第7話 過去完了
しばらくの間話題も尽き果て俺も呆けているだけ時間が過ぎた。
「はい。終わりました」
「やはり時間がかかったわね。なにか違った?」
「そうですね。本物を海東さんの血筋以外の方が着けられるのは初めてということだったのですが、その辺りの違いは感じられませんでした。けれど、先代とは別人なので勝手が違いましたが、それでも大丈夫そうです」
「そう? ならよかった。じゃ、戻りましょうか」
「はい」
どうやらなにがあったのかわからないが終わったようだった。
パソコンでの入力を終えたのか田野さんが椅子から立ち上がると部屋から出ていった。
俺も終わりだと聞いて壁に開いた出口に向かおうと立ち上がろうとして見計らっていたように真木さんが俺の肩を掴み引き止めた。
「なんですか?」
「また調整が必要になると思うから。明日また来てね」
「わかりました」
会話が終わると俺は田野さんについて行くように部屋を出た。
真木さんを見ていて思ったが彼女は自由変形ロボのことになるとオドオドとした様子がなくなる気がした。
部屋を出てから何度かチラチラと振り返るも真木さんが部屋から出てこず、少し遅いのが気になったがここの勝手がわからないため、それ以上は考えないことにした。
「少し昔話をしましょう」
長い通路に飽きたのか田野さんが話しだした。
「昔話ですか?」
「ええ。それは昔、鳥川くんのベルトを初めて受け取った人物の話よ」
「そういえば、これは血筋とか言われてましたけど、他のとなにか違うんですか?」
「ええ。大きく違うのは受け継がれてきたこと。だからこそ血筋も大切にされてきて、代々受け継いできた人たちは歴代と呼ばれたの。それ以外は一代限りのまがい物なの。そう。その話をしましょう。少し説明からはそれるからきっと豊美たちも話していないと思うわ」
俺は少し期待していた。
薄暗い廊下の中で豊美たちがいる場所までに聞かされたのは田野さん言う通り過去の話だった。
それはとある男たちの話。男は、仕事の帰り、なにかに誘われるように歩いていたという。気づくと山奥の小屋の前に立っていたそうだ。
そこからしてどうも作り話のような気がして仕方がないが、そのことを田野さんも伝承の間で尾ひれはひれがついたのではと推測していると言っていた。
まあ、どこでなにがあったのかは正確には当時の状況を知る術はなく推測することしかできないが、とある山小屋に誘われて来ていたらしい。
その男は中から声がすることに気づき小屋へと入った。
「ここはいったい何屋なんだ?」
そう言いながら中に入ると、その小屋の中には人が1人いるだけで食べ物の類いも、家具の類いもなかった、商品と呼べるような物が一切置いていなかったそうだ。
あるのはただ、立っている男の姿だけ。
薄気味悪さを感じつつもこの場を去ろうとは思えず男は再び声をかけた。
「おい。あんた。こんな所でなにをしているんだ」
しかし、言葉をかけるも反応はなく、ただ視線を返してくるのみ。からくり人形か? と思った男は引き返そうと体の向きを変えようとした瞬間。
「あなたにはこれが合いそうだ。これがあればあなたの胸の内を開放できるでしょう」
そう言って小屋の中の男は突然現れた虹色に輝く水晶を差し出してきたそうだ。
光のなかった部屋が太陽が登ったように急に明るくなったことも気にならなかったらしい。
それがなんなのか男には判断がつかなかったそうだが、胸が高鳴り、心臓の鼓動が速くなるのを感じ、視線を外せなくなり、しまいには気づくと手に取り、家に着いていたという。
その不思議な体験から。水晶の解析を始めた男は数年をかけて複製することに成功した。
仲間を集めて時間をかけただけにやりがいと達成感、仲間意識は強くなっていたそうだ。
その油断が仲間の裏切り、複製品の窃盗を許してしまった。
そして、盗まれると、男は慌てふためいた。
やがて、犯人を前にしてその者の姿形がみるみるうちに変わっていったという。
「これが私たちが認識している変身現象だと思うわ」
そう言われ、俺は自分の白いスーツの姿を思い出した。それと同時に俺が戦った黒の男も。
「似てるかもしれないですね」
「事実はわからないけど同じなんでしょうね。話を戻しましょうか」
男は姿形が変わった者を前にして自分の変化に気づいた。自らも姿が変わっていることに。
そして、気づくと複製品を破壊していた。
複製品を盗んだ犯人は気絶しただけで済み、罪にも問われなかった。
ここで男は水晶がなんなのかを尋ねるために山奥の小屋を再び訪れるもその場所にはなにもなかったそうだ。
山の周囲の住民に話を聞くもそんな建物はなかったと言われ、狸にでもばかされたのかと思ったそうだが水晶は手元に残っていた。
「これが一通りの伝承よ」
そう言って田野さんは微笑んだ。
「そして、今のこの施設はこの話の主人公の男が訪れた小屋のあった場所に建てられたそうだけど、それも真偽は不明なままよ」
「結局たしかなことはわからないってことですか?」
「ええ。そうね。でも、初代は海東優という名の男だったことはわかっているの。苗字も先代と一緒だしここは本当だと思うわ」
「ただ、生前の行動からは突然山奥へ行ったり、研究をするような人ではなかったそうなんですよ」
いつの間にか追いついてきていた真木さんが情報を付け足した。
「へー」
しかし、その話がどう今につながるのか。
複製品はなくなったのでは?
小屋は一年の間で店仕舞いしただけでは?
それに、どうやって複製品を作ったのか?
俺は気になることばかり頭に浮かび、どれから聞こうか迷っているとそんな俺の様子を察したのか田野さんが言った。
「気になることは多いでしょうけど、着いたわ。この廊下も慣れれば長いようで短いのよね。話の続きは豊美に聞くか、またここに来た時にでも話しましょう」
「はい」
俺は田野さんと真木さんに頭を下げて3人が待っている場所へ駆けた。
「遅いわよ」
「悪かったよ」
「これじゃ、早く来た意味ないじゃない」
「なにをそんなに焦ってるんだよ。仕方ないだろ。なんかよくわかんないけど、歴代じゃないとか、血筋じゃないとからしいし、あとは別人とか?」
俺は先代という言葉で過去の記憶を思い出していた。
そう。火花散る戦いをしていた先代の海東さんはもうすでに亡くなったと聞いた。
あれだけの動き、きっとまだ若かっただろうに命が尽き果ててしまったのだ。
俺はそんな人間の跡を継ぐことができるのだろうか。
俺の不安を知ってか知らずか豊美は驚いた表情で立ちすくんでいた。
「それって初代の話を聞いたってこと?」
「ざっくりとな。今度詳細を聞かせてくれよ」
「いいわよ。どうせ、だれかが作った話だと思うけど」
地下へのエレベーターに驚かない俺には驚いたり、よくわからない道具や歴代の伝承には驚かず、疑ったり、俺は豊美がよくわからん。
しかし、俺の変化が気になるのはなにも豊美だけではないみたいだ。
俺の周りをせわしなく動き回り、真木さんがしていたようにベルトにぺたぺたと触っている舞香。
「なにかわかるのか?」
「うん。感じるよ。強くなってる感じー」
「そうなのか?」
俺は少し疑問に思って沙也加にも聞いた。
「はい。ひしひしと伝わってきます」
「わかるの?」
「当たり前でしょ。あんたとは違うのよ」
「違うのよー」
さすがに気になっていたことを一日放置しておいてあれだが俺は口にした。
「あのさ、俺の周りウロウロしてるちっこいのは、これでも変身者なのか?」
「舞香だよー」
「そう。舞香だ」
「当たり前よ」
「まえよー」
「というか本当にわからないの? 自分の力が強くなったことも、そうよ。黒の男が吹っ飛ばされたことを倒したと勘違いしてたけど、あの時だってまだ気配が残ってたじゃない」
「全然わからん。どれくらい? って聞かれたらここにいる人間の何人が変身者なのかってのがわからないくらいにはわからん」
「嘘」
信じられないといった様子でまたも驚く豊美。
「なんだよ。そんなに驚くことかよ」
「ええ。もちろん。それは自転車に乗れるようになった1秒後に自転車に乗れなくなるような驚きよ」
「それはヤバイな」
「そうですね。でもそれなら説明が必要そうですね。舞香ちゃんは、洗脳の能力を使えるんですよ」
「洗脳? そんなぶっそうな」
「ぶっそうなー」
「そうよ。、こんなちんちくりんな見た目と珍妙な喋り方しかできなくなったのは能力の代償よ」
「のよー」
「マジかよ」
そう考えるとかわいそうな気がしてきた。
やはり強力な能力には身体的、精神的代償がつきものなのだろうか。
そう考えると超身体能力とかいうアスリートみたいな能力もあながち外れではないような気がしてくる。
俺は変わらず俺でありたい。
そんな真剣に考えている俺を見てクスクスと笑っている3人。
「なんだよ」
「いや、そんなに真剣な顔してるから言いにくいけど、嘘よ。冗談なの。舞香は最初から今の感じだから。あと年はあんたの1歳下だから」
「は? それは嘘だろ」
どう見たって舞香は小学生だ。
それを示すように舞香は相変わらず俺の周りをくるくると回っている。もしかしたらもっと幼いかもしれない。
その身長はどう高く見積もっても俺の胸より高いことはない。頭2つほどは小さいわけだ。
そんな女子が俺の1歳下? いやいや、俺はそんなに身長の馬鹿でかい男ではない。平均より少し上くらいだ。だからこいつは。
「マジなのだー」
疑いの視線に気づいたのか突然止まると舞香はずいっと顔を近づけてきた。
俺は勢いに気圧されて一歩後ずさるが、それにつられて舞香は一歩前に出てきた。
「わかったから」
両手を出して落ち着くように合図すると、舞香は満足そうに白い歯をだしてにっと笑うとまた俺の周りをくるくると回り始めた。
これでよかったのか?
俺の心を見透かしてか、
「よかったのだー」
そう叫びながら俺の周りを走り続ける。
夢だと思い込もうとしていた薄れかけていた記憶の出来事が実は本当だったり、子どもっぽい女の子が1歳しか年が変わらなかったり、果ては自分が夢のようなことに巻き込まれたり、俺はどれだけ狭い世界を生きていたのか。
そして、ここ二日の出来事は俺の人生の中でもトップレベルに濃い。
「ちなみに私は薫くんの一歳上ですよ」
「うん。それはわかる」
「え」
素直に納得されたからか沙也加は少しショックを受けたように固まった。
「おい。沙也加。大丈夫か?」
「大丈夫よいつものことよ」
何故か豊美が答えると続けざまに口を開いた。
「で、田野さん、終わったの?」
「ええ。もう帰ってもいいわよ」
「所長の所に寄ってもいいですか?」
「ああ、通りで時間を気にしていたのね。でも、どうかしら」
「いいんですね。わかりました。行くわよ、薫」
キレていた理由といい、少し焦っている態度といい、所長とやらになにか用事でもあるのだろうか。
「お、名前把握してたんだな」
と呼び捨てでいいと言い合ったものの基本あんた呼びで定着していることをからかう俺をかなりの威力のパンチ叩いてきた豊美に続いて俺は進んでいった。
先行しようと少しがんばりながら歩く舞香に微笑みながら。
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