第19話友情と亀裂

3時間目の授業も終わりお昼の時間となった。生徒達は続々と広間に集まった。

ケンタウロスはディオとウンディーネ、ヘファイトス、ヘルメスと食事を取ることにしてみんなで席に着いた。

「なあ、悪魔のクソって知ってるか?」

食事が運ばれてくるなりヘファイトスがみんなに聞いた。

「ああ、魔法の調味料なんだろう。」

ケンタウロスが頷いた。

この日のメニューはオリンピアの期間だけあって色んな料理がテーブルに並んだ。

★古代アテナイ風キャベツの前菜

★浮きオリーブ

★秘儀おかゆ

★悪魔のクソ風味マグロとヤギ

★女性器型の神聖ケーキ

最後のケーキがぞっとしますが古代ギリシャではこんな料理を食べていたんですね。古代ギリシャの方は甘党だったようです。なので前菜に蜂蜜は欠かせなかったみたいです。そして古代ギリシャではスプーンなどの食器はなく、パンをヘラ代わりにして掬って食べていたとのことです。

「あの調味料ね。別名『悪魔の糞』『悪臭を放つガム』と呼ばれる香草アサフェティダ(≒シルフィオン)のことよね。どうかしてるわ。」

ウンディーネがお粥を口に運んだあと笑った。

「僕はあの味が嫌いだな。うわぁ今日もまたこの前菜かよ。勘弁してくれよ。」

ディオが鼻をつまんだのでケンタウロスが言葉を足した。

「たしかにキャベツの青みとビネガーの酢っぱさが残るよね。」

そんな話をして食事をしているとエリゴスがウンディーネの所にやって来た。

「おい、お前が出しゃばるからこっちは恥をかいたんだぞ。なんとか言ったらどうなんだ?」

「あら、言い掛かりはよしてよ。私は普通に答えただけだわ。あなた達もそうやって人のことばかり悲願でないで自分で努力すればいいじゃない。だって王族の出なんでしょう?だったら恥をかかないようにやりなさいよ。今日だって授業前に確認しておけば忘れ物をせずに済んだのに。」

ウンディーネはエリゴスの方を振り向いてクスッと笑った。

「何がおかしい?」

エリゴスが怒りで真っ赤になって聞きいた。

するとケンタウロスがウンディーネを遮ってこう言った。

「おい!さっきから聞いていれば失礼にも程があるぞ。今度のオリンピア祭で僕と勝負だ!負けたら召喚魔法を使ったことをウンディーネとヘルメスに謝るんだな。」

ケンタウロスの言葉にみんな耳を疑った。

「よし、いいだろう。その代わり俺が勝ったら俺の下僕になるんだな。」

エリゴスは自信たっぷりに言うとケンタウロスの顎をぐいっと持ち上げた。それを見てサタンとアマイモンが笑っていた。それからしばらく沈黙が流れたあとウンディーネが椅子から立ち上がってこう言った。

「ねえ、本気なの?だって相手は悪の騎士でしょう?」

「だって悔しいとは思わないのか?あの時反撃すらできなかったんだぞ。」

そこにケンタウロスがテーブルを叩き叫んだ。

「ええ、確かにそうよ。でもケンタウロスは言葉を選ぶってことを知らないのね?見損なったわ。だって勝てる見込みがないじゃない。」

パアン

ウンディーネの手のひらは強くケンタウロスの頬を叩いた。

「だってそうだろう?オリンピア祭は女性禁制で女性は応援のみなんだぞ。聖なる書の時はホーラの女神様達に助けられてきたけど今度はそうもいかないってわかってるのかよ。しかも個人種目が多いから一人で戦わなきゃいけないんだよ。」

ウンディーネの言葉にディオが付け足した。

この時ケンタウロスは自分が言った言葉に不安を感じた。

「僕は一体何を言っていたのだろう?」

ケンタウロスが頭を抱えて考えているとディオとウンディーネが去って行った。

「私たちは協力しないし、ケンタウロスなんてもう知らないから。」

「自分の身をわきまえるだな。行こうぜ。」

ケンタウロスは余計な一言を言ってしまいディオとウンディーネと喧嘩してしまったのである。

「どうしよう。」

ケンタウロスはふと近くにいたヘルメスとヘファイストスに助けを求めたが彼らも呆れて去って行った。

と、その時です。

「あら、随分とお困りのようねえ。」

ケンタウロスが声のする方を振り向くとガイアが立っていた。

「君は・・・ガイア?」

「ええ、そうよ。それにしてもさっきのディオとウンディーネの顔を見た?どうしちゃったのかしら?」

ガイアが驚いてそう言ったのでケンタウロスは今までの事を全てガイアに話した。

「ああ、それで。私でよければ力になりたいけれど・・・。」

ガイアはそう言ってくれるがケンタウロスは不安だった。

「でもガイアが僕と手を組むとウンディーネに何か言われないかな?」

「大丈夫よ。手立ては打ってあるもの。」

ガイアはウィンクしてケンタウロスの手を握ると”頑張ろう”と励ました。

 次の日からケンタウロスはガイアと手を組み特訓を開始した。相変わらずウンディーネとは顔を合わせないし、ディオとは寮で一緒でも話すことはなくお互いにそっぽを向いていた。

学校の授業が終わるとケンタウロスは急いで鞄に教科書などを詰めて走ると寮へ行き、それからグランドまで駆けつけた。

「遅いではないか!」

すると既にガイアは到着していた。

「ごめん。ガイアは本当にやることが早いなあ。」

ケンタウロスが息を切らしているとガイアがケンタウロスに聞いた。

「種目の確認だけど詩の大会、スタディオンの距離を走る中距離競走、ドリコス走長距離走、ペンタスロン(短距離競走、幅跳び、円盤投げ、やり投げ、レスリングの5種目)でいいんだよね?」

ケンタウロスはガイアの言葉に頷いた。

「恐らく全部の種目に勝つことは無理であろう。そこでいくつか絞ろうと思うのだがケンタウロスにとってやりやすい競技はあるかね?」

ガイアはケンタウロスの肩を掴んでにっこりした。

「う~ん、そうだなあ。走長距離走、中距離走、円盤投げ、やり投げは得意かな。」

ケンタウロスは考えながら言った。

「なるほど、じゃあ苦手なのは?」

「短距離走とレスリングが苦手なんだよね。」

ケンタウロスは苦笑して当たりを見回した。

ガイアはケンタウロスの肩から離れると少し周りを歩きながら考えていた。

「得意なのを伸ばして苦手なのを克服かあ。まずは得意なやり投げをやってみせてよ。私は遠くで見ているから。」

ガイアの言葉にケンタウロスは早速やり投げを始めた。

「結構飛ぶじゃない。いいわね。次は円盤投げをやってみて。」

こうしてケンタウロスとガイアの特訓が始まったのである。

「でもオリンピア祭までもうすぐなのに間に合うのかな?」

ケンタウロスはふと円盤を投げる前にそう呟いた。

「あら、だから私は特訓に付き合ってるんでしょう。あっディオがこっちに来るわ。隠れて!」

ガイアの合図にケンタウロスと2人で茂みに隠れた。

しばらくしてディオが去ったのを見て2人で胸をなでおろした。

「よかった。でもこんなことでいちいち隠れてたらキリがないね。」

「確かにそうね。」

この日の特訓は夕方までに終わったが2人とも結構汗をかいていた。

「明日もやるから来てね。遅れないでよ。」

こうして2人の特訓の日々が暫く続いた。

 こうしてケンタウロスの特訓の日々は続いた。

「さて、今日もグラウンドへ行くぞ。」

ケンタウロスが寮を出ようとしたところにユニが聞きいた。

「いつもこの時間だといなくなるけど何してるの?」

「ああ、オリンピア祭に向けて特訓してるんだ。ワル達には負けてられないからね。」

ケンタウロスはあっさりとそう答えた。

「ふーん。最近ディオもそっけないしどうしちゃったんだか。」

ユニの言葉を背にケンタウロスはグラウンドへ行った。

するとまたしてもガイアが先に来ていた。

「ごめん。遅れた?」

「大丈夫よ。今日はケンタウロスが不得意なレスリングをやろうと思って。」

ガイアはクスリと笑った。

「え?ガイアとやるのかい?」

その言葉にケンタウロスは驚きガイアをまじまじと見つめた。

「まさか、私がやるわけないでしょう。強力な助っ人を呼んできたのよ。さあ、こっちにいっらっしゃい。」

ガイアが手を叩くと1人の男の子がやって来た。

「あれ?見かけない顔だね。君は・・・。」

「やあ、僕はマールス。パシフィスタの寮に入っているんだ。」

ケンタウロスはマールスと握手を交わし早速レスリングの練習をするために練習場へと向かった。

そんな彼らを遠くで見ている人がいた。

「あら、ガイアじゃないの?ケンタウロスと手を組むなんてどうかしてるわね。」

それはウンディーネだったのだ。

「それにしてもマールスっていう子本当に聞いたことがないわね。」

ウンディーネは彼らが去っていくのをじっと見つめていた。

するとそこにワル3人がウンディーネの方にやって来た。

「おっと秀才は大変だな。」

そう言いながら3人は鼻をつまんでいた。

「3人してなんなのよ。」

「お前達のたわけた喧嘩とやらには付き合ってられないんでね。」

サタンが呆れて言った。

「なんですって?」

ウンディーネはこの時考えていた。ケンタウロスにはあんなことを言ってしまったけれどもしオリンピア祭で負けたらワルの下僕になってしまう・・・。

でもケンタウロスが言った言葉である。彼が決めたことだからいいじゃないと。

ウンディーネはワル3人を睨みつけた。

「おお、怖い女だ。」

ワル3人はゲラゲラ笑って去って行った。

オリンピア祭までもうすぐだ。果たしてケンタウロスとウンディーネ、ディオは仲直りするのだろうか?

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