残されるもの
バブみ道日丿宮組
お題:近い洞窟 制限時間:15分
残されるもの
遺産はきれいなものでなくてはならない。
そう考え始めたのは、余命が1年としかないと医者に言われた時だ。
とある会社に就職して2年目、僕は過労で倒れた。
そして救急車で病院へと搬送され、病状を告げられた。主な症状は精神的苦痛による鬱という話なのだが、精神は肉体を蝕んでた。癌ににたウィルスが少しずつ肉体を削ってるということらしい。
世界でもほとんどかかることがないとされるその病気はまだ正式な病名はついてない。
「これでいいかな」
部屋にあるのは最低限のものになった。
だいたいは売って、通販予約してたものはキャンセルした。
会社からはかなりのお金を慰謝料としてもらった。これは少しも使ってない。
「ねぇ、旅行にいかない?」
「仕事休めるの?」
片付けを手伝ってくれてるのは彼女。
「事情が事情だから説得してみる」
「そう……」
本当なら僕らは別れて、彼女には新しい彼を見つけて欲しい。そのためのお金も用意してる。それを彼女が受け取ることはないのはわかってるがないよりはあったほうがいいだろう。
「最後の時まで一緒にいたい」
「そう……」
そうなら、僕は僕ができることをしよう。
「その前に片付けに行きたいからついてきてくれる?」
はてなを思い浮かべた彼女を連れてやってきたのは、実家の近くにある洞窟。ここは昔防空壕としても使われた歴史ある場所。子供の頃はそんなことお構いなしに中を探検して、秘密基地にしたものだ。電気工事までしてるから光は地上並にある。
「こんなところになにがあるの?」
「ほら、子供の頃って川に捨てられたエロ本とかを拾っちゃうだろ」
「そう……なの?」
信じがたいものを見る目が返ってきた。
「それらがたくさんここには隠してある」
そういいつつ、いくつかある棚に置いてある本から、エロい写真を取り出す。昔のグラビアイドル。今となっちゃ落ちぶれてるが……。
「歴史深い本の中によくもしまっておいたわね」
「子供の知恵には驚きだよね」
笑い合う僕ら。
これが次の世代に引き継がれればいいのだけど、僕たちに子供はいない。そもそも結婚すらしてない。
「ねぇ、話があるんだけど」
数分片付けをしてると、彼女がきりだす。
「これ受け取ってくれないかな?」
「……指輪?」
彼女の手には2つの指輪があった。
「結婚して欲しい」
「……僕には未来はないよ」
それでもと彼女は僕を抱きしめる。
「でも……君を悲しませるだけしか僕には残ってないよ」
それはとても汚い遺産。受け継がさせちゃいけないもの。
「赤ちゃんを作りましょう」
真面目な顔をして彼女はいう。
「旅行先で子作りして、そして結婚するの」
なにをいってるのだろうかと困惑したが、彼女の目は本気という二文字がしっかり埋め込まれてる。
こうなった彼女を止めるすべは見つかってない。
「わかった……でも、できるとは限らないからね?」
「結婚してくれるだけでも私はいいから」
一筋の涙がこぼれた。
残されるもの バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます