第20話オリンピア祭
ついにオリンピア祭が来た。男子生徒達が練習の成果を発揮するチャンスだ。
ファンファーレが鳴り男子生徒達が寮ごとに別れ、グラウンドに集まった。
「皆の諸君。ごきげんよう。今日は絶好のオリンピア日和であるからにして大いに練習の成果を発揮してもらいたい。」
校長先生が壇上に上がりこう言い終わると生徒達から拍手が送られてきた。
そして女子生徒達も会場に入り寮ごとに客席に着いた。
「それではまず、詩の大会から参りましょう。」
ギュム先生の合図で男子達がそれぞれ席に着いた。
「それでは始め!」
詩が書けた人から順番に発表してより優れた人がポイントが加算されていくのだ。
まず、ディオが手を挙げて詩を読み上げた。
「大地の涯のとおい境、スキュティアの郷の、人の気もない荒れた野路へやってきたが、 ヘーパイストス、あなたは、……任務を果たさなければなりますまい。」
ディオが読み終えると会場は拍手に包まれた。
それに負けじとアマイモンが手を挙げて読み上げる。
「あの男の話をしてくれ、詩の女神よ、術策に富み、トロイアの聖い城市を 攻め陥してから、ずいぶん諸方を彷徨って来た男のことを。」
こちらも拍手喝采だった。それから先輩達も続々と詩を読み上げていく。
そしてケンタウロスの番が来た。
「ケンタウロス頑張って!」
ガイアが客席で必至に応援している。それを横で見ていたウンディーネがガイアを睨んだ。
「ケンタウロスを応援してるなんて私はあなたと友達じゃないみたいね。」
「私は別に構わないわよ。」
2人がそうこうしているうちにケンタウロスが手を挙げた。
ガイアが唾を飲み込み見守る。それを呆れているウンディーネ。
「控えちゃおられぬ。問答無用。わしがおぬしを嫌うのは、その皮剥いで切り刻み、騎士の靴底にしようと思うかのクレオーンにも劣らぬのだ。」
ケンタウロスが詩を読み上げると一段と歓声が上がった。
それから暫く詩のやり取りが続いた。次はキューピッドが手を挙げて詩を読み上げた。
「黄金のアフロディーテーなくして何の人生、何の悦びぞ? そんなことがもはや我が身におこらぬなら、死んだ方がましというもの。」
キューピッドの愛の告白に歓声が上がった。それを見ていたアフロディティーが恥ずかしそうにしていた。
男子生徒達が次々と詩を読みポイントが加算されていった。そいてギュム先生の合図で詩の大会は終わった。
「さあ、この詩の大会で勝利を収めた寮は・・・マリーナよ。」
ケンタウロスとディオは自分の寮が勝てなかったことに肩を落としたがオリンピア祭はまだ始まったばかりだ。
マリーナの生徒達が表彰され拍手に包まれた後ギュム先生はこう言った。
「次からは個人種目になるからみんな頑張ってね。そしてマリーナのみんなは詩の大会も個人の成績に加算されていくから有利になったわね。他の男子諸君も負けないように頑張ってね。さあ、次はドリコス走長距離走でこの日は終わりよ。」
ギュム先生の話の後に詩の大会で使われたセットが片付けられた。
そして、この学校のオリンピア祭は3日間かけて行われる。1日目は詩の大会、ドリコス走長距離走。2日目はペンタスロン(短距離競走)、スタディオンの距離を走る中距離競走、幅跳び。そして最後が円盤投げ、やり投げ、レスリングと別れて競技を行う。そんな中ドリコス走長距離走が始まった。スタートの合図がかかり男子生徒達は勢いよくスタジアムを飛び出した。ドリコス走長距離走は距離が長いためスタジアムを抜けて学校の周辺を走るのだ。
そんな男子生徒達を送り出すように女子生徒達も必至に応援している。そしてそれぞれの寮の女子の先輩達は先回りして各給水所で男子達を待つのだ。
1番始めの給水所に来たのはユニだった。ユニは足の速さでは誰にも負けないと自信たっぷりだったのでさすがですね。先輩から水を貰い飲み干すとすぐに駆け出して行った。その後も先輩の男子達が続々と給水所へやって来る。
そして、ディオも到着。ディオが走ってくるとウンディーネは笑顔で手を振りまいた。しかしエリゴスとケンタウロスはまだのようでだ。アマイモンとサタンもやって来ているのに・・・。
「ケンタウロスってば遅いなあ。あっ、やっと来たわね。」
ガイアがそう叫んだ時ケンタウロスはマールスとエリゴスと並んで走ってきた。マールスはそんな2人を抜いたがケンタウロスはエリゴスとお互い睨み合いながら必至に給水所を目指した。給水所と2人の距離はすぐそこまで来ていたのだ。
ケンタウロスとエリゴスが給水所まで近づいた時エリゴスが思わぬ行動に出たのだ。エリゴスはケンタウロスを突き飛ばして去って行ったのだ。そこにキューピッドと他の男子が駆けつけてケンタウロスを起こした。
「エリゴスってなんてひどいことをするのかしら?」
ガイアが去っていったエリゴスの方を見つめて言った。
「あら、自業自得じゃないの。」
そこに横で観戦していたウンディーネがくすりと笑った。
「何よ。ウンディーネはケンタウロスの友達でしょう?他に言うことはないの?」
ガイアはウンディーネの態度に呆れていた。
「あら、だってもう友達じゃないもの。」
「よくそんなことが言えるわね。」
ガイアとウンディーネが言い合っているといつの間にかケンタウロスはいなくなっていた。
「あら、ケンタウロスが行っちゃったじゃないの。」
ガイアはイライラしながら走って行った。
そのあとにウンディーネも続いて走って行った。
一方ケンタウロスは助けてくれたみんなにお礼を言った後、勢いよく駆け出して行った。丘を越えて商店街の中に入ってしばらくするとエリゴスの走っている姿が見えてきた。
「エリゴスなんかに負けてたまるもんか!」
ケンタウロスは遅れた分を埋めようと必至に走っていく。やがてエリゴスに追いつくとエリゴスにこう言った。
「さっきはよくも邪魔してくれたな。君はなんて卑怯な奴なんだ?」
「俺は勝つことに手段は選ばないのさ。君もやり返したいのならやり返せばいいさ。」
2人は走りながら火花を散らしていた。
そして2番目の給水所が見えてきた。
そんな2人が走っている姿を見てアフロディティーが首をかしげていた。
「エリゴスって今日はやけに声が高い気がするんだけど気のせいかな?」
詩の大会でエリゴスが詩を読み上げた時の声が不自然だと感じたのである。
「確かにそうね。」
アフロディティーの隣でガイアが頷いた。
「あのワルのことだから今回の大会はなんとしてでも勝ちたいはずよ。だって負けたら恥を捨てなきゃならないでしょう?」
2人は何か悪い予感が頭をよぎったのでケンタウロスのことがますます心配になってきた。
ケンタウロスとエリゴスが給水所に無事に着き、去っていったのを遠くで見ながら2人は顔を見合わせたままだった。
こうして男子生徒達は給水所を挟んで走りゴールまで辿り着いた。そしてこの日の大会は終了した。
ケンタウロスは必死になって走りギリギリエリゴスを抜いたがエリゴスは自分が勝ったと主張するのでドリコス走長距離走は引き分けということになっていた。
「お疲れ様。」
ガイアがケンタウロスの所に駆けつけた。
「ありがとう。それにしても疲れたよ。明日は明日でまた走らなきゃいけないし。」
「あら、でも明日は長距離じゃないから少しは楽でしょう?」
ガイアはケンタウロスとマールスの所に向かいながら話していた。
「あ、そうそう。私ケンタウロスに言わなきゃいけない事があるんだけれど・・・。」
ガイアはエリゴスの異変をケンタウロスに告げようとしたがそこにヘファイストスとヘルメスが現れてケンタウロスに話かてきたために遮らてしまった。
「話すチャンスだったのになあ。今度はいつ言おうかしら。」
ガイアはがっくり肩を落とし芝生に座り込んだ。
この日の大会が終わった夕食時、ケンタウロスはガイアとマールスとアフロディティーと食事を取ることにした。
話は今日の詩の大会にてキューピッドの告白で盛り上がっていたがガイアは浮かない顔をしていた。
「ガイア、どうしたんだよ?全然食べてないじゃないか?」
そこにマールスがガイアの顔を伺った。
「たっ食べてるわよ。失礼しちゃうわね。」
ガイアはムキになってお肉を頬張ったがマールスにとっては無理をしているように見えた。
ガイアがエリゴスのことをいつ話そうか考えているとケンタウロスが食べながらガイアに聞いた。
「そういえば、大会終了後ガイアは僕に話したいことがあったんだよね?」
「ああ、そうなのよ。」
ガイアは話すきっかけを作ってくれたケンタウロスに嬉しさで一杯になった。
「今日のエリゴスの声ってやけに高くなかった?」
アフロディティーが小声で男子2人に聞いた。
「えっと・・・どうだったかな?」
ケンタウロスとマールスが顔を見合わせた。
「私もアフロディティーに言われて確かにっと思ったのよね。あいつは悪よ。何するかわからないから注意が必要ね。」
ガイアの言葉にみんなは頷いた。
「僕も走ってる時言われたんだ。勝つのに手段は選ばなってね。」
ケンタウロスは明日が不安になってきた。
食事を終えたあとガイアはみんなと別れて寮へ戻る途中だった。ケンタウロスは食事の後マールスと別れてユニとキューピッドと合流して寮へ戻って行った。アフロディティーはホーラの女神様のエウノミアーとエレーテと話しながらケンタウロス達のあとを追った。
そんなガイアが広間を出て廊下に出るとウンディーネと偶然会った。
「やだわ。会わないようにしていたのに。」
ガイアはがっかりして言った。
「それはこっちのセリフよ。みんなして何なのよ?ケンタウロスばっかり贔屓して。」
ウンディーネが叫んだ。
「私はガイアがケンタウロスと少年とレスリングの練習会場に向かうのを見ちゃったのよね。全部お見通しだし、知ってるんだからね。」
ウンディーネはガイアの首を掴んだ。
「いやだ、離してよ。」
「じゃあ、何でケンタウロスの練習に付き合ったのか言いなさいよ。それとあの少年は誰なの?」
必死に抵抗するガイアとそれを遮るかのように言い放つウンディーネ。そしてようやくウンディーネから離れたガイアはこう言った。
「何か悪い予感がしたのよ。だからあの食事の後にウンディーネ達が去って行ったのを見てケンタウロスに声をかけたのよ。一緒に練習をしない?ってね。それでレスリングの練習に軍神のマールスに付き合ってもらったのよ。」
「悪い予感ですって?どういう事なのか説明しなさいよ。」
ウンディーネが腕を組みガイアに聞いた。
「何か嫌な予感がしたのよね。そうしたらアフロディティーがエリゴスの様子が変だって教えてくれたの。今日の詩の大会の時にエリゴスってやけに声が高くなかった?」
ガイアは自分の首筋をさすりながら答えました。
「言われてみればそうね。声変わりじゃあなさそうよね。」
ウンディーネはクスリと笑った。
「それとケンタウロスから聞いたんだけど、”どんな手段を使っても勝ってみせる”ってエリゴスが言ったんですって。だから彼には気をつけた方がいいわよ。」
「その方が良さそうね。教えてくれたありがとう。それとさっきは首を掴んでしまってごめんなさい。少しやりすぎたわ。」
ウンディーネはそう言って歩いて行ってしまった。そんなウンディーネを後からガイアが追いかける。この時外は暗くなっており7時を過ぎていた。
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