第3話

 この世界にはモンスターがいると言ったな。






 あれは嘘だ。


「グルォアゴギュガアアアアアアアアアアアア」

「くっそがーー!なんだって一国の王子がこんな最前線でドラゴンとガッチンゴッチンしなきゃなんねーんだよ!!こー言うのは愛国心高めな騎士がやるもんだろうがー!今こそその力を開放する時だミケくーーん!!」


 と言えたらどれだけ良かったか。オレは必死に我が忠実なる従者の1人であるミケ君に助けを求める。さぁミケ君!君の君主がピンチだぞ!今こそ、その忠誠と騎士の誇りを解き放つ時だ!!


「騎士に愛国心なんてあるわけないでしょ?と言うかオレこの国結構嫌いですし潰れて欲しいです。がんばれドラゴーン、あと少しでお前は国崩しの英雄として讃えられるぞー」

「テメェふざけんなよ!これ終わったあと覚悟しろ!」

「終わった後って事はオレ手出し不要って事ですか?じゃお言葉に甘えて、ちょっと休憩入りまーす」

「あああああああああ!待ってミケ君置いてかないでーーーー!」

「ギュグルゥウアアアアアアア!!」

「おおおおおお!」


 くっそこいつ完全に殺意剥き出しじゃねーか!なんだってこんな荒ぶってんだよ!初対面だろ俺ら!!


「くそがー!ここで死んでたまるかよー!必殺!パイロ・トリニティ・アブソリュ―ショーン!!!」


 俺は決死の覚悟で編み出した必殺技を繰り出した。なんか良く分かんない魔法陣が出てきてそこから炎の鳥が三羽飛び出してきた。その鳥は一直線にドラゴンに向かい、最終的にドラゴンは消し炭になった。


「フフフフ……この俺が編み出した秘奥義パイロ・トリニティ・アブソリューションを見たか!?たかがドラゴン一匹には造作もねーんだよ!!」

「そのネーミングセンスダサいんでやめてください」

「お!ミケ君!ようやく帰ってきたか!!どうかねこの俺が完成させた必殺技は!!ドラゴンも一撃だぜ!!」

「ミジェロです。必殺技ってあれただの第三級魔法でしょ?そこに付加魔法バフ取りえず盛りまくって火力上げただけじゃないですか?誰でも出来ますし効率悪すぎますって。次使えるのいつです?」

「最低でも5か月後」

「燃費悪いな」

「悪くて結構!バフ全部盛の効率ガン無視脳筋キャノンは男のロマンだ!」


 ミケ君はやはり分かってないな?枯れてるとしか言いようがない。あの神々しいロマン砲の魅力が何故分からないんだ?アルファ君に構想を伝えた時は大好評だったのにな?


「しっかし、軽い偵察だってのにどうなってんだ?ちょっと散策しただけであんなドラゴンが恐慌状態でその辺闊歩してるなんて聞いてねーが?」

「おそらくここの領主が討伐隊派遣の資金横領したケチったとかじゃないですか?ここの領主子煩悩の守銭奴で有名ですし」

「まじで?」

「ええ、噂ですけど近々15になる息子に平民の女性をプレゼントするらしいですよ?しかも10人。ジャンルも熟女から幼女までより取り見取りって話です」

「うっわ生々し。なんでそんな領主この日まで生き延びてんの?」

「首都から結構離れてますからね。首都の連中も、辺境領主の悪行なんざ興味ないんじゃないですか?ここの領主も分かってて辺境に移ったかも知れませんし」

「どんな業界も闇が深いな……まさか金握られて無いよな?」

「可能性ありそうですね。というか握らせたまであるんじゃないですか?例えばですけど、ここの領主が上層部の弱みを握っていた。それに気付いた上層部が『辺境に飛ばす代わりに良い思いをさせるから黙っといてくれ』とか?」


 どこぞの古い御代官様じゃねぇんだぞ?何で異世界来てまで昭和の時代劇に付き合わされにゃならないんだよ。ま、今回のドラゴンから噂じゃない可能性が浮上した以上やるしかないか。


「ありえそー……今度の決算報告の際に金の流れ見とくか。多分不自然な金がある筈だろ」

「物品取引の可能性もありますね。検挙するにしてもそこまでの利益は見込めないでしょうけど」

「いやそれ以前の問題だろ?ここまで尻尾を出さないとなると、領主だけじゃなくてグルの可能性が大きいだろ。完全な犯罪者集団だぜそいつら?しかも!この国の第一王子である俺を!死地に追いやって来たんだぜ!!!許せねぇよ!!」


 そう、俺を死に目に合わせたのだ。徹底的に叩かねぇと気が済まねぇ! 


「その辺はどうでもいいです」

「おおおおい、ミケ君。たまに君が何で俺の従者やってるか分かんなくなる時あるんだけど?」

「自分で考えて下さい」

「ねー待ってってばー!」


 なんかミケ君が先先足早に去っていった。

 男のツンデレはバトル物でしか需要ないぜ?


「あー、なんだって視察って名目の気分転換の小旅行でドラゴンに襲われてんだか?しかも小物領主の検挙まで予定に入って…………やってらんねーーー!!」

「入学決定しちゃったのはお気の毒ですね。でも良いじゃないですか、ロザリエさん来るんですから。離れ離れになる訳じゃないですよ?」


 何とも不思議そうな顔でミケ君がこちらを見ながらそう聞いてきた。

 全く分かってないなミケ君は。


「ちげーんだよミケ君。俺が入学する事でロザリエさん救済プランの難易度が大きく変わるんだよ。なんせ原作という名の運命強制力は凄まじいんだぞ!!どんな回避行動をとったとしても100%追尾してくるし、最初を上手く交わしたとしても継続して策を練り続けなきゃいけない。ここが重要なんだ。そしてこの原作における回避すべき運命は主に二つ!一つはロザリエさん悪役令嬢堕ち回避ルート!二つ目に俺の主人公完堕ちルート!この二つをこなさなきゃいけないんだぞ!難すぎんだろ!!」

「ミジェロです。今のロザリエさんがそんな悪役みたいな肩書付くような真似しますかね?」


 ミケ君が小首を傾げる。その様子は普段とのギャップを誘い女性が黄色い声援を上げそうだが、今この場には俺しかいないの何の感情も抱かない。残念だったな女性貴族!ミケ君は俺のもんだ!     やりますねぇ

 やばいこれ以上は腐ったサムシングが向かってきそうだからやめとこ。


「だから言ったろう?恋は人を狂わせるんだ。今まで仲睦まじく交際していたが、たった一人の女性の介入によってすべてが崩れ去るなんて事はあり得る話だよ?って、アルファ君が言ってた」

「あの魔法中毒者また振られたんですか?とことん女運ないですね?」


 あれは女運が無いというより女がアルファ君の世界観に付いて行けんだけだろ?女受けはいい儚い甘い顔立ちで同世代でありながら魔法学会の教授という絵に描いたようなハイスペックだ。将来有望で貴族の身分を得るのも時間の問題だからか言い寄る女性が多く、最近何度も交際の報告を聞くのだがそのどれもが2か月経たずで破局している。まーあの変態っぷり見たら千年の恋も覚めるわな。あの世界観に付いて行けんのはそれこそ主人公位だよ。


「まー自由恋愛が多少緩和されたとはいえ、恋愛する本人プレイヤー自身の本質は変わんないわな。効率重視でスチル集めに奔走するタイプなのか、純愛主義で自分の推しキャラ以外のルートは完全無視で進めるかはプレイヤーそいつ次第だし……見えた結果ではあるだろ」


 現・国王おやじが恋愛結婚だったからかその前例により自由恋愛が緩和されたが、大きくは変わってない。女は年収爵位で男を鑑定するし、男は男で性欲世継ぎ以外眼中にないし。まー、それで判断してきた歴史が長すぎるから、おいそれと変えられんわな。俺やミケ君、アルファ君が異端なだけだし。


「とはいえミケ君は引く手数多だな?やっぱ最後は顔か?」

「どうなんでしょうね。自分は貴族じゃないんで分かんないです」

「いやいや、いずれ君も爵位を持つんだから気にしといたほうが良いぞ?どうせ俺が国王就任する際はその騎士が爵位持ちじゃないと示しがつかないとかなんとか理由付けてお前も貴族の仲間入りだ。女性貴族もそれ狙いでお前に唾付けに行ってんだろうし、役得だと思って何人か食っとけよ」


 我ながらクズな発言だな。将来どうなる事やら。碌な死に方しそうにないな。あれ?俺ってひょっとして悪役?


「クズですねそいつ。絶対権力持っちゃ駄目なタイプですよ。そういうのって手痛いしっぺ返しがお決まりでしょ?」

竜殺鬼ドラゴンスレイヤーが何をおっしゃる?武力で訴えられてきてもお前なら一発だろ?」


 武力イズ権力。偉い人もそういってた。ミケ君に勝てる奴なんてそうそうおらんだろ?モーリーさんもそうだけどこいつも出る作品間違えてるよな?もうちょっと設定恋愛シミュレーションに寄せていこうぜ?俺を見ろよ、もう設定欄貴族の王子ぐらいしか重要な要素ないもん。お前らみたいな武力関係のスペック一切載ってないんだぜ?えらくね?


「というか、やりませんし貰いませんよ。それにこの国の女性って性格ブスが多いんですよ。そんなんじゃ盛り上がるもんも盛り上がらない」

「あっちの意味で?」

「どっちもです」

「ブッハッハ!!最低な事かましたなこの国の英雄が!!」


 やーっぱ男同士ってこういう馬鹿な会話できるから楽だわ。貴族同士だと昭和の肩パッド並みに肩肘張るからメンドクセェ事この上ない。こういう生産性のない会話こそが男の楽しみ方の一つよ。あーあ、早く貴族辞めたい。でもやめるとロザリエさんと合えなくなるからやめられないんだよなー?ショーもないジレンマ。笑ってごまかすか。


「低俗な事で笑いましたね、この国の未来が。オレ亡命しようかな……」

「いいんじゃないか?どうせこの国平民への圧力凄まじいし、ぶっちゃけ領主殺せんならもう何人生き残ってるか分らん位にヘイト溜まってるからそろそろ革命起きる頃間と思うぞ?」

「予測してんなら早く会議で伝えたらどうです?」

「俺の言う事なんてだーれが信じるかよ!あいつらマジで自分たちが見たい景色しか見えてねぇんだよ!VRゴーグルもびっくりだよ!あいつら古代めいた頭してんのに最先端を生きてるよ!!」

「日頃の行いですね。以前からチョットでも王子らしくしてたら聞いてくれたんじゃないですか?」

「そうさせる様な人間じゃないなあいつらは?最初の方は言う事聞いて大人しくしてたけど、すーぐ付け上がるからもう見切り付けたな。お前も心当たりあるんじゃない?騎士団とかやけに最初お前に突っかかってきたじゃん?」

「なるほど妥当ですね」


 ミケ君も心当たりがあるのか反論はしてこなかった。あいつら手首にドリルかなんかついてるよ。それレベルでミケ君の時の対応凄かったからな。あそこまで行くともういっそ清々しいが。


「そういやサンキューな」

「何がです?」

「いや、辺りの掃除。他のドラゴンの駆除してくれてたろ?」

「何のことかさっぱりですね」

「やっぱかっこいいねーミケ君。流石は攻略対象なだけある」

「ミジェロです」


 やっぱ男のツンデレの良さは男には分らんな。

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