痴漢専用車両の設定はいらなかった

バブみ道日丿宮組

 痴漢専用車両には、毎度たくさんの男の娘が乗ってる。

 その名前に間違いはなく、乗客は痴漢する者、されるモノが乗ってる。

 もちろん、違法性はなく国がきちんと管理してる。だからといって、痴漢自体は良くない。国が用意した車両以外での痴漢は犯罪だ。だけど、この車両に乗車してる場合、完全合意としてみなされて行為が発生する。

 しかし、対象は女性ではない。

 されるモノは男の娘に限り、痴漢者は男の娘を限定的に狙う。

 彼らは女性に興味はなく、女性らしさを持つものに行為を抱く。いわゆる偶像崇拝のようなものだ。

 触られることに興奮する娘や、そういった経験をしたい娘がされるモノとして乗車する。痴漢する者は偶像を求める。虚像は偶像になる。

 私はそのことを理解して痴漢専用車両に乗る。

 私が一番可愛いし、誰にも負けたくないという意地がある。

 痴漢者の多さは人気者の証。その日の話題性すらあるくらい。今日はいつも以上におめかししてる。きっと大量の男たちが私に手を触れてくだろう。学校で噂されるかもしれない。

 今の私は、高校の制服をミニスカートにして、ニーソックス、ガーターベルト。校則通りの革靴。長髪は赤のリボンで彩り。黒い髪にはいいアクセントになる。本当はもっと派手な色に染めたいけれど、校則違反だ。

 女装が認められてなければ、こんな学校に入学なんてしなかった。

「……」

 まだ駅のホームだというのに視線を感じる。みんな私を見てる。

「ふふっ♫」

 気持ちがいい。いつだって人気者は高まるもの。

 愉悦感に支配されたそんな私に、

「あ、あの……」

 中学生くらいの女子学生が声をかけてきた。

「ふふん」

 その声が私に対してなのかに気付くまで数秒。というか、実際肩を叩かれるまでわからなかった。

「んっ? なんですか?」

「あ、あの……ですね!」

 可愛らしかった。私という存在がいなければ、きっと注目者になれたはず。

 ごめんね?

「はい?」

 ちょっとしゃがんでという身振り手振りされたので、

「なんなんてすか?」

 その通りにすると、耳元にふぅという息遣いが届いて思わずドキリとした。

 専用車両に乗らないうちから、触られてしまうのか。こんな小さな子にやられてしまうのか。それはそれで高まってしまいそうだけど、さすがに駅員に止められるだろう。

 痴漢は決まった場所以外じゃ普通に犯罪。

 だからか、意識が高揚してたからか。

「あ、あの……ぱんつ見えてます」

「えっ?」

 その言葉がうまく理解できなかった。

「ぱんつめくれてます。あ、あのぱんつが……」

 連呼されようやく現実に引き戻され、

「わっ、わわわ!」

 スクールバッグがスカートの裾を引き上げて、下着が顕になってることに気付いた。

 臀部までめくれてなかったものの。

「ぎゃぁ」

 見えてたという事実が汚い声を作らせた。乙女なのに。

 ぱぱっと叩いてスカートを戻すと、見られてた理由が理由で頬が熱くなった。

「も、もう大丈夫です」

 女子学生はハニカム顔も可愛かった。

「あ、ありがとう」

 えへへと笑う女子学生の声でたくさんの視線が消えた。

 そこ! 見えてるなら、早く言ってよ!

 訪れる気まずい沈黙。

「……?」

 女子学生は列から動かなかった。彼女もまた専用車両に乗るつもりだろうか? 

 もしそうだとすると、大勢の人が逮捕されることになる。女性、男性関係なく、一発アウト。

 お触りが許されてるのは、女装男子であって、女子ということではない。

「どうしました?」

 視線をちらちらと向けてたせいか、怪しまれた。

「あ、あの……失礼ですが、確認なのですが、念のですわ、女の子ですか?」

 口調が若干おかしくなるも、言葉にすることができた。

 依然として車両の待ち列には彼女と私以外は並んでない。

 皆通常車両の方で電車を待ってる。

 当然彼らは私(たち?)がそういうことをしながら通学・通勤すると意識してる。ある意味軽蔑感がそこにある。

 その疑問に、彼女は右手人差し指を立てると、

「女子です」

 宣言した。ダメでしょ!

「あ、あの、知ってます? ここ痴漢専用車両(女装)のための待ち列って」

「そうですね」

 そうですね、じゃなーい。わかってるならどうしてこの娘はここにいるの!? 

 馬鹿なの、変態なの、痴女なの!?

「わかってますよ。あたしに痴漢したらその人が捕まるぐらい」

「なら、どうして?」

 カバンからネームプレートを取り出し、

「これですよ。知ってますか?」

  私に渡してくる。

 そこには、名前の他に、学校名、性別、生年月日、痴漢者認定が書かれてた。

「最近では女装してる男の人を女の娘が食べる。そういうのが流行ってるんですよ。それでこの許可証は最近できたもので、女の娘が痴漢に合わないように発行されたんです」

 全然知らない情報だった。だってされる側はされる心だけを持ってれば、いつでもそういう雰囲気に包まれてて……。

 そうか、許可証なんてものがいつの間にかできたんだ。そうだよね。合意があったとしても痴漢だものね。男の娘用はないのかな? 男の人から男の娘は許可がいらないの? 今までいらなかったし……必要ないのかな。

「じゃぁ君は痴漢する方なの?」

 浮かぶ疑問。

「いえ、眺める方です。本当ならお姉さんのぱんつをずっと眺めていたかったのですが、いえ独占したかったですがーー」

 話しかけてきた時のおどろおどろしさがまるでない。これが本来のテンションなのだろう。鼻息がかなり荒い。ちょっと怖い。

「……お嬢様なんだよね?」

 許可証に書かれてたのは有名なお嬢様学校。私が通うDランクの学校とはわけが違う。

「でも、制服違う気がして」

「これはいわゆる痴漢専用の制服です」

 くるりとその場で一回転。

 華麗。ただの回転なのにそこに美しさがある。

 私にはない魅力がキラキラと輝いてた。

「制服気に入りましたか?」

「い、いえ……」

 制服はよくあるものだ。それをグレードアップさせてるのは彼女の素材の良さもあるが、使ってるものも一級品なのであろう。

「実はお姉さんのこと、数日前から見させてもらいまして」

 車両に乗ってたのかな? 女の子が乗ってたら気づくはず。というか、許可証があるってことは他の女の子と遭遇してもおかしくない。ニュースになってもおかしくない。学校で話題になってもおかしくない。

「不思議に思われますか?」

「は、はい」

 彼女の華麗さに思わず敬語になる。

「これは今日から適応されるんです」

 そうなの? だから、知らないのは当然?

「初日なので利用する人はほとんどいないでしょうね。それでその権利を行使しようと思います。もちろん、お姉さんには拒否権はありますが、ここにいるってことはそういうことを望まれるということでいいんですよね」

「……間違いないです」

 では、と手を伸ばされる。

「今から行きましょう。ここではお姉さんを堪能することはできません」

 どうしてそうなった。どうして断らなかった。

 

そうして私はラブホに行くことになった。

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