第24話学校が歪んでる?

「みんな、大変だ。」

そこに走って来たのは伝令使ヘルメスだった。

「どうした、ヘルメス?」

ディオがヘルメスに向かって手を振った。

「大変?何が?」

ユニが不思議そうにヘルメスを見つめた。

「アマイモンがもしかしたら退学になるかもしれないって。」

「なんだ。そんなことか。悪魔が1人減って清々するじゃないの。」

ガイアは呆れて言い放った。

「でもこれを聞いたサタンとエリゴスがひどく落ち込んでて、学校がとにかく大変なことになってるだ。」

ヘルメスはとにかく慌てていた。

「学校がひどいことになってるってどうひどいんだよ?ちゃんと説明してくれないとわからないだろう?」

ディオが首をかしげた。

「学校がサタンとエリゴスの作り出してる空気で黒い何かで覆われていて・・・とにかく行けばわかるから。」

ヘルメスがあまりにも必死だったのでケンタウロス以外は病院を出て学校へ向かうことになった。

「ケンタウロスは退院手続きがまだ済んでないし病院にいた方がいいかもしれないわね。」

「うん、そうするよ。」

ウンディーネの言葉にケンタウロスは頷きみんなに手を振ってしばらく別れた。そしてウンディーネ達は急いで病院を出るとチャリオットに乗って学校まで向かった。

 学校まで向かうと学校が異様な空気に包まれていた。

「何だ?こんな学校見たことないぞ。」

ディオが不思議そうにそう言ってみんなに学校の中に入ろうと促した。

学校の中に入るとエリゴスとサタンがぐったりと倒れていた。

「ちょっと2人ともどうしちゃったのよ?」

ウンディーネとアフロディティーが2人の体を揺すった。

「うわあ。君達は何なんだ?余計なことはするな!」

サタンがゆっくりと起き上がってそう言ったが右手は頭を抑えていた。

「余計なことってなんだよ。病院までわざわざヘルメスが来て知らせてくれたんだぞ。学校が大変なことになってるって聞いて来てみたら君達が倒れていたから。一体学校で何があったって言うんだよ。」

マールスがサタンの胸ぐらを掴んだ。

「やるのか?」

マールスとサタンが喧嘩腰になったのでみんなで必死に2人を止めた。そこにエリゴスも起き上がった。

「アマイモンが退学するって本当なの?」

ウンディーネがワル2人に聞いた。

「それなんだよ。でもお前らはワルが1人減って清々するんだろうな。別に来なくても良かったのに。」

サタンが嫌そうな顔をしたのでガイアがサタンの顔を平手打ちした。

ぱあん。

「いてえな。何するんだよ。」

サタンが頬をさすりながら怒鳴った。

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう。あなた達はアマイモンの友達でしょう?だったらなんとかする方法を考えなさいよ。私達だって本当はこんなことしたくないけどあなた達を見ているとイライラするのよね。」

ガイアはサタンが怒鳴ったのを無視して叫んだ。

「アマイモンは今どこにいるんだ?」

ディオがワル2人に聞いたが2人はわからないと首を横に振った。

とにかくここでじっとしていたら時間がもったいないためアマイモンを手分けして探すことになった。

色んな先生にもアマイモンの居場所を聞いて回った。エリゴスとサタンも渋々アマイモンを探すのに協力してくれた。

アマイモンは無事なのか?退学は免れるのか?必見だ。

 早速みんなでアマイモンを探すことにした。みんなで懸命に走っているとどこからか声が聞こえてきた。

「だから僕は退学なんかしたくありません。」

「あれはアマイモンだ。」

ディオが声を聞いて叫んだ。

みんなは急いでアマイモンの所へ駆けつけた。

「先生、アマイモン君が退学と聞いたのですが本当ですか?」

ウンディーネがその場にいた先生達に聞いた。そこにいた先生はアリストテレス先生やギュム先生、ヘシオドス先生だった。

「同じ学校の生徒でもあろうものが傷害事件を起こしたも同然ですからね。」

ヘシオドス先生はアマイモンの胸ぐらをつかんでいたが手を離してウンディーネ達の方に向き直った。

ウンディーネは先生にさらに言及しようとしたがそこにサタンが一歩前に出た。

「先生、何も退学にしなくてもいいと思います。確かに僕らはドーピングをしていました。でもそのことは反省しています。ケンタウロス君が帰ってきたら謝ればいいじゃないですか。」

実はサタンとエリゴスはアマイモンを探している途中でケンタウロスが無事であることをディオやウンディーネから聞いていたのだ。

「ケンタウロス君は今は病院にいますが私達が向かって行った時は回復していました。なので今回のことは・・・。」

ディオが先生に向かってアマイモンの退学を必死に止めた。

「これは私達学校では決め兼ねないので選考委員会の方の意見も聞こうと思う。以上!!」

ヘシオドス先生はない事もなかったかのように事を片付けようとしていた。

「待ってください。でももし選考委員会の方が退学と決めたら避けられないということですか?」

サタンがヘシオドス先生にしがみ

ついたが先生はサタンを払い除けて”そうだ”と短く答えた。

「そんなぁ。」

サタンとエリゴスはがっかりした。

もう他に手立てはないのでしょうか?そうみんなが諦めかけていたその時だ。

「アマイモンに退学はさせないぞ!!」

その声にみんなが一斉に振り向いた。

「あっその声は・・・?」

 そこには病院にいたはずのケンタウロスが立っていた。

「お前は入院してたんじゃなかったのかよ?」

サタンがケンタウロスに聞いた。

「そうだよ。でもたった今退院手続きを済ませてきたんだ。僕も事情は聞いているけれど今回の件はなしにさせてくれ!!だってそうだろう?エリゴスだってアマイモンやサタンだってドーピングをしたことは悪いことだけどドーピングのせいでおかしくなったんだったら退学はなしにして欲しいです。彼は大会に勝ちたいと言う目の前のことにぐらついただけなんです。」

ケンタウロスは力いっぱいに叫んだ。

「確かにケンタウロス君の言う通りね。でも禁止事項とわかっていながらドーピングすること自体がおかしいのよね。エリゴス君達だって公平に戦おうとしなかったのですか?」

ギュム先生はケンタウロスの言葉に頷きエリゴスの方へ向き直った。

エリゴスとサタンは黙って俯いてしまったがアマイモンは先生に言葉を返した。

「練習してる時に思ったんです。絶対にケンタウロス君に勝とうってでも無理でした。僕らはそれでも諦めることができなかった。だから禁止だとわかっていてもドーピングに手を出してしまったのです。以後気をつけるようにしますので退学だけは・・・お願いします。僕らは学校で学びたいだけなんです。先生だってわかってくれると思っていました。なのにひどすぎますよ。うわあああー。」

アマイモンは叫んで走り去ってしまった。そんなアマイモンを追ってサタンとエリゴスも続けて走り去った。

「待ちなさい。まだ退学と決まったわけじゃないわよ。」

ギュム先生は走り去る3人に慌ててこう言ったがその時には3人はもういなかったのである。

 それからしばらくして先生達は選考委員会の方と部屋を出ていった。

「ねえ、これからどうするの?」

ガイアがみんなに聞いた。

「どうするって、とにかくこの嫌な空気をなんとかしないといけないわね。」

ウンディーネが天井を見上げて言った。そして周りを見回すと水を呼び寄せて部屋の中をきれいにした。

「アマイモン達は探した方がいいのかな?」

ケンタウロスがみんなに聞いた。

「探したって無駄だよ。あいつらのことだから意地でも出てこないんだろうな。」

ディオが呆れて肩をすくめた。

ディオの言葉にみんな頷きアマイモン達を探すのをやめて寮へと戻っていた。


夕食の時もアマイモン達の様子が見えなかったので来なかったんだとみんなは口を揃えた。

「今日のムサカすごく美味しいのにね。」

ケンタウロスがアマイモン達のお決まりの席を見つめて言った。

「退学っていうのがあまりにもショックだったんだろうね。」

ユニがため息をついた。

「でもドーピングはまずいんじゃないかな?それとオリンピア祭も途中で終わっちゃってるし中止ってことなのかな?」

キューピッドがみんなに聞いた。

「でもギュム先生は中止じゃなくて延期かもって言ってたわよ。」

ウンディーネがキューピッドの質問に答えた。

「なるほどね。」

今日のメニューはパン、ひき肉とチーズを使ったムサカ、ホリアティキサラタ(田舎風ギリシャサラダ)、悪魔のクソスープそしてデザートにクラビエデス(アーモンドクッキー)でした。どれも美味しそうですね。

夕食が終わったあともアマイモン達のことがなぜか気になりあれこれと話しているうちにこの日は終わった。 

 翌日、学校の先生と選考委員会の方での話し合いが行われてつに結果が発表された。アマイモンは学校に残ることになったが進級するための課題が出された。まあ、一安心ですね。

そしてオリンピア祭ですが3日目のレスリングだけもう一度やり直すことになった。こんどは不正無しなのでみんなも安心して試合に臨んだ。

「がんばれ!!」

女子達の声援を胸に必死に戦った男子達もこの日で終わりです。さて誰が優勝を手にするのでしょうか?

「皆様いろんなことがありましたが無事にオリンピア祭を終えることができました。みなさん本当によく頑張りました。今年は不正者が出てしまいとても残念だったので次の開催の時はそのようなことがないように教師どもども注意し合えたらと思っております。さて、オリンピア祭の優勝者を発表します。今年の優勝者は・・・。」

みんながゴクリと唾を飲み込みます。

「素敵な詩を読んでくれたキューピッド君です。前にどうぞ。」

キューピッドは周りの人に肩を叩かれたりしながらステージへと駆け上がっていった。キューピッドがステージに登るとオリーブの冠をお盆に乗せた女性が立っていた。

「それではこれより優勝者の方の表彰式を・・・。」

女性がそう言いかけた時キューピッドはみんなの方を向き直した。

「待ってください。今回のオリンピア祭は不正があってこのようなことになってしまいました。でも、もしも公正に戦っていたらケンタウロス君にも勝てるチャンスがあったのだと思います。なので僕はケンタウロス君に冠を捧げたいと思います。」

キューピッドの言葉にみんな拍手喝采だった。そして急遽ケンタウロスもステージに上がりケンタウロスとキューピッドの2人の頭に冠が乗せられ2人の肖像画が壁画に残ることとなった。優勝者が2人も出るなんてオリンピア祭では史上初の快挙だ。これにはギュム先生も驚いていたが2人ににこやかに拍手を送った。

「みなさん、今年は優勝者が2人でしたが2人の頑張りと健闘を称えましょう。これにてオリンピア祭を終了します。」

みんなが拍手を送る中キューピッドとケンタウロスはステージ上で抱き合って喜びを分かち合った。今年の祭はいろんなことがあった。ドーピング事件やアマイモンの危機も見事に乗り越え今に至るこの時。これは一生忘れない思い出になるでだろう。

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