第46話 すべて終わって

 まるで流星の如く、一筋の光の矢となって堕ちていく竜を、メルやラグナ達はただ呆然と見る事しか出来なかった。


 ウィルがノーファンに言った最後の言葉はすぐに皆に伝えられ、理由もわからないまま湯孔に近づいた火は片っ端から消火されていった。

 その間にも避難や鎮火は進み、ウィルが狂った竜を巧く操っていたのもあってか、徐々に関所街は落ち着きを見せていった。ノーファンもユラと共に空を駆り、竜騎兵の残りの5頭の鎮圧にあたった。元より兵士との縁は結んでいない竜、ならば背に乗り角を持った人間よりも、竜達の長である竜の神イルヤンカことユラの命令の方が言う事を聞く。


 そして竜騎兵と火事がひと段落しメルが空を見上げると、そこにはアロウ平原の方へ向かい一直線に飛ぶ竜とその背に乗るウィルの姿が見えた。


「リッシュ!」


 思わずそう叫ぶと、リッシュは何も言わずにメルの願いに応えた。近くでは同じ光景を見ていたラグナが、フレイヤをアロウ平原へと向かわせている。


 《メル、いいの? あそこに行って》


 唐突にリッシュが語りかけてきた。最悪の事態になっているかもしれない、確かに歴史書通りならユラノスは行方不明になる筈だった。しかし親の死に目にも会えず未だ葬送すら出来ていないメルにとって、小さい頃から良き遊び相手であり相談相手であった幼馴染の最期ぐらいは、せめて見届けなければという気持ちであった。


 《いいの。行くよ、リッシュ》


 メルはそう伝えた。ふと眼下を見下ろすと、自分達が乗ってきた馬車のところにもう一頭の馬と兵士がいた。コルセアとカイルは現場に出ていたが、その場に残っていたミラムとルフィアに何か伝えていた。その内容までは聞き取れなかったが、表情を見るに何か只ならぬ事が起きている事は察する事が出来た。


 しかし今は構っていられない。一刻も早く、一秒でも早く……ウィルの元へ飛ぶのだ。


 *


 その頃、サルタンの宮殿が何者かによって占拠されたという報せは他の騒ぎの渦中にあったシナークにも届いた。

 シナークの駐屯地から来た早馬よりもたらされたその情報を、ミラムは「やはり」と言った面持ちで受け止めた。竜騎兵が動いた時点で夫が、モロスが何か行動を起こすなら今しか無いと考えたからだ。


 しかし最初に頭を抑えてしまわれると、もう手の打ちようが無いのも事実だ。ミラムのいる沿岸一帯は今でもリハルトからの攻撃に怯えており、とても皇都に軍を差し向けられる状態ではない。

 そしていずれにしても皇帝と第二皇子を人質に取られている状態なので、悠長に戦っていてはどんどん状況は不利になるばかり。取れる方法があるとすれば、相手の思いもしない方法で短時間で勝負を決するしか無い。しかしそんな方法が……


 その時、ミラムの脳裏に一つの可能性が思い浮かんだ。関所街の騒ぎは落ち着いてきた、後は軍だけで何とかなるだろう。

 本当は軍属であるコルセア達の意見を聞きたい所だが、関所街で事態の収拾にあたっているのでとても聞けるような状況では無い。


「やるしか無いか」


 そう呟くとルフィアにも自分の考えを伝えた。ルフィアも他に方法は無いと悟り賛成してくれたところで、この方法の最大の障壁となるであろうものを解決する為に空を見上げる。

 目的の人物はすぐそこにいた。


 *


 気がつくと、あたり一面の白い世界に立っていた。目の前にはあの狂ってしまった竜が立っている。それもあのくすんだ体毛ではなく、本来の――あるいは本来以上の美しい輝きを放って。


「……ここは?」


 《ここはどこでも無い。本来なら縁の儀の際に来るところなのだが……》


 滔々と竜は語った。カルァン石に狂い、自我を失ったあの竜とは別の竜かと思えるほど、落ち着きのある声だった。


 《まず問おう人間よ、お主の名は?》


「エルストス=イルカラです。貴方は?」


 《あの場所では"ウヌン"と呼ばれていたがな、我が名はアムス。フラムの竜だ》


 そう言われてユラフタスの村での会話を思い出した。竜には水を使うウォルトの竜、火を使うフラムの竜がいる。ならばこの、アムスと言う竜が火を吹いていたのもわかる。


 《イルカラか。有難う、不覚にもあの石に力を奪われた私なぞを救ってくれて》


「い、いえ、自分も必死だったので……」


 まさか竜に謝られるとは思わなっかたので驚いた。


「しかし……自分は、貴方の事を救えたのでしょうか?」


 ウィルがそう聞くと、アムスが少し笑った気がした。


 《そう畏まるな、名も呼び捨てで呼べばいいさ。そうだな……確かに救ってもらったさ。あのままなら私は、あの辺り一帯を焼き尽くし、そして死んでいただろう》


 そう言ったアムスにウィルはなんて声を掛けていいかわからなかった。


 《死して尚、罪過の汚名を、我々やユラフタスが生き恥を晒すような事はあってはならない。お主は私がああなっていた最中にも、私が無闇に破壊を行わないように誘導してくれただろう? であるならば、私はイルカラに対しては最大限の感謝の意を述べる事しか出来ぬ》


 気が付くと辺りの白さが強くなってきていた。自分の体もアムスの体も少しずつその白さに溶け始め、霧がかかったようにぼやけてくる。


 《そろそろお別れのようだ、しかしこの恩は忘れぬ。もしイルカラが私の力を欲することがあるなら、いつでも馳せ参じよう》


 そう言ってアムスは、翼の先端を握手するかのように差し出した。


「……その時が来るかはわかりませんが、もし必要になったらお願いします」


 ウィルもぎこちなくそう言うと、その翼を手に取って握手した。その瞬間白さはいやます1人と1頭の体を包んだが、最後にアムスがポツリと言ったことをウィルは聞き逃さなかった。


 《ユラノスよ、かの鳶色の眼にて我らを見守り給え》


 *


 メルがユラ池の畔に着くと、普段は青い水を湛えているはずのその湖は昏く澱んでおり、その中になんとか頭は水面から出ている竜とウィルの姿があった。


「ウィル……ウィル!」


 思わずそう叫ぶと、メルは自分の服が濡れるのも厭わず湖の中に入った。後から追ってきたラグナと共にがっくりと脱力していたウィルの体を何とか湖畔まで引き上げると、大きく体を揺さぶった。


「ウィル! 返事してよ! ねぇ、ウィル……!」


 メルは溢れ出る涙を堪えられなかった。そうかもしれないとリッシュには言われたのに、それでも心のどこかで「そんなはずは無い」と思っていたからかもしれない。


 これと言った医療技術を持っているわけではないメルは、ただただひたすら声を掛けたり揺すったりしていた。ラグナがウィルの身体をうつ伏せにして水を吐かせるように背中を叩いてみたが、それでも反応は無い。


 とにかくもっと専門的な治療ができる人を呼んでこなければならない。水を飲んだのか全身を強打したのか、症状がわからなければラグナにもできる事は少ない。ウィルの身体に突っ伏して泣き崩れるメルに申し訳ないとは思いつつも、再びフレイヤに乗ったその時、ラグナは信じられないものを見たような気がした。


 ユラ池から白く光る粒子が浮き上がり始め、静かに狂った竜と湖畔に寝かせられたウィルとを取り囲み始めたのだ。

 完全に真っ白く包まれたその光景は、ラグナには見覚えのあるものだった。


「"えにしの儀"だ……」


 異常なその光景に思わずウィルから離れていたメルは、ラグナのその声に驚いて声を上げた。


「縁の儀!? それがなんで今……」

「わからない……けどもしかしたら今、ウィルとこの竜は……」


 そこから先をラグナは口にしなかった。あの森の中の神殿でしか行えない儀式が、今ここで誰の何の手助けも無く行われてる事が理解できなかったからだ。


 しかしメルは違う事を考えていた。もしそうなら、ウィルは生きている。縁の儀が終わったら目を覚ますのではないかと。

 そう確信したメルは待った。根拠は無いが、そうであって欲しいという願いを込めて。


 *


 …………


 おもむろにウィルは眼を開いた。

 その瞬間見えた抜けるような青空はあまりに美しいものだったが、それはすぐに何かに遮られた。


 何か、全身が温かいものに包まれたが、それが人の身体だと感知するまでに幾分時間がかかった。

 自分の身に何があったのかを理解するより早く、嗚咽が聞こえてきた。しかしそれは聞き慣れた声、初めて自分が自分の意志で"好きだ"と自覚した人の声……


「メル……ありがとう、メルーナ」


 辛うじてそうとだけ呟くと、呼ばれた人は一瞬泣きじゃくった顔に笑顔を見せると、すぐにわんわんと泣いた。

 その細い体を何とか両手を上げて抱きすくめると、途轍もない疲労感と共に、「終わったんだな」という感情が胸を支配する。そう思うと、ウィルも自然と涙が溢れてきて止まらなかった。生きて帰ってきた、再びメルの顔を見れた。それだけで十分だ。


 ――今ぐらい、泣いてもいいだろ? メルーナ……


 *


 ウィルが目覚めたちょうどその頃、サルタンでも全てが終わろうとしていた。

 あっという間に宮殿を占拠したモロスの部隊とサルタン近隣の駐屯地から出動した軍が睨み合いを続ける中、南の空より数頭もの竜が現れたのだ。


 その時モロス達はいよいよ皇帝と第二皇子に最後通牒を突きつける為に、占拠させた宮殿に入る直前だった。


「あれは……?」


 宮殿の正門の前に立ち、モロス達を迎えた兵士がそう呟いた。


「どうした」

「いえ、向こうの空に何か……鳥?」


 2、3人の兵士が同じ方向を見上げると、確かにそこには鳥のような影があり、それは自分達の方向に向かって徐々に大きくなってきた。


 しかしそんな異常事態にも関わらず、モロスや同行していたラミスやアルメスは落ち着いていた。その"鳥のような影"が何であるかを知っているからだ。


「案ずるな! あれこそはモロス皇子の発案にて世界最強の部隊、竜騎隊ぞ!」


 アルメスがそう声を上げると、兵士達は歓声を上げた。竜の存在は知っていてもその姿を知らない者がほとんど、遠目でもわかるその圧倒的な存在感に、兵士達の士気は上がる一方だった。


 周りの兵士の自分を讃える声にモロスは満足していた。これでこそ皇帝、これこそが皇帝。新たなイグナス連邦は私が率いる。強い祖国、父上や弟とは違う。外交でも軍事でも諸外国より圧倒的な力を手に入れた私の国に、もはや敵など存在はしない。

 そしてその圧倒的な力よ、私の為に皇都に向かってきた私の為の竜達よ。この場所にて、旧き者らに新しき時代を見せつけよ。


 モロス達が宮殿に入ると、束の間の緊張から解き放たれた玄関の兵士が、一息つきながら喋っていた。


「遂に第一皇子たるモロス皇子が、我が国の皇帝陛下となられるんだな」

「全くだ。この時をどれほど待ち望んだことか……しかしモロス皇子のご慧眼と手腕も素晴らしい。伝説の生き物とされていた竜を発見し、それを従えてしまうのだからな」


 そう言って会話していた兵士は空を見上げた。空にはもはやはっきりと"鳥ではない"と言えるほどはっきり、竜の姿が見えてきていた。


「すごいな、あの力強さ。何頭いるんだ?」


 そう言って兵士が指さして数を数え始めた。


「1、2、3……8

「勇ましいことだ。モロス様が皇帝となられた暁には、イグナスはさらに強くなっていくだろうさ」


 *


 モロスが宮殿に入ってからおよそ2時間後、モロス、ラミス、アルメスの3人は、他の雑多な兵士と共に宮殿の地下牢に放り込まれていた。宮殿の内外ではモロス皇子の計画に加担し、宮殿を占拠していた500名もの兵士が次々と捉えられている。


 モロスが宮殿に入ってすぐ、外ではノーファンの指示の下、シナークに連れてきた14頭の竜とコルナーのうち、ユラを含めた8頭が宮殿を占拠した兵士の掃討にあたった。

 いくら500名の兵士と言えど、8頭もの竜を相手にその差は歴然であった。もちろんコルナー達は睡眠魔法などの非殺傷系の魔法のみを使ったので誰も死ぬことは無く、それでいて一方的な戦いだったことは言うまでもない。


 外にいた兵士が無力化された事に中の兵士が気付いても、それはもう後の祭りだった。

 戦闘の途中から2人のコルナーは戦線を離脱し、突入できなかった正規軍の兵士の何名かを宮殿の屋上まで運び上げた。運び上げられた兵士は軍の中でも選りすぐりの特殊訓練を受けた者たち、本来は敵の本拠地に最悪は単独で乗り込んでも戦えるようにと訓練された者たちだ。その兵士はあっという間に皇帝と第二皇子の居る部屋へと入り込むと、モロスの手が届く前に速やかに身柄を確保した。


 身柄の確保が信号弾で外部の兵士に伝えられれば、即座に正規軍が宮殿の外の残党を蹴散らしつつ突入した。モロスの兵士達も応戦したものの、戦闘はすぐに終結していった。


 シナークで宮殿が占拠された報せを聞いたミラムは、ユラフタスのコルナーを借りられないかと考えた。偶然近くにいたノーファンに尋ねたものの、勿論最初は首を縦に振らなかった。


 しかしこのままモロスを野放しにしていたら、まず間違いなく竜を戦争に使われるという事。そして数日の間とは言えミラムはユラフタスの村に滞在し、ノーファンを含めたユラフタスの人にもミラムの立場や言葉を理解してくれていた事が幸いした。その頃にはまだウィルと狂ってしまった竜の安否が判らなかったが、それでもノーファンは実に8頭もの竜をサルタンへと向かわせた。


 結果的にウィルと狂ってしまった竜は助かり、叛乱軍は全て捕らえられたという報せが入ってきた時には、ミラムもルフィアも胸を撫で下ろしたものだ。


 ――あぁ、やっと終わった。


 明け方から始まったモロス皇子とその一派による皇位簒奪未遂事件は、多くの犠牲を出しながら、夕暮れになって終結した。

 時に新暦804年ネゴイム1月、シナークの丘の向こうのソトール海には、まるで何もなかったかのように夕陽が沈んで行く。


 *


 翌日、一応の落ち着きを取り戻したサルタンの宮殿には、皇帝とローランドの他に、ミラムとルフィア、そしてウィルとメル、ラグナがいた。そして目の前には後ろ手に縄を括られたモロス皇子がいる。


その両脇には、犯行の意志有りと認められた時には即座に射殺できるように、近衛が銃を構えて立っている。もはや皇子相手の警備ではなく、完全に重大な犯罪を起こしたものに対しての警備だ。


 皇位簒奪未遂という前代未聞の事件にあって、その関係者は粛々と裁かれていった。関与した者は上は軍の上層部に枢密院、下を見ればキリがない程。しかし民間人は民間裁判で裁かれ、軍人は軍事裁判で裁かれる。ラミスは民、アルメスは軍だ。


 しかし首謀者であるモロスは違う。皇族であり、その皇族が自らの欲の為にここまで内政を混乱させたのだ。他国に知られれば、特に交戦中のリハルト公国に知られれば不利な状況になる。そうなれば正規の裁きには掛けられず、かつモロスより立場が上の者に処遇を決めてもらわなければならない。即ちそれは、皇帝ライナスによる私刑だ。


「さて、何か申し開きがあるなら言ってみよ。モロス」


 ライナスの質問に、モロスは沈黙を返事とした。


「兄上! なぜこのような事を……」

「お前が皇帝に相応しくないからだローランド!」


 俯いていたモロスは顔を上げるなりそう怒鳴った。


「長きに渡る旅、あれはなんだ、遊興か? 結果的にリメルァールの優れた工業技術をユラントス王国なぞに売り渡しおって! ノータス王国には派兵もしていたな、何の意味があるというのだ。兵の見返りが鉄鋼だと? 何の得がある、弱腰外交も甚だしいわ!」


「相応しくないのはお前だモロス」


 ライナスが一喝すると、水を打ったような静けさが訪れた。


「国の為を思うお前の気持ちは素晴らしい、だが本質を見誤ってはならぬ。ユラントスから買ったのは信頼ぞ。此度の戦、リハルトの進軍速度が遅い。あの軍事国家にして周辺国を次々と飲み込んだリハルトが、だ。何故かわかるか?」


 その問いに、またもモロスは沈黙で返した。


「ユラントスが中立を宣言したからだ。これによりリハルトはユラントスの領海や領土に軍を布陣することができなくなり、結果的に長距離の兵站の移動を余儀なくされた。ユラントス領の島が使えればさぞ楽だったろうにな。

 そしてそれはローランドの外交の賜物だ。ユラントスとしては我が方に加勢は出来ないが、リハルトに加勢すれば我が国の工業技術は入らなくなる。それを惜しんだのだ。

 さらに言えば、鉄鋼資源が急速に開発されているノータスの鉄鋼は、今後も急激に重工業が発展していくであろう我が国には不可欠の物じゃ。そんな単純なことすら考えられないモロスは、全く皇帝として相応しくないわ!」


「ええい黙れ黙れ! 父上もローランドも何故分からぬ。まずは国力の増強ぞ、民が飢えずにいる為には国が強くなるしかないと何故分からぬか!?」


 ライナスの言葉に顔を歪ませたモロスはそこまでひとしきり捲し立てると、今度はミラムの方を向いた。


「そもそもミラム、なぜ貴様が私の邪魔をするのだ!」

「あら、協力するなんて言った覚えは無いわよ?」


 モロスの攻めを笑顔で躱すミラム、流石扱い慣れてるなとウィルは内心で思った。


「妻は夫の助けをするものだと決まっておるだろう! それがそこな平民風情と関わりを持ち、あまつさえユラフタスを宮殿にいれるなぞ汚らわしいにも程があるわ!」

「そんな決まりはありません! それにユラフタスだって私達と同じ……」

「黙れ女中風情が!」


 ルフィアが耐えかねたのか声を挙げたが、モロスの一喝に黙ってしまった。


「おいそこの者、誰でもいいから今すぐ第二聯隊の高官に伝えよ。"今すぐ白露山脈の麓の森を焼き払え。竜は捕縛し、人間は一人残さず外へ出すな"とな!」


 それはあまりに横暴な命令であり、誰の命令であっても許可されるはずの無いものであることは明白だった。

 しかし屈辱と怒りで我を忘れていたモロスはお構いなしに声を挙げた。しかし周りの兵士は微動だにせず、それどころか失笑するものまでいたほどだ。


「何故だ! イグナスの第一皇子たる私の命令であるぞ! それとも何だ、金か? 金ならいくらでも支払おう! だからお前ら、私の言う事を聞け!」

「見苦しいぞモロス。お前はもはや皇子などではない、反逆を企てた罪人に過ぎぬわ!」


 ライナスがそう一喝すると、一瞬にしてモロスは精気の抜かれたような表情となり、その場に崩れ落ちる。

「連れていけ」と自らが命じ、兵士により地下牢に連れて行かれる自らの息子を、ライナスは悲しげな顔でいつまでも見続けていた。

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