第11話冒険の始まり

「この光は何だろう?」

ディオが光に指を差し込むと壁が動き2つに別れその間には未知の世界が広がっていた。

「ここはどこ?学校にこんな所があったなんて。」

3人は驚いて目を丸くした。

「とにかく進もう。何か手がかりがあるかもしれないぞ。」

ケンタウロスの言葉に2人とも頷き未知の世界へと走り出した。

暫く走ると笑い声が3人をすり抜けた。

「オホホホホ。」

そこには森が広がり木々の間に木漏れ日が差し込んでいた。

「なんて綺麗なのかしら。」

ウンディーネはうっとりと森を見つめた。

「水の流れる音が聞こえるぞ。行こう。」

ディオの言葉に3人は走るのをやめて景色を見ながら歩き出した。

しばらく歩いた3人は水の音に耳を澄ませた。

「川があるわ。」

ウンディーネが川を見つけて走り出した。

するとそこに美しい女性がこちらに歩いて来た。

「この花をあげましょう。」

そこに現れたのはホーラ一族の春の女神タローだった。

「あなたはガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの著書の神話集に出てくる?」

ウンディーネは彼女の方を見て驚いた。

「私ホーラ一族の春の女神タローにございます。」

なんとそこには留学生達の仲間の一人が3人の前で微笑んでいた。

「私がご案内しましょう。」

タローはそう言って3人に森の中を案内してくれた。

森にはまだ見たことのない綺麗な昆虫や鳥、動物などが沢山いた。

「こんな光景見たことないな。」

3人は森の中にすっかり見とれてしまい、あの書を探すのをすっかり忘れていた。森の向こうにはどんな世界が待っているのだろうと思うとなんだかワクワクしてきた。3人が後ろを振り返ると川も入口の壁も見えなくなっていた。

「随分遠くに来たんだなあ。」

ケンタウロスがそう呟くとタローがにっこりしてこう聞いてきた。

「どちらからいらしたの?」

ここで3人は、はっとして学校での出来事をすべて話した。勿論あの書を探している事も話したのである。

 森を抜けると吊り橋があった。

「これを渡るのか?」

ケンタウロスは吊り橋の下を見た。すると小さく川が流れているのが見えた。

「頑張って渡るのよ。失敗したら奈落の底よ。」

ウンディーネがそういってケンタウロスの背中を押した。

「やめてくれよ。押すなよ。」

ウンディーネがケンタウロスの背中を押した途端吊り橋がぎしぎしと音を立てて揺れた。

「うわあ。」

ケンタウロスに続きウンディーネー、タロー、ディオが渡った。吊り橋を渡ったその先には冷たい風が吹いていた。

ひゅうー

「なんて冷たい風なんだ。」

ディオが身震いしてそう言った。

「この先は気をつけてね。」

タローは3人にそう促して進むように言った。そしてゆっくりと微笑んで3人に手を振った。

暫く進むと遠くの方で黒いものが光った。

「あれは何?」

ウンディーネが遠くの方を指をさすとタローの表情が暗くなった。

「え?」

ウンディーネ達が後ろを振り向くとそこにはタローの姿はなく、別のホーラの女神がいた。

「あなたは誰?そしてあの黒いものは何?」

ケンタウロスが彼女に聞くと彼女はゆっくりこう答えた。

「私の名はデュシス で日没の女神なの。そしてあの黒いのはお城よ。行けばわかるからついて来て。」

ディオが歩きながらタローはどこに行ったのかデュシスに聞きいた。

「彼女とはここで別れてここからは私が案内するわ。ホーラの一族と一口に言っても沢山の女神達が存在するし、みんな同じ世界にいても住んでいる所はバラバラなのよ。だから区切りがあるの。」

デュシスは淡々とそう言って3人に一緒に来るよう言った。

3人は肩をすくめてデュシスの後を追いかけた。

「あの城は何の城なんだろう?」

不安と期待に胸をふくらませて3人は歩いて行った。

 城に着いたケンタウロス達と女神のデュシスは重い門を開けて城の中へと入って行った。

ぎいぃぃ・・・

中はとても暗く不気味だった。

「なんなんだよ。」

ケンタウロスが不安げにそう言うと何かが彼らの真上を通り過ぎた。

「何?あっコウモリ?」

ウンディーネが上の方を指さすと薄暗い中でコウモリがこちらを飛んで行きた。

「怖いよ~。助けてくれ!」

ディオは顔が青ざめて叫んだがデュシスが彼をなだめたのでその場は収まった。

4人がしばらく歩いていると部屋の中がパット明るくなった。

「これは、みなさんお揃いで。」

そこにはゴブリンがカンテラを手にこちらを振り向いていた。

「あっ。君はゴブリンかい?」

ケンタウロスが聞くと彼はこくりと頷いた。

「そうだよ。今じゃ私の仲間もどこかに行っちまったけどね。」

ゴブリンがそう肩をすくめていると、城の中に風が吹き始めた。

「ねえ、ゴブリンは術士アブラメリンの聖なる魔術の書っていう本は知ってる?」

ウンディーネがハラハラして聞いた。

「聞いたことはあるな。でも何故それを?」

ゴブリンがウンディーネに聞くとウンディーネはこう答えた。

「私達の学校の先生達が探してるんです。なので、何とかして見つけたいんです。願いが叶う本と聞いたんですが、どんなデザインの本なのかわからなくて。」

「たしか一般には伝えられていない秘術が書いてあったような気がします。」

ゴブリンは思い出しながらそう言った。

「僕達の学校の他に新しい学校ができようとしてるんです。それをなんとか阻止しなくちゃいけないんですけどね。」

ディオが呆れて言葉を付け加えた。

そんな話をしながら4人とゴブリンは風が吹く城の奥へと足を進めていった。

この先どんな困難なことが待ち受けているのる知る由もないだろう。

 風が収まると辺りはしんと静まり返った。

「やっと押さまったわね。」

デュシスが天井を見て言った。

「ここから先は気をつけた方がいいですよ。」

ゴブリンが言ったその先には螺旋階段があった。

「よし。登ろう。」

ケンタウロスの言葉にみんな頷き階段を上り始めた。カツン、カツンと靴の音が静かに響いた。そしてしばらく階段を登っていると1つのドアが見えてきた。

「あのドアの向こうには何があるのかしら?」

ドアを開けた向こうには骸骨がいくつか転がっていた。

「ひいぃぃ。」

ウンディーネが小さく悲鳴を上げて骸骨を見た。

「これは・・・。」

デュシスが言葉を失い、ディオとケンタウロスも骸骨を見つめた。

「これはかつて神様に使えていた伝達使達や大臣達じゃと思うのだが。」

ゴブリンがそれらを見て淡々と言った。

「ヘルメスの祖先ってこと?私達の学校の生徒で伝達使の子がいるんですけど。」

ウンディーネはすぐにゴブリンに聞きいた。

「ならそうじゃないかね?」

ゴブリンは頷いた。

彼らが骸骨を見つめているとそこに靴の音が響いた。

「誰?」

彼らが足音の方を見ると黒い服装で見たこともない男がこちらにやって来た。

「君は誰なんだ?」

ディオがその人に聞いた。

「私はオリエンスだ。」

「オリエンスって4大悪魔の一人の・・・?」

ウンディーネが小さな悲鳴を上げるとオリエンスはこくりと頷いた。

「お前はアマイモンの仲間だな!何で今ここにいるんだよ。」

ケンタウロスがオリエンスに向かって叫んだ。

「叫んでも無駄よ。あの人は聞く耳を持たないから。」

そこにデュシスがぴしゃりと言った。

「君達に忠告しておくが術士アブラメリンの聖なる魔術の書はもうあの方の所へ渡っているはずだ。」

「そんな・・・。」

ディオががっかりして床に倒れ込んだ。

「でも何でそれを知ってるのよ。教えなさいよ。」

ウンディーネがオリエンスを鋭い目で見た。

オリエンスがこう言った時、辺りは凍りついたかのように寒気が増した。

「欲しければ正々堂々と手にするんだな。」

ウンディーネの”待ちなさい”の言葉も虚しくオリエンスは去って行った。

その時ゴブリンが去って行く彼を見つめてこう呟いた。

「あの方は神から離反した天使、すなわち堕天使ですな。」

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