が断然いい」

「て言っても今回の授業ほぼほぼいつもの王子でしたよ?」

「今日は俺のリラックスタイム。毎回毎回勉強話ばっかだと俺が勉強に殺される」

「そう思うならやめればいいでしょ?」


 ミケ君が呆れ気味に俺を見つめてくるが、分かってないなミケ君?


「いいか?これは勉強と言ってもきっかけに過ぎないんだ。もし仮に俺の話を聞いて新しい知識を付ける事に興味を持ち始めるガキが居れば、そいつは俺以上に有能な存在だ。なんせ勉強が好きなんだからな!そっからは我が貴族御用達の英才教育でビシバシステータス上げてってウチの能力アップに貢献してもらうだけよ!!そう考えればこんな一過性の疲労なんざ目でもねぇくらいのリターンが帰って来るぜ?」

「そういうのって王子曰く『取らぬなんとかの……なんとか』って言うんじゃ?」


 ミケ君が頭を掻きながらそんな馬鹿をかましてきた。女子受けはいいだろうが、俺には通じんぞ。


「捕らぬ狸の皮算用だ!いい加減覚えろ!それに皮算用ではないさ。最近アルファ君に助手付いただろ?アイツウチ生まれだぜ?」

「え?あの白衣ゴリゴリに似合わない強面野郎が?……どおりで貴族出身の筈なのに言動が変だと思った……なるほど」

「そ、後ウチの執事の見習いの茶髪坊主もスラム出身だし、意外とウチって調べると貴族様御用達の『何故平民がこんなところにいる!!』っていうような奴わんさかいるぜ?」

「反感買いません?」


 ミケ君は浅いな。買わせないようにする方法なんざいくらでもあるぜ?

 

「買わない買わない。寧ろ買わせねぇよう口封じは十分にしてある」

「……まさか金じゃないですよね?」

「んな訳あるかよ。もっと合法で強力な奴だ」


 故郷と似た雰囲気だからって思考も染まるのは良くないなーミケ君。悪事働いてる奴は弱み握られたらとことん弱いんだぜ?そして弱みは正攻法でも作れんの。


「育てた奴らの内で特に優秀な奴は他の貴族に雇わせんだよ。そしてそいつらが実績を出せば貴族共も文句は言えねぇだろ?」

「よく貴族が平民生まれを雇いましたね?プライド高いですし、考えずに突っ返しそうですけど」


 甘いなミケ君。そういった前提が間違っている。


「雇わせる奴はバカだから送られた奴が平民かどうかも調べない。俺もそういう奴等を選んで派遣しているし。信頼という物は相手の事を100%信じる事ではなく、99%の真実を基に1%相手を信用する所から始めるんだよ。其処を分かってないねあいつ等は」


 名言っぽくいってみたが寒すぎんな。意味も分からん。


「詐欺師かなんかですか?」

優秀な人材・・・・・を求められただけで身分は求められてないんだ。合法だろ?」

「……そうなんですかね?」


 そうなんだよミケ君。世の中口八丁で乗り切れるものは乗り切ったほうが良いんだよ。これだから真正面からドラゴンと斬り合う脳筋は……いや、普通にかっけぇな。俺もそっちがいい。

 さて、そろそろ帰るか。こっからウチに帰るまで長いんだよなー。


「さーて、そんなしょうもない話で時間潰してないでさっさと帰ろうぜ?地味に歩きだと距離あるんだよなー」

「そうです……「ししょー!遅れましたー!!」ね」

「おん?」


 遠くの方からなんか活気のいい声が聞こえてきた。その方を見るとなんか元気にステータス全振りした見た目の同世代の中性的な子供が走りながらこっちに向かってくる。つーかどっち・・・だ?男とも捉えられるし、女とも見て取れる……美形の中性型騎士か……アリだな。


「なんだミケ君?君も隅に置けないな?俺が熱心にガキどもに講義をしている最中、君はこの子とチョメチョメしてたのか?騎士の風上にも置けんなぁ?」

「ミジェロです。違いますよ、こいつは……「おいおまえ!師匠に対してなんだその言い方は師匠はとんでもなく凄い人なんだぞ!お前なんか一撃で、あいた!」とりあえず黙れ。王子のバカ話が終わるまでその辺突っ立ってたらなんか突っかかって来たんで適当に相手したらなつかれただけです。別に師匠でも何でもないですよ」


 うーむ見事なデコボコ感。良いコンビな感じがするねぇ?年も近いしノリが逢うのかもな。


「きみー、名前なんて言うの?オレ、一応君の師匠の上司みたいなもんだから弟子の・・・君の名前は聞いときたいんだけど?こいつが弟子を取るって話は全く効かなくてなー?一番弟子・・・・の君の事は興味があるんだ」

「……王子」


 見た感じ美形だしひょっとしたらの可能性を考慮して名前を聞いておく。少しばかり弟子の部分を強調するのがポイントだ。ミケ君が何か言いたそうにしてるが無視だ無視、社会って言うのは虚実が入り乱れているんだよ。


「……はい!エメリーって言います!師匠とはもう長い間教えを受けている師匠の一番弟子です!!!」

「おい」

「そうかそうか!エミリーって言うのか!!なるほどなるほど!ちょっと師匠借りるよー!ミケ君カモン!」「ミジェロです」


 そう言って俺はミケ君を肩で寄せて一番弟子、エミリー君に聞こえないように隠密会議を開く。


「で、実際どうよ?エミリー君のセンスの方は?」

「だから師匠じゃないって……」「どうなのよ?」

「……」


 有無を言わさない俺の意志の強さにミケ君は一瞬口を閉じるが、やがてため息をついて口を開く。


「中々容量はいいですよ?まともなところで十全に教えれば更に伸びるんじゃないですか?」

「ほほ~う?殺竜鬼ドラゴンスレイヤーお墨付きか~?こいつは上玉かな?」


「??」


 オレは振り返ってエミリー君を観察する。エミリー君は良く分からず小首を傾げるだけだった。俺には屋敷で勤めてる兵士とどこが違うのかてんで分らんが、ミケ君が言うならそうなんだろ。


「よし!エミリー君!」

「は、はい!」

「君、ウチくる?」

「は?」


 その言葉にエミリー君は瞬きを何度かして固まっていた。そんなに以外?


「えっと、どういう事で……」

「いや、ミケ君の弟子ならミケ君がいるウチに居た方が上達しやすいでしょ?だったらウチに来ないかって誘ったんだけど?」


 するとなんか後ろから肩を掴まれた。なんだよミケ君?


「なーに勝手に進めてくれてんですか!!?俺はやりませんよ?教えるなんてやったこともないし、やりたくないです!!」

「おいおいわがまま言うんじゃねぇよ?お前ももう十分高みには至ったんだから後進育ててみたらどうだ?」

「まだそんな年じゃないですよ!!それに!判断基準もクソもないじゃないですか!俺の評価だけでそんな重要なこと決めないでくださいよ!!100%相手を信じちゃ駄目ってさっき言ったばっかでしょ!!」


 弟子を持つのがそんなに嫌なのか、必死に抵抗してくるな。しかしミケ君にしてはおかしなことを言う。


「なーに言ってんだ?お前の見る目があるのは事実だ。だったら99%信頼してもOKだろ?」

「……騙されませんよ」


 そう言いつつ肩から力抜いてくれるミケ君ったら優しー。さて、話を進めるか。


「で、どうする?」


 流れ的にOKしてくれないときついんだけどな?少し待つと、エミリー君は答えた。





「すいません。家業の農作物を育てなきゃいけないんで無理です」





 あれ?これってOKの流れじゃなかった?

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王子ですが特に気にせず馬鹿してます。 極丸 @kmhdow9804

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