第11話 体調不良中の遭遇

 外に出ると、少しの間だったはずなのにもう夕焼け空でそして何故かめまいがした。

 視界が砂嵐のテレビのように荒くなり俺はバランス感覚を崩したように千鳥足になっていることを自覚した。

 これは本格的にまずいのかもしれない。

 タイムリミットとやらが俺は早く出る体質だったのだろうか。

 危機感を抱いたが少しすると視界はもとに戻った。

 気のせいということはないだろうが、これくらいなら立ちくらみだろうか。あとはきっと疲労だろう。

「大丈夫ですか?」

「ああ。ちょっと、慣れない移動が続いて疲れたかな。少し休めば治ると思うよ」

「無理しないでくださいよ?」

「うん」

「だいじょーぶ?」

「ああ、大丈夫大丈夫」

「ちょっとなにしてんのよ」

 相変わらずつかつか先を歩いて行く豊美に振り払われないように俺は2人とともに走った。

 こんなことで能力を使ってもらうわけにもいかないしなと思いながら。


 体感ではもう1時間も経ったように感じる、山を出ていつもの景色を前にしても一向に体調がすぐれない。

 回復したはずなのに気づけばフラフラして足取りが重くなっていた。

「本当に大丈夫なんですか?」

「いや、駄目かも。あのな、豊美。なんか、よくわかんないけど、もう少し、ゆっくり、歩いてくれない?」

 俺の言葉に豊美は振り返って駆け寄ってきた。やっと気づいたのか驚きの表情を浮かべている。

「ねえ、大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫大丈夫」

「肩かすから少し休みなさいよ」

「いいって、それより、家に、帰ろう。ゆっくり、歩いてくれるだけでいいから」

 途端に空が見えた。

 俺は頭と背中と両腕から痛みが生じているのがわかるがそれもどこか遠くで起こってるかのように感覚が薄い。

 俺はどうやら仰向けで倒れたらしい。

 3人が上から覗き込んでくる。

 マジでどうしたんだ。これ。

 声が出せない。

 思い返してみるとこんなにも体調が悪いのは久しぶりだ。

 慣れないことをしただけでなく歴代の海東さんたちしか身につけられなかったものを身につけているのだ。他の人ができないことを素人がやればこうなるのも当たり前か。なんて自己肯定の言葉が浮かんでくる。

 俺が納得しようとした時視界の下側から眩く光が放たれた。

 眩しそうに目をつぶる3人の身につけるアクセサリーからも色こそ違うが似たように光を放っていた。

 そして、俺の体は白いスーツに包まれたようだった。だがしかし、立つことも声を出すことも叶わなかった。

 実はこんなにも頻繁に起こってたんだな変身って。俺は動かない体で呑気にそんなことを考えていた。

 俺の子どもの時の出来事は海東さんが戦っていた特別なものだったかもしれないが、日常的なものをどうして見過ごしていたのか。

 無駄なように思えた俺の気晴らしの成果か、それとも水色に淡く光る手を俺に当ててくれていた豊美のおかげか徐々に意識と体感覚が戻ってきた。

 少しずつ体を起こしジャンプしてみると体調はいつもよりもいいように感じた。

「なんだこれ、清々しいぞ」

「感謝しなさい。これが私の力だから」

 堂々と胸をはっている豊美が言った。

「ありがと。でも、豊美は皮を作って着る能力じゃないのか」

「説明したでしょ。あれは応用だから。治癒がメインで、皮を着るだけじゃないから。それに、あんまりジロジロ見てないで警戒しなさい。来るわよ」

 またも手でそっぽ向かされて俺は感謝もそこそこに回復した体で周囲を警戒した。

 そんな俺たちをクスクスと笑う声が聞こえてきた。

 それはそうだ。格好が目立つ。

 いくらその前に強く光る現象があったとしても突然町中にハロウィンの時のような仮装をしたと思われる見た目の集団が現れればそんな反応もうなずけるのだが。

 一つの笑い声はやけに近い。

 顔を見回してみると笑っているのは沙也加だった。どうも楽しそうだが、あとでその理由を問い詰めてみるか。

 体調も回復してもらえたんだ。俺はガヤを意識から消し去り、ここで恩を返すべく素人なりの戦闘態勢をとった。

 豊美は豊美でどうしてあんなに強気な性格なのか、もっとしおとやかならきっといい印象も抱くだろうに。

「いたー」

 俺の中途半端な集中をよそに真剣に探していたのか舞香が声をあげた。

 舞香の指さす方向を見ると、またも黒っぽい人影。しかし、今回は明らかに黒とは違い、紫のような色のスーツだった。

 俺の見覚えのある物よりもさらに体のラインが強調されたぴっちりした服装の女性が1人、道路の反対側のビルの屋上に立っていた。

 俺と同じようにヘルメットのような物で顔が隠されているため素顔まではわからない。

 やっぱり顔は隠しておいた方がいいと思うのだが、その直談判はあとだ。担当者はここにはいない。

「あれは……」

「ええ」

「知ってるー」

「なんだよ。有名人かよ」

 名の知れた敵がいることに警戒心を抱き俺は構え直す。

 するとすぐ隣で火花が散った。

 さらには豊美と沙也加が力なく紫の女目指して歩き出した。

「おい。突っ込むなよ。というかなんだこの火花」

 火花は舞香の顔から紫の女性まで一直線に飛び、舞香側がオレンジ、敵側が紫で力が拮抗しているように真ん中のあたりで押したり押し返されたりしていた。

 目に見える形で危険が現れたからか笑っていた人たちも避難を始めていた。

 その間も2人はトボトボと紫の女のもとめがけて歩を進めていた。

「おい。なにしてんだよ」

 俺は危うく道路に出そうになった2人の腕を掴んだ。

 2人は少しの間立ち止まると意識が戻ったように顔を上げた。

「な、洗脳能力?」

「舞香ちゃんと同じ?」

「でも、あんたは大丈夫みたいね」

「なんだよ。どういうことだよ。そろそろ話してくれよ。だれなんだよあいつ。それに見た目は知れれてても能力は知れてないのか?」

 俺は2人の無事を確認してから掴んだ腕を離した。が、今度は向こうから掴んできた。

「おい。これはどういうことだよ。こんな状況で急に嫌がらせか?」

「しゃくだけど。あんたはあいつの能力に耐性があって、しかも触れている人間にも効果があるみたいだから。応急措置よ。仕方ないでしょ」

「そういうものなのか?」

 沙也加の方を見るも、うなずき返されるだけだった。この場にいる俺より戦闘慣れしているらしい2人がいうならそうなのだろう。

 俺たちが状況確認をしている間も舞香と紫の女の間にある火花は未だに拮抗し、2人は一歩も動けずにいた。

 俺としては攻めに行きたいが、動けない舞香を1人で置いて行くわけにもいかず同じく動けないでいた。

「なに突っ立ってのよ。あんたでも近づくくらいはできるでしょ。行くわよ」

「でも、舞香が……」

「馬鹿にすんじゃないわよ。経験はあんたより上よ。大丈夫。それともみすみす見逃すっての? 黒の男に対しても戦闘を継続してるのに」

「それは見つかってないから仕方ないだろ。って言い争ってる場合じゃないな」

 俺は深呼吸をした。

「わかった行くよ」

「そんなに強く言わないでも……」

「沙也加もあんまりこいつを甘やかさないでね」

「……はい」

 少ししゅんとした雰囲気の沙也加。

 気を使ってくれるのはありがたいが、ここでは豊美の言う通りだ

 今、紫の女は動かないで同じ場所にいて、ここからは距離がある。それは、なにか遠距離からの攻撃手段を持っているからなのだろう。おそらくは、豊美と沙也加がやられた精神攻撃だと思う。

「なあ、2人は抱えていけないぞ」

「別に抱えなくてもいいでしょ。2人で腕掴んでるから」

「腕取れなきゃいいけど」

「今のあんたはそんなにやわじゃないわ」

 生身なら取れるのだろうか。とか考えたくもない想像を一瞬で振り払い俺はまた一歩前に出た。

「あぶなーい!」

 後ろからの叫び声に俺は思わず振り向いていた。

 叫んだ方向から舞香は俺めがけて飛んでいた。

 何故。

 問う間もなく、いつも元気な舞香の顔から表情が消え、目からは光が消えて力ない人形のような姿で宙を舞っていた。

 そのままの姿勢でいると俺は背中へ飛びかかってきた舞香によって顔から地面に倒れた。

 驚きに目を見開いた瞬間。

「うわあああああああああああああああ」

 俺は叫んでいた。

 なにかされたらしく腰から全身にかけて激痛が走った。

 叫ぼうとして叫んだわけではないがギリギリで理性を保つために反射的に声が出ていた。

 地面へ打ち付けた部分よりも強く痛む。

 気絶ギリギリの感覚で痛みに意識が持っていかれていると自由変形ロボの力か次第に腰から全身へ広がった痛みは和らいできた。だがまだまだ尋常じゃないほど痛い。

 しかし、舞香が背中に乗っかっていることを意識できるまでには余裕もできた。

「……」

 どいてくれと言おうとしたが息もできず声も出せない。

 それどころか体が動かせない。

 なんだろうかこの感覚は。とてもウズウズしザワザワする。

 もっと明確な形容の言葉はある気がするが思いつかない。

 とても心と体が平常では入れない感覚。

「……!」

 なんだかわからないが自分の意思とは関係なく体が無理な方向に動いている気がする。

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