第10話 調整しかし失敗?
ラボに着くと少し驚いた様子の田野さんがいた。
「あら、鳥川くん? 今日は別に来なくてもよかったのよ? それとも特訓? なら関心ね。制限まで時間は限られているものね」
情報伝達がうまくいっていないのだろうか。
「いえ、特訓ではないです。どうも、まだ調整が残っているらしくて」
「そう? 変ね、終わったはずなんだけど」
「そうなんですか?」
「私も終わってると思います。紺のマネキンと遭遇したのですが、きちんと破壊はできました」
「そう。そうよね。まあ、いいわ。今、真木は昨日と同じ部屋にいるわ」
「わかるの?」
「う、多分」
「大丈夫なんでしょうね」
「だ、大丈夫だ」
「じゃ、行ってらっしゃい」
俺は少しの頼りない記憶で昨日の部屋に向かった。
「いらっしゃい」
ノックした部屋は数えられないほどだが、なんとか昨日の部屋にやって来ることができた。
部屋の内装は変わらないが。真木さんの見た目が軽装になった気がした。冷房がついているので別に暑いわけではないため不思議に思った。
「調整って必要ですか?」
俺は早速本題を切り出した。
「ええ。色々と言われたのかな? でも、そうね、私にはわかる違和があるの。だから、その除去のため。でいいかな?」
「はい。俺は調整のために来たので問題ないです」
「じゃ、昨日と同じように」
俺は部屋のベッドに腰掛けた。
そして隣に真木さんが来た。
真木さんもまた同じようにベルトに手を触れた。
「ああ。やっぱりそうだわ。違和がある。うん。でも、そうね。私が昨日の続きを話している間に終わりそう」
「続きですか?」
「ええ。海東さんの話。榎並さんから聞いた?」
「いえ」
「ならちょうどいいわ」
真木さんは耳に息が当たるほどの距離まで近づいてきて続きを話し出した。
「近いんですけど」
「いいのよ。これで」
「ベルトに集中しなくていいんですか?」
「問題ないわ」
真木さんは言うと昨日の続きを話し始めた。
初代。海東優は偽物を破壊した。
研究はもともと1人でやっていたわけではないからもしかしたら技術が漏れるかもしれないことを危惧はしていたものの防げなかった。
男は変身の力を超能力に定め悪用する者たちに目の前に現れた男のように破壊して対処する道を選んだ。
仲間が必要だと、自由変形ロボを仲間たちへ支給した。
からくりなど他の名前で呼ばれていた時期もあったそうだが時代の流れで変わったらしい。
そして、幾代もの戦いの末。今に至る。
いくつかの支部の破壊には成功したものの本部までたどり着くことはできず、先代で血は途絶えてしまった。
俺が見た戦いにおいて先代は重傷を負い、それが相手の能力なのか少しずつ体力を奪っていったそうだ。
そんな敵組織との対立がある中、今回の黒の男は豊美の説明と同じく、どうも俺がいつの間にか所属することになった今いる支部で未完成品を盗んだ者らしい。
豊美の情報と違うのは本来の敵組織ではなく内部の悪意によるものらしいということだった。
どちらが正しいかわからないが初代の頃から自由変形ロボの強奪は何度か経験しているものの未だにゼロにはできないようだ。
犯罪と同じらしい。
「そんなわけで君に回ってきたの」
「でも、最初は虹色の水晶だったんですよね。それがどうして今となっては白いベルトに?」
「これは人のイメージが形になっているの。特に受け継がれている自由変形ロボはどうもより色濃く人の特性を表しているらしいんだけど。初代の海東優さんは、人を照らすイメージが強かったと言われているわ」
「それで虹色の水晶ですか」
では、俺のベルトに白のイメージはいったい?
たしか、賞品にしやすいようにとか言っていた気がするしこれは俺のイメージではないのか。
それともベルトのイメージをすり込まれたのか?
「できたわ」
話が終わり1人考えに集中していると真木さんが言った。
「ありがとうございました」
話している間ベルトの方を見る様子はなく俺はさすが超能力だと感心していた。
「いいのよ。これがメカニックの仕事だから」
俺は大変だと思った。
豊美や俺のような他の能力者にはわからないことをメカニックは抱えているのだ。
「そうだ。戦闘要員は本当に俺だけなんですか?」
「ええ。そうよ。今はちょうど出張でいないわ。元から戦闘要員は少ないのよ」
「そうなんですか。すみません」
「謝ることじゃないわ。だってとうとう支部が見つかったみたいなの。だからうちの戦闘要員の子は派遣されたのよ」
真木さんは俺に気を使ってくれているのだろう。俺はその意図をくんでこれ以上は気にしないことにした。
「あの、支部って?」
「ああ。それは、自由変形ロボの非正規品を作っている支部であり、敵組織の支部よ」
「なるほど」
根拠地に繋がる可能性のある場所を見つけ総力で叩いているわけか。
ならやはり今戦闘要員がいないのも仕方ないのか。
きっと戦闘向きの能力ではなくても戦えるのだろう。豊美はどう言うわけか先程の戦闘では微動だにしなかったうえに黒の男との戦闘でも引っ込んでいたが。
「それでもやっぱり他の地方や国ならもう少し残して出張に行ってるはずだからやりすぎだと思うけどね」
「そうですよ。配分が間違ってますよ。だれもいなかったってのにどうしてこんなことをしてるんです? って下っ端の俺が言うことじゃないですね」
「いいのよ。みんな心のどこかでは思っていることだから」
優しい笑みを浮かべている真木さん。
俺は頭を下げると部屋をあとにした。
最後に見えた表情が少し不敵に見えたのはきっと気のせいだろう。
ラボの入り口に戻ると追いついてきたのか豊美の予想通り息を切らした沙也加と舞香の姿もあった。
軽く挨拶をしてそういえば聞き忘れていたことを聞こうと辺りを見回してみたが目的の田野さんがいなかった。
「なによキョロキョロして、やっぱり気になるんでしょ。そりゃそうよね。ここにある物はどれも珍しいものね」
「珍しいことには同意するが目的は違う」
「なによ。特訓のこと? 話してなかったのは悪かったけど……」
「それもあとで聞きたいが今は違う。俺の能力って本当に超身体能力なのか?」
「そうよ。そして、名前はパワーね」
「パワーってただの英語だけど気に入ってるのか?」
「そういうものなのよ」
「はあ?」
息が整ったのか俺と豊美のやりとりをよそに舞香はペタペタと昨日と同じようにベルトに触れていた。
「どうかしたのか?」
「なんかまがまがしてるー」
「まがまが?」
「多分、舞香ちゃんは禍々しいと言いたいんだと思います」
「禍々しい? なにが?」
「あんたの雰囲気よ。鈍感も過ぎると哀れだわ」
「ちょっとの間会えなかったのがそんなに悲しかったのか」
「違うわよ。本当にわかんないの?」
「雰囲気ってなんだよ。もっと正確な表現はないのか?」
「見えるとか聞こえるみたいなもんよ。まあ、それでも調整が終わったならいいんだけどね」
「おう。俺にはよくわからんが、ばっちりだろ? その禍々しいってのがなんなのかは本当にわからないがな。あともう少しすればわかるって言っておきながらその態度はひどくないか?」
「そうだったかしら?」
この野郎。とぼけやがって、本当に雰囲気ってなんのことだよ。さっぱりだよ。
俺は再びベルトに手を触れてみるもやはりなにも感じなかった。
昨日の今日で身につく能力ではないのだろうと自分を納得させるが、豊美の言い方だともうさっきの今で身についててもおかしくないのかと不安になる。
どうも心を乱されてばかりだ。
俺は胸に手を当てて深呼吸をして再びベルトに触ったがやはりなにも感じられず豊美たちからも雰囲気とやらを察知することはできなかった。
仕事が一区切りついたのか入り口にたむろしている俺たちのもとに田野さんがやって来た。
「よかったわ。手間をかけさせてすまなかったわね。薫くん」
「いえ、新入りに優しくしてくれるだけありがたいですよ」
「さ、終わったんでしょ。あんまりウロウロされると困るのよ。さっさと帰るわよ」
「お前、泊めてもらっててその態度はないだろ」
「あの、ありがとうございます」
「ますー」
言いながら2人は頭を下げた。
俺は慌てながら、
「いや、2人はいいんだよ。しっかり感謝してくれてるし。ほら、豊美も見習えよ」
「ありがと。これでいい?」
「言えばいいってもんじゃ……」
「ごちゃごちゃ言ってないで帰るわよ」
まったく仕切りたがりが、俺は田野さんたちに頭を下げてエレベーターに乗った。
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