第27話翌日の出来事

次の日になった。いつものように授業が終えた女神様達は4人で廊下を歩いていた。するとどこからか声がした。

「何なの?」

4人はあたりを見回した。すると遠くの方で人が2人歩いているのが見えたので角に隠れていた。

「あれは一体誰?」

4人は眉をひそめてじっと歩いている人を見ていた。すると段々歩いている人がこちらに近づいてきて誰なのかわかってきた。

「あれはタレス先生よ。そして隣の人は?」

エイレーネが首を傾げてそう呟いているとタレス先生の隣にいる男性が気になった。そう、あれが紛れもなく張り紙事件の犯人デマゴーグだったなんてケンタウロス達は知る由もなかっただろう。しかしホーラーの女神様達は彼が誰なのか直ぐに分かった。

「あれは・・・デマゴーグ?」

エウノミアがデマゴーグと思われる人物を見て囁くように言った。

「そのようね。でも何故彼がこの学校へ来ているのかしら?不思議でならないわね。」

エイレーネは3人にタレス先生とデマゴーグの2人の跡を追うように促して歩き出した。歩いている間も歩きながら話している2人の会話が気になった。

しばらくすると先生とデマゴーグがどこかの部屋入って行くのが見えた。そこで女神の4人は透明になり跡を追った。ドアが開いたそのときが部屋の中に入るチャンスだ。4人は慎重に素早く中に入った。

バタンとドアの閉まる音が聞こえ先生とデマゴーグが向かい合わせで席に着くと小姓が2人にお茶を運んできた。その様子をホーラの女神様達はじっと見ていた。本当はつばを飲み込みたい所ですがごくりと音がするのが聞こえてしまいそうだったのでやめた。

「あっ2人が話し始めたわ。」

エレーテが小声でみんなに言った。

「これはデマゴーグさんわざわざ私達の学校へおいでくださりありがとうございました。」

やはりあの男の正体はデマゴーグだったのである。

「いや別にかまわんが。デロス同盟の件はどうされますかね?」

女神様達はデロス同盟の言葉に耳を疑った。

「デロス同盟ってあのデロス同盟?」

エウノミアが3人に聞いた。

「ええ、そうよ。アケメネス朝ペルシアの脅威に備えて、478年にアテナイを中心として結成されたポリス間の軍事同盟のことよ。」

エレーテがそう説明している間にも彼らの話は続いてた。

 女神様達は先生とデマゴーグの話に耳を傾けた。するとそこにお茶を運んで来た小姓がデマゴーグに何か聞いてた。

「はて、デマゴーグさんは何故我らの学校においでなさったのですか?」

するとデマゴーグが微笑んでこう言った。

「そうですね。私は元々は民衆指導者を指していたのですが堕落してしまいましてね。もっと市民の声を聞かないといけないと思ったのです。そこでまずはこちらの学校に問い合わせたところ校長先生が承諾して下さり学校改革へと力を入れようとして今に至ります。」

「なるほど。でも何故幾何学のタレス先生と話をなさっているのですか?校長先生と話せば良いのでは?」

小姓がそう質問するとタレス先生がこう言葉を返した。

「校長先生が忙しいため代理を努めております。」

「そういうことでしたか。これは失礼しましたそれでは私はこれにて!」

小姓が去っていった後デマゴーグが話を切り出した。話の内容はやはりデロス同盟のことだった。話を進めていくうちにデマゴーグの実態が徐々に明らかになった。この時エレーテが3人に聞いた。

「デマゴーグってたしか民衆指導者を指すけど、アテナイではペリクレスの死後、クレオンを初めとする煽動的指導者が続き、衆愚政治へと堕落した人じゃなかったかしら?」

「そうだったわね。彼は言葉巧みに人を誘い・・・はっもしかしてタレス先生から危険のサインが出ているわ。」

エウノミアがはっとして後ずさりした時でした。ドアにドンっとぶつかりデマゴーグとタレス先生に気がつかれたのかと思った。

「誰かそこにいるのか?」

これ以上この部屋にいるとばれる危険性があるため、ホーラの女神様達はそっとドアを開けて部屋から出ることにした。

パタン

「はあ、見つかるかと思ったわ。」

4人の体はいつの間にか元に戻っていた。

「本当よね。行きましょう。」

4人はこのことをケンタウロス達に知らせようと思った。なのでケンタウロス達の寮へ行き寮監督のギュム先生に許可をもらいに小走りした。先生に許可をもらい、ケンタウロス達を呼んでもらって彼女達のパシフィスタ寮の談話室で話しをしようと思ったからだ。しかしこれは実現されることはなかったのだ。さて一体なぜなのだろうか?

ホーラの女神様達はケンタウロス達のレボルシオンの寮へ行きギュム先生に彼らに得ないか聞いたが先生から意外な言葉が返ってきた。

「ごめんなさい。ケンタウロス君達は寮から出ていてどこへ行ったのかわからいのよね。外出許可はないはずだから学校のどこへ行ったのかわからないけれど。」

4人は学校が広すぎて探すのが大変になったためケンタウロスたちに話すのを諦めた。この時ケンタウロス、ウンディーネ、ディオは図書館で張り紙事件について調べていた。ガイアとアフロディティはアレキサンダー先生の手伝いでプラネタリウムシアターにいた。ホーラの女神様達が知ってる他の生徒達もどこかへ行っており探すのは無理だった。そこで夕食の時に会って話せないかと思いその時を待った。

そして夕食の時が来た。女神様達はケンタウロス達を必死に探した。そしてやっと彼らを見つけて話をしようとした所にアマイモンらワル3人が行く手を阻んだので話すチャンスを失ってしまった。それからはケンタウロス、ウンディーネ、ディオは聖なる書を見つけに冒険へ出かけてしまったために完全に話すタイミングを失ってしまった。と、こういう訳である。なのでデマゴーグとタレス先生のやり取りを知っているのはホーラの女神様達だけだった。

 さてタレス先生がデマゴーグと話していたあのデロス同盟についてですが(アレキサンダー先生がケンタウロス達にうっかり話しそうになったあの同盟です)何故今回の張り紙事件と関係があったのでしょうか?

デロス同盟とは前にも書いたようにアケメネス朝ペルシアの脅威に備えて、478年にアテナイを中心として結成されたポリス間の軍事同盟のことだ。アテナイを盟主としてイオニア地方など主にエーゲ海の諸ポリスが参加した。

ペルシア戦争(第二次遠征)においては、480年のサラミスの海戦および479年のプラタイアの戦いによりペルシア軍が敗れて撤退し、ギリシアには(一時的に)平穏が訪れた。しかしペルシア軍の攻撃による被害の爪痕は各地に残り、ギリシアの人々の間にはペルシア軍の再来襲を危惧する懸念が広まっていた。

 プラタイアの戦いで全ギリシア軍の総指揮を採っていたスパルタのパウサニアスは傲慢なことで知られ、ギリシア諸国の多くは彼に反発することとなりました。他方で、その頃ペルシア軍の撃退で功績をあげていたアテナイの評価は高まっており、その結果ペルシアに対抗するための新同盟はアテナイを中心とするものとなった。

478年〜477年の冬にギリシア諸国の代表者がデロス島に集まり、そこでデロス同盟が正式に結成された。

 このようにして結成された同盟なのだ。ここで出てくる”パウサニアス2という人物はスパルタの王族、将軍だ。そして彼はクレオンブロトスの子で、レオニダス1世の甥に当たる。パウサニアスの子プレイストアナクスはプレイスタルコス(レオニダスの子)の後を継いでスパルタ王になった。また、パウサニアスは幼いプレイタルコスの後見人を務めた。

それはさておきデロス島にギリシャ諸国の代表者が集まった訳ですが、なんとそこにはあのデマゴーグも参加していた。でも何故デマゴーグが参加していたのだろうか?

 実はデマゴーグはとんでもない奴だった。デマゴーグはクレオンとも呼ばれ人々を騙す政治家として今では知られている。しかし張り紙事件の時はまだそのような情報が学校に流れておらず誰もデマゴーグの実態を知らないまま受け入れてしまったのだ。デマゴーグはまず校長先生にデロス同盟の話を持ちかけていた。デロス同盟の話は新しい学校を作るのに有利だったからだ。そして新しい学校を次々作り、このEsperanza of fantasia schoolを潰そうという考えだった。

デマゴーグはクレオンの名前を使いデロス同盟へと乗り込んだ。デマゴーグは元々無教養な成り上がり者として描かれることが多いが、彼は旧来の大土地所有者ではないにせよ、手工業を営む裕福な名望家層であったのだ。なのでお金持ちなのをいいことにまんまとデロス同盟乗り込むことに成功した。デロス同盟結成の時には多くの代表者が集まっており紛れていても気がつかれなかったデマゴーグはでロス同名に関わっていたかのように偽り(実際は同盟に参加していたというより紛れ込んでいたのに過ぎないのですが)校長先生に新しい学校の話を持ちかけた。それから生徒達への謝礼金を受け取る受け取らないの騒ぎに発展していくのだが、校長先生も新しい学校ができれば我が校と協力してギリシャの子供達への養育へ専念できることと他の学校の生徒との関わりも大事だと思ったのだ。まさかこんなんことになるなんてこの時はまだ知る由もなかったでしょうね。

デマゴーグは他にもミュティレネの男子全員を処刑し、女子供を奴隷にしようとしたり本当に恐ろしい奴だった。こちらの2つは裁判で批判が高まり却下されたようですがこうして見ると張り紙事件がまだましに見えますね。


デロス同盟は最も有名な同盟ですのでこれに関わったもしくは参加したと聞けば誰しも素晴らしいと感じるのだ。なのでデマゴーグはこの同盟を利用してまず校長先生を騙した。そして1番秘密を守りそうと確信したタレス先生にこの話を持ちかけたのだ。それをアレキサンダー先生が小耳に挟みケンタウロス達に話しそうになったという訳だったのだ。そう張り紙事件の裏にはこんなことがあったのである。

 こうしてホーラの女神様達の視点から張り紙事件を振り返りましたがデマゴーグがいかに巧みに騙す達人であったかがよくわかりましたね。ディオが以前彼の講演会に行ったことがあると言っていましたがどうやらあの時は父と訪れに行ったようです。幸いにもディオはデマゴーグの言葉の魔術には引っかかりませんでした。それはディオの父親がしっかりしディオに言い聞かせたのでしょう。このことからディオの父親は人の意見に流されない人だということがわかりました。なのでたぶんディオも父親のそういう所を受け継いでいるのでしょうか?

張り紙事件とホーラの女神様の話はいかがだったでしょうか?こうしてあの事件は幕を閉じたがホーラの女神様達はまだ残り少ない時間ですが登場しますのでお楽しみに!!

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