第29話恋の策謀事件2
あれから学校の授業も終わり夕食の時となった。この日のメニューは豚肉の焼き串、小さな黒い大麦パン、土地の野菜(lachainon)のサラダ、オリーヴの実のペースト、スパルタの黒スープ、ぶどうジュースだった。スパルタの黒スープとは、香料をふんだんに効かせた一種のポーク・シチューであったと考えられる。いずれにしても、料理は香料が強烈にきいていて、古代ギリシア人はさぞかしくさい息を吐いていたことであろう。
みんなでテーブルを囲んで食べているとヘルメスの姿がなかったのである。
「最近ヘルメスって見かけないな。何してるんだろう?」
ケンタウロスが首をかしげた。
「さあね。」
このところマルスもヘファイストスも見かけない。でもみんなは特にそれ以降は気に求めなかったのだ。
食事が終わると生徒達は食事を片付けて寮へ帰って行った。みんなが帰ったあとにヘルメスとへファイトスの姿があった。
「あれ、ヘルメスじゃないか?寮へ帰らないのか?」
ヘファイストスがヘルメスに聞くとヘルメスは”面白い話があるんだけど聞きたくはないか?”と誘ってきた。
「面白い話??」
ヘファイストスが不思議がっているとヘルメスはそのまま話を続けた。
「言うのは他でもない、なぜキューピッドは母親と付き合っているのか?ということさ。」
「母親だって?あのアフロディティーが?冗談はよしてもらいたいな。」
ヘファイストスはヘルメスの言葉に嘲笑ったが余りにもヘルメスが真剣な顔をするのでごくりと唾を飲み込んで彼の話に耳を傾けた。
「でもなんでそのことをヘルメスが知ってるんだよ?」
ヘファイストスが聞くとヘルメスは入手したとだけ話してあとは教えてくれなかった。
「とにかく、聞いてくれ。キューピッドは軍神アレースと愛の女神アフロディティーの子であるとされるようになったのさ。」
すろとへファイストスが彼の言葉を疑った。
「これは元々関係のなかったアフロディティーとエロースを関連付けるために作られたものだろう?だってこんなのおかしいって。」
「なるほどな。そうだったかもしれん。でも何か引っかかるんだよな。」
2人は窓から遠くの外を見つめたが暗すぎて何もわからなかった。それから2人は寮へと話しながら戻って行った。でも、ヘファイストスまでなんで知っていたのか気になるなぁ。
翌日も平穏な時が流れていた。そんな中ヘファイストスは昨日のことを考えていた。
「どうしてあんなデマが流れるのかな?」
もしヘルメスの言ったことが本当なら大問題になるがキューピッドの母親がアフロディティーなんて余りにも出来すぎている話であるのは間違いなかった。ではキューピッドの母親は一体誰なのか?噂では貧乏の女神のペニアではないかという声が囁かれている。美神アプロディテーの子として名高い愛の神エロスは、何と本当はペニアの息子だというのだ。これはどういうことなのだろうか?ペニアはまんまと泥酔中のポロスににじり寄り、強引に添い寝を果たして身籠もってしまった。こうして生まれたのがエロスなのだ。なんとアフロディティーの壇上に湧いているパーティーでボロスが酒に酔い酔っ払い庭で寝ていた。貧乏の女神のペニアはおこぼれでご馳走がもらえないかと玄関先で待っていたところ偶然にん庭で寝ていたボロスを見つけたわけだ。果たしてキューピッドの母親が本当に彼女なのか気になるところですね。
ヘファイストスは授業中窓の外を見つめて頬杖をついた。本当はキューピッドに直接聞いた方が速いのかもしれないがそれはやめておこうと思ったのだ。でも、本当はこのことを知りたかったのではなくもっと他に知るべきものがあるのだろうと自分に言い聞かせてた。まだから見る景色は見
この日の授業が終わりキューピッドはアフロディティーと校舎の屋上へと向った。螺旋階段をひたすら昇り、壁を必死に伝い着いた先は学校の敷地内を見渡せるほどの絶景だった。
「僕らの学校にこんな所があったなんて知らなかったな。」
キューピッドは驚きのあまり腰を抜かしそうになった。
「こんなところで腰を抜かしてたら話にならないでしょう。」
アフロディティーはクスリと笑って屋上に手すりへと歩み寄った。そして手すりに手をかけてキューピッドもこちらに来るように促した。
「お父様が言ってたのよね。私は美において誇り高く、パリスによる三美神の審判で、最高の美神として選ばれているんだって。全然知らなかったわ。」
アフロディティーは遠くの景色を見つめて言った。
「そうなんだ。それでパリスによる三美神の審判って何?」
キューピッドが彼女の言葉に聞き返した。
「ああ、そのことね。まずパリスって言うのはトロイアの王子様よ。小さい頃だから覚えてないんだけど写真を見る限りじゃ美少年ってところかしら?でも私のタイプじゃないわね。」
「ふーん。でも貴族の方の目に止まったなんてすごいなあ。それで?」
2人は楽しそうに話を続けた。
「それでパリスの審判っていうのはね、トロイア戦争の発端とされる事件だったらしいわ。」
「トロイア戦争?」
キューピッドが青い目をギュウと収縮させて驚いた。
「うん。トロイア戦争は有名だから知ってるでしょう?小アジアのトロイアに対して、ミュケーナイを中心とするアカイア人の遠征軍が行ったギリシアの戦争なんですって。詳しいことはわからないけれどね。」
アフロディティーは微笑んで言った。
「ああ、なんとなく分かった気がするよ。」
キューピッドは頷いた。
「それでパリスの審判のことだけど選ばれたのは神々の女王ヘーラー、知恵の女神アテーナー、そして私よ。これは天界での抜群の三美神のうちで誰が最も美しいかを判定させられたものなの。」
「なんか、別にそんなの決めなくたっていい気がするんだけどなあ。」
キューピッドはすっかり彼女の魅力に取り付かれていた。それはこの学校に入学して出会った時からだった。そしてやっと告白にOKをもらい今に至るのだ。
「でもこの裁判で1つだけおかしなことがあるの。それはなんだと思う?」
ここでアフロディティが思いもよらずキューピッドに質問してきた。
「えっと・・・なんだろう?全然わからないや。」
「テティスとペーレウスの結婚を祝う宴席には全ての神が招かれたけれど、不和の女神エリスだけは招かれなかったのよ。変だと思わない?私もこの事についてお父様に聞いてみたけれど、噂で聞いたから本当かどうかさっぱりわからないと言っていたわ。それでエリスは怒って宴席に乗り込み、『最も美しい女神にあたえる』として黄金の林檎を投げ入れたのよ。この林檎をめぐってヘーラー、アテーナーが争ったのね。私も争いに加わったみたいだけど覚えていないわ。そして、仲裁するために『イリオス王プリアモスの息子で、現在はイデ山で羊飼いをしているパリス(アレクサンドロス)に判定させる』こととしたのよ。これがパリスの審判というものよ。私もお父様から聞いて驚いてしまったのよ。」
キューピッドは”大変な裁判だったんだね”と促した。
そしてアフロディティは話を続けた。
「この時、女神たちは様々な賄賂による約束をしてパリスを買収しようとしたわ。ヘーラーは『アシアの君主の座』、アテーナーは『戦いにおける勝利』を与えることを申し出たの。でも、結局『最も美しい女を与える』とした私が勝ちを得たんですって。『最も美しい女』とはすでにスパルタ王メネラーオスの妻となっていたヘレネーのことで、これがイリオス攻め(トロイア戦争)の原因となったわ。トロイア戦争の間にパリスを憎むヘーラーとアテーナーとはギリシア側に肩入れしたの。」
アフロディティは話が終わると”そろそろ寮に戻りましょう”とキューピッドに告げた。
「そうだね。それにしてもややこしい裁判だな。それと女の争いって怖いっていうか・・・残酷だということがいかによくわかったね。」
キューピッドもアフロディティに続き屋上を後にした。
その日の夕食時にヘルメスは考え込んでいた。アフロディティーとキューピッドの交際にいい顔をしなかったのだ。それには理由があったのだ。以前ヘルメスはアフロディティに片思いしておりその旨を伝えたことがあった。それは夏休みの前のことだった。
「君が好きだ。よかったらお付き合いしてくれないか?」
ヘルメスは花束を手にしていて足は震えていた。
するとアフロディティーはニッコリしてこう言った。
「あなたの気持ちはわかったわ。でも私のタイプではないからお付き合いすることができなの。本当にごめんなさい。」
アフロディティーはぺこりと軽く頭を下げて去って行った。
この時ヘルメスは体の力が一気に抜けていくのを感じた。この感じはなんだろうとさえ思った。敗北感と脱帽が入り交じた不思議な気持ちを味わったヘルメスは徐々にアフロディティーに嫌気を指してきた。
そんなヘルメスがアフロディティーに最初に出会ったのは授業が始まった初日だった。ヘルメスが授業中に私語をして先生に怒られたんだと授業終わりに他の生徒に話している時にアフロディティーがヘルメスの横を通り過ぎた。ヘルメスはそのときはあまり気に求めなかったようだが話が終わって後ろを振り向くと爽やかな風が廊下に吹き抜けていた。
「この風はどこから来るのだろう?」
と不思議でならなかったのだ。
それからケンタウロス、ディオといつも一緒にいるウンディーネと仲良くなって彼女の寮で一緒の生徒すなわちルームメイトのことを教えてもらったのだ。そこでは彼女のことも語られた。この時にヘルメスは彼女を知った。それからウンディーネがルームメイトたちを紹介してくれたがヘルメスはガイアには気に求めず、すっかりアフロディティの虜となっていた。それから彼女を追いかける日々が始まった。彼女がろうかを通るたびに胸が高まり緊張が走り手に汗を握ったこともあった。こんな感情は今まで抱いたことがなかったので非常にワクワクしていた。同じ学校で寮は違えどまた会えるとわかっていながらも日々を過ごしてきたが。一番辛かったのが休日だった。休日は彼女とほとんど会えなくなってしまうためにヘルメスにとっては過酷だった。なんとかして彼女に会いたいと願ったが彼女にも予定があるかもしれないという不安がヘルメスを襲った。
それからしばらく日が経った。ヘルメスはアフロディティーにいつ話そうかとそわそわしていた。そして授業終わりにアフロディティを呼び出すことに成功したヘルメスは気合を入れていた。
「それで、話ってなんですの?」
アフロディティーは静かにヘルメスに聞いた。
「えっと・・・。」
ヘルメスは目の前の彼女に口ごもってしまった。
「そのことなんだけど・・・。」
「ささっと言いなさいよ。」
アフロディティーに急かされてヘルメスはとうとう彼女への想いを告げた。
「ずっと前から好きでした。よかったらお付き合いしてくれませんか?」
ヘルメスは彼女に深々と頭を下げました。しかし彼女から意外な言葉が返ってきた。ヘルメスはこのままうまくいくと思ったからだ。
「タイプじゃないのよね。」
「え?」
「私とあなたじゃ合わないと思うのよね。だからごめんなさい。」
アフロディティーは軽く頭を下げて去って行った。
こうしてヘルメスの淡い恋は終わりを告げたのだった。
「なんで・・・なんだよ。」
ヘルメスはあの出来事があって以来しばらくぼおっとしていた。
「なあ、ヘルメスどうしたんだよ。」
そこにヘファイストスがヘルメスの所にやって来た。
夕食の食事の席でヘルメスがどさっと座ったので何があったのかとヘファイストスが聞いてきたのだ。
「いや、別になんでもない。」
ヘルメスはあの出来事を早く忘れたかったのと自分の中だけにしまっておこうと思ったのだ。誰かに話すと余計に話がこじれるのが怖かったヘルメスは今を振り返りこう語っている。
「何かあったら相談に乗るからさ。いつでも言えよ。」
ヘファイストスはそう言ってヘルメスを励ましてくれた。
「うん、ありがとう。」
ヘルメスは作り笑いをしたが必死でその場を取り繕っているしかなかったのだ。
失恋と聞いてみなさんは女性の方が重く感じると思ったことはないでしょうか?しかし彼は心に深い傷を負っていた。
あれから時が経ってだんだんそんな出来事も忘れていこう、とその時だった。アフロディティーにキューピッドという恋人ができたことで思い出したのだ。
この日もアフロディティはキューピッドとデートに出かけて行ったといっても学校の敷地内だけであるが。ヘルメスはそんな2人を影から見つめるようになった。
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