第37話 カルァン石
ウィルはその既視感のある光景を、側から見れば異常極まりないその光景を、本能的な恐怖より、むしろ頼もしさをもって見上げた自分に驚いた。
もう随分前のような気がするが、あの時は驚きと恐怖に支配されていた。だが今は、あの巨大な影を、疑いようも無く"味方"だと信じる事が出来る……!
「フレイヤ!」
「リッシュ!」
メルとラグナが同時に、自らの縁を結んだ竜の名を叫んだ。
名を呼ばれて尚も速度を上げ、主翼を畳み後ろの翼で姿勢を制御しながら急降下して一直線に突っ込んでくる2頭の竜は、知らない者に恐怖の念を与えるに十分であった。
2頭の竜は馬車の直上で主翼を展開し、地上に大量の粉塵を撒き散らして滞空すると、フレイヤは黄色い焔の息吹を、リッシュは物凄い圧の水をそれぞれ敵の男達に打ち出した。
形成は一気に逆転した。包囲していた6人の男達は銃を投げ捨て、両手をいっぱいに広げて防戦一方となった。
魔法は1人で展開するよりも、数人でまとまって展開した方が威力は格段に増す。徐々に男達は一箇所にまとまり、防御魔法を展開した。
「敵も一流の魔法使いね。魔法の基礎をよく分かっているわ」
ラグナのその冷静な分析でレイクは我に帰った。
「あ、あの竜は君達のかい!? 噂に名高いとはいえすごいな……
いや、悪気は無いんだ。すまない。そう、ラグナさんの言うことはもっともだ。ただあのままだと殺しかねない、是非とも生け捕りにして欲しいのだが……出来るか?」
若干動転していたペイルだが、すぐに護衛たる任務を思い出したのか指示を飛ばす。苦悶の表情を浮かべるのは、敵の番だった。
*
「クソっ! 何だあの化け物は!」
突然強力な魔法攻撃を受けた敵は、もはや防御するのが精一杯だった。
率いていた男はこの襲撃にあたり、事前に魔法に長けたユラフタスがいるとの情報から、機甲師団にて研修させた一流の魔法使いに最新式の銃を持たせて襲ったのだ。
ミラム皇太子妃さえ連れ帰れば良いのだ。他にも何人かいるとの情報だったが、そんなものは連行してランディルの刑務所にでも押し込むか、抵抗すれば殺せば良い。その為にこんな人里離れた山中を選んだのだ。その辺に放っておいても腐るか獣にでも喰われて、証拠など残らない筈だ。
これだけの事で1人200万ロンドだ、割のいい仕事だと思っていた。
それがこのザマだ。途中までは計画通り、あちらさんの魔法もなかなか厄介だったが、あと一歩で押し切れるところまで来ていた。
だが突如竜が現れた。そう、竜だ。本物を見るのは初めてだったが、来るなり物凄い魔力量の攻撃をぶちかましてきた。そうして押されつつあるのだ。
「おい! こうなれば撤退だ! 準備はいいか?」
そう言うと5人が頷いた。魔法の中でもかなりの難易度を誇る幻覚魔法を用いて、この場を逃れると言うのが撤退方法だ。まさか使う事は無いと思っていたが、よもや撤退することになろうとは……
勿論、幻覚魔法もまとまって使えばそれだけ影響範囲は広い。確実に逃げられると踏んだ男は魔法を展開し、6人がそこにいるかの様に見せかけて、背後の森へと飛び退った。
「よし! 各々、散開して集合地点へ向かえ!」
少し離れた森の中に退避した男達は、幻影に惑わされて攻撃を続ける竜達を見て安心すると、率いていた男はそう指示を出した。
「りょうか、グハッ」
だが返答をしようとした1人が、呻き声を上げて土に転がった。見るとその背中からは鼓動に合わせるかの様に、鮮血が噴き出している。
――何故だ…! 幻覚魔法は完璧のはず!
男はある失敗をしていた。確かにこの6人は、イグナス連邦はおろか、周辺国のそれと比べても遜色無い強さを誇る魔法使いなのだ。しかしそれは自信となり、それ故に慢心していた。「自分達より強力な魔法を使える者が、民間にいるわけが無い」と。
よく状況が掴めないうちに後ろのもう1人が、肺から空気を吐き切るような音を出して突っ伏した。その音に振り返り、一瞬考えた後に捨て置くことを決意した男は、防御魔法を後ろに展開しながら前を向いた。まだ逃げられる、逃げ切れると信じるかのように。しかしそこには、あり得ない光景が広がっていた。
「貴様は……」
目の前には、後ろにいるはずのミラム皇太子妃の護衛が立っていたのだ。男は何が起こったのかの理解も追いつかないまま、その護衛が打った弾に腹を撃ち抜かれた様な感触を覚え、そのまま意識を霧散させていった。
*
「予想以上に上手くいったな。ありがとう、ラグナさん。メルさん」
そう言って頭を下げたレイクの足元には、気絶させられたかあるいは眠らされた6人の男が転がっていた。
敵が幻覚魔法は、人間は騙されてもフレイヤとリッシュから見れば厳格であることは明らかな事だった。竜同士が戦う事など滅多に無いが、それでも戦う際には幻覚魔法を使う事もある。頭の良い竜ならではの戦い方ではあるが、その為に幻覚が使われた事も対抗する魔法も持っているのだ。
2頭の竜が攻撃の矛先を変えた所で、ラグナやメルが幻覚に気付いた。そして狙いやすい所を走っていた男には、フレイヤが銃で背後から撃たれたかのような錯覚を見せつつ睡眠魔法を、もう1人にはメルが単純な魔法による衝撃波を背中に食らわせて意識を刈った。
様々な方向に散った他の3人もめいめいに無力化しつつ、敵を率いていた男を最後にリッシュが幻覚魔法を使って仕留めた。竜の魔力量と人間の知恵をもってすれば、さも"銃で撃たれたかのような"衝撃を喰らわせる事など簡単な事なのだ。
レイクによる尋問の間、一行は束の間の小休止となった。勿論ミラムの関心は襲って来た連中などではなく、この場を救ってくれた竜だ。
「これが竜? すごいわ! この迫力、美しさ! 魔力量! こんなに綺麗な生き物がいたなんて……」
ミラムはまるで子供のようにはしゃいで、フレイヤとリッシュに忙しなく目線を向けている。
「ごめんねフレイヤ、少し付き合ってあげて」
そうラグナに言われたフレイヤは、ミラムにされるがままにあちこち見られたり触られたりしている。
「中等舎の頃に魔法も少しかじったからわかるけど、尋常じゃない魔力量を持ってるのね竜は。報告書で読んだ通りだわ……
それに幻覚魔法なんて高位の魔法使いじゃなきゃ使えないようなものをあんなに容易く、しかもそれの対抗魔法なんて聞いた事も無いわ」
ミラムがそうラグナに言った。
「だからこそ、彼ら"盟友"を戦いの道具などにしてはいけないのです。ミラムさんの方でどうにか出来ないのですか?」
「私も出来る限りの事はするけど……難しいわね」
ラグナのその訴えに、ミラムはそう答えるしか無かった。
「私だって戦争は嫌だわ、平和に暮らしたいもの。
でもあの馬車屋で会ったコルセアって軍の人も言ってたでしょう? 力を手に入れたら人はそれを使いたがるのよ。まして野心ある者なら尚更ね。止められるとすれば、今は病に臥せっている皇帝を説得して、勅命として竜の使用を禁止してもらうしか無いわ」
それを聞いたラグナはやはり、という表情で俯いた。
「ゴメンね。でも今はとにかく、この騒ぎを終わらせる事だわ。捕らわれた竜が本格的に戦線に投入される前なら、まだ何とかなるかもしれないし」
*
その後ややあって戻ってきたレイクの手には、鎖の付いた銀色の板が握られていた。
「あの男達は?」
「今頃下流へ向けて流されてますよ。埋めようとも思いましたけど、流して誰かに見つけられた方がこの襲撃を指示した人への見せしめになりますからね。そもそもが非合法な襲撃、犯人探しなんてしようものなら、逆に叩かれますよ」
ルフィアの質問にそう答えたレイクは、普段の温和な表情からは想像も出来ないような、まさに裏に生きる者の風格を漂わせていた。
「6人もいたのに全員ですか……?」
少し震えた声でメルが呟くようにして尋ねた。
「そうだ、時には非情にならなきゃいけない事もあるって事さ。それに下手に生かして"竜に襲われた"なんて報告された日には厄介なことになるしね」
「それで、あの男達はどこの誰の指示? まぁ見当はつくけどね」
ミラムが腕を組みながら聞いた。
「恐らく皆さんの想像通り、モロス皇子でしたよ。ミラム様を連れ帰るのが主目的で、それ以外の私やルフィア様を含めた人は殺しても構わないと言われていたようです。
しかし余程慢心していたのか或いは馬鹿なのか、1人が軍の認識票を持っていましたよ。多分昔は軍属で、記念に持ってたとかそんな所でしょう。お陰で身元を確認すれば、色々と引き出せそうだ」
そう言いつつもレイクは、ほくそ笑みながら聞き出したのであろう内容を手帳に書き留めていく。
「とりあえずユラフタスの方々の村を目指しましょう。第二波が無いとは限りませんし、その2頭の竜に負担を掛けるわけにもいきませんからね」
*
イグナス連邦の東、白露山脈の麓の近くに住む人々に「立ち入ってはいけない」と言われる深い深い森の奥に、そのユラフタスの村はある。
「なんか帰って来た感じするね」
「そうだなぁ、結構長いことお世話になってたし」
ウィルとメルがそんな話をしている間に、ラグナは懐から木の板を取り出して木の穴の中に放り込む。
ミラム達が不思議な表情でそれを見つつ馬車が進むと、ウィル達にとってはもはや見慣れた、森の匂いのする村が姿を現した。
「こんな所に村が……と言うかユラフタスの人ってこんなに森の奥深くに住んでるのね、知らなかったわ」
「すごい森の奥まで入って行くからどこに行くのかと思ったけど……」
そんな事をルフィアと言いつつ、ミラムは不思議な感慨にとらわれていた。半ば強制的に祭り上げられて、皇太子妃などという分不相応な地位に就いたが、それならとばかりに平民でいたうちなら絶対に知り得ない情報を沢山集めていた。
それ故にこの国の内情については色々と知っていたつもりだが、こんな知らない世界があったのだ。きっと皇帝陛下もローランド第二皇子も知らない世界に、今、自分が足を踏み入れていると言うのが、不思議でならなかった。
村に着いたのはちょうど昼頃だった事もあり、迎えたノーファンに挨拶をした後はすぐに昼餉となった。
数ヶ月前のウィルとメルのように、ユラフタス独自の生活様式と食文化に驚くミラム達3人を囲みながら、話題は自ずと今後の事になった。
「ラグナからの手紙にもあったが、そんな事になっていたとはの……」
ユラフタスによる襲撃からの動きを改めてノーファンに説明すると、重々しくそう言った。
「リンゼンは少しは落ち着いたが、相変わらずもう一度攻めろと煩いのじゃ。確かにワシらとしても、いつまでもあの場所に盟友が居るというのは気が休まらないのじゃが……」
「あの、ノーファンさん。あの場所にあなた方の"盟友"が居る事が、何か問題なのですか?」
ルフィアが聞いた。
「ラグナから聞いとらんじゃったか?」
「ええ、その"大災厄"の話は聞きましたが……」
「あの地は"竜の地"と近い、お主らで言うアロウ平原というところじゃな。あそこには"盟友"を狂わせる石があると言う。それは地中に在りながら、地上の者を蝕むほど強大な力を持つと言われておるのじゃ。
"大災厄"もその石が原因と言われておる。もっとも、詳しい事は分からぬがな」
ノーファンの話を聞いて、ミラムとルフィアは考えた。だがいくら考えても、そんな石がある事など聞いた事が無い。
「ね、ノーファンさん。私達にもその歴史書を見せてもらう事は出来ませんか?」
ルフィアがそう言うと、ノーファンはラグナを見た。するとラグナは無言で頷いた。ミラム達3人を、信用に足る人物だと伝えたのだ。
「良いじゃろう、ついて来なさい。彼の地を統べるものならば、違った視点もあるじゃろうて」
そこで見た本は、ウィルやメルがそうであったようにやはりミラム達にも衝撃を与えるものであった。言葉でしか知らなかったものが、本という媒体で現実味を持って迫ってくるのは、また違った恐怖を与えるものだ。
そうしてミラム達がユラフタスに伝わる歴史書を読んでいる間、ウィルはノーファンに頼んで別の歴史書を読んでいた。表題には相変わらず数字のみで「6」と書かれ、その「755 586」と記された所を開いている。
「ウィルは何見て……新暦755年? 動力革命とか言われる年だっけ?」
「50年前の歴史書がどうかしたの?」
横からラグナとメルが覗き込んで来た。
「いや、何の気無しにこの前図書館でイグナスの鉄道史なんて見てたんだけど、カグルとシナークの間の鉄道を作った理由の中に『シナークでの鉱山発見』ってのがあったんだよ」
ウィルが本を繰りながら答えた。
「シナークに鉱山? そんなのあったっけ」
「だろ? 俺もそう思ってさ、今度は鉱石関連の本を調べたらシナークに『その他鉱脈』って書いてあってさ。それでユラ様から竜を狂わせるのはある石が原因だって思い出して……」
「ちょっと待って、ウィルがこの前話してたのって……」
ラグナの顔は引き攣っていた。
「そう。シナークの誰かが、その石を発見してないのかと思ったわけだ」
ラグナは硬い顔のまま成る程と頷いていたが、メルには話が見えて来ないようだ。
「でもそれを調べてどうするの?」
「竜に影響を及ぼす石だとしても、それを知らないイグナス国民からすればただの石のはずだ。動力革命の頃だと、国内で石炭やそんなような資源になるような鉱石は無いかと、片っ端から国中を掘り返した時期に当たる。
もしその時にその石を見つけていたなら、使い道があるか無いかはともかく記録はされるはずだ。そしてそんな石がイグナス国民の手で発掘されたと分かれば、必ずユラフタスの方にも記録が……」
そこまで言ってウィルは食い入るように歴史書の一文を見つめた。
「あった…『彼の地の者、ついに竜の地にて"石"を見つけたる。しかし、特に調べた様子は無し。大きな動きも無いので、了とす』か。見つけはしたけど、特に注目されなかったらしいな」
「でも存在は知ってるってことね、油断できないな」
「もう一度図書館の、今度は地下で調べたいな……竜にそんな影響を及ぼす程の石なら、何かしら鉱石資源として優れてそうな気もするけど、本当にその石は価値無しとして放置されてるのか……」
「それって"カルァン石"の事?」
いつの間にか歴史書を読み終えていたルフィアが、ウィルが読んでいた別の歴史書を覗き込んでいた。
「カルァン石?」
「そう。この騒ぎの前、モロス皇子の執務室でよくその名前のある書類を見たわ。一定の条件下では石炭よりも燃焼効率がいいとか、産出地はシナークだとか書いてあった気がする。こんな仕事してるから国内の色々に詳しくなったけど、でもシナークに鉱山なんて無いから変に思ってたのよ」
ウィルは考えた。そうでなくても怪しいモロス皇子が竜という戦力を手に入れたとする。そして竜を狂わせる石、カルァン石とやらを知っている。ならば何に使うつもりだったのか?
「ノーファンさん、狂ってしまった竜はもう手を付けられない程になってしまうんですよね?」
「そうじゃ。それこそユラノスが命を賭して鎮めなければならない程にな」
積んである歴史書の端の椅子に座っていたノーファンが厳かに答えた。
ならば意図的に竜を狂わせるということは、まず無いだろう。だとすると……
「……その石は、資源としてはどうなんですか?」
今度はルフィアに尋ねた。しかし返事はなんとも言えないものだった。
「その辺は全然わからないのよ。ただモロス皇子が存在を知っているのなら、もしかしたら試掘ぐらいしてるかもしれないわね。そうならユラフタスの情報網に引っかかってないかしら?」
そう言ってルフィアはノーファンの方を見たが、ノーファンはゆるゆると首を振った。
「わしらの情報とて完璧ではない。あくまで情報網は市井に張り巡らせたものじゃ、彼の地の軍なぞが隠密に掘ったとなれば、それを知る手立てはむしろそちらの方があるのではないのかな?」
「そうね……サルタンに戻ったら調べてみましょう」
そう言うと、ルフィアは手帳にそれを書き込んだ。
「しかし、もしカルァン石が資源として有用だとすると厄介ね。圧倒的な力と資源、その両方をあの人が手に入れたとすればかなり厄介だわ。ウィル君もそう思わない?」
ミラムから何故か話を振られたので驚き、ミラムの方を見ると、
「思う所を聞かせて?」
と微笑まれた。
「……そうですね。調べてみないと何とも言えませんけども、もし資源として有用ならばモロス皇子は最強の武力と資源を手に入れたことになりますね。
何かの野心があっての事と思いますけども……モロス皇子には皇位継承権は無いんでしたよね?」
「えぇ、次の皇帝は第二皇子のローランド皇子……」
ウィルの質問にそう答えたミラムは、ウィルがつまり何が言いたいかを察して黙った。
皆は、シナークの関所街の馬車屋で会った軍人の言葉を思い出していた。その時は半信半疑だったが、ここまで駒が揃うとあながち笑い事でも無くなってくる。
その軍人は言ったのだ。"モロス皇子は皇位を狙っているのかもしれない"と……
*
その後、2日が経った。いくら立場的にあまり束縛のないミラムと言え、あまり長いこと皇都を留守にすれば流石にマズイとの事で、ラグナが帰りの馬車を出す手筈になっていた。ウィルはもう少し歴史書を読む為に、メルはリッシュとの訓練の為にもう数日村に残り、その後にミラムの邸宅に行く予定だった。
そうしてミラム、ルフィア、レイクの3人が出立の準備をしている時、丁度商いで街から帰ってきたラグナの父、グロースが村の入口に顔を出した。大きな籠を背負っているので、商いの帰りのようだ。
「おぉ、ラグナか。それにウィル君にメルちゃんも。丁度良かった、まずノーファン様にと思ったが、どうも君達にも関係ありそうな話だ」
そう言ってグロースは荷物を下ろすよりも先に、胸元に大事そうにしまい込んだ封書をラグナに手渡した。
「どこの街から?」
「今回はクラッツだ。最初は顔を見にサルタンに行くつもりだったんだけど、クラッツで風邪が流行ってるとかで薬を売りにな。で、そこの協力者から妙な噂を聞いた。それが、その封書だ」
それを聞きつつラグナは封書を聞き、中の文章に目を通す。
「クラッツって言うと、あの北東の方にある?」
「そうだな。アレイファンのある山の麓の街だよ」
少しして手紙を読み終えたラグナは、これまた複雑な顔をしていた。
「どうやら私達も、すぐに降りなきゃいけなさそうよ」
「ちょっと見せて」
ラグナから手紙を貰うと、ウィルとメルもそれを読み始めた。脇からミラムとルフィアも覗いている。
クラッツの協力者は屋台で軽食を売ったりする人達の連合にいるらしく、そういった店は市井の噂が手に入りやすい。手紙には「飯を食いに来た鉄道員の噂」と前書きされた上で、内容は極秘の軍の貨物列車が、クラッツを通ってアレイファンへ向かったとの情報が書いてあった。そして協力者の鉄道員の伝手を頼ってみたところ、荷は不明ながら発駅がシナークであるらしいという事も書いてあった。
「これは……何が何でも、アレイファンに行かなきゃならないんじゃないか?」
「だね。とにかくカルァン石? ってのは早いとこ処分しないと、盟友達が危ないわ」
「本当に資源になりそうな物なら言ってね? それも追い込む一手になるわ」
アレイファン行きを決めたウィル達に、ミラムがそう言った。
「何故です?」
「国家に対する裏切り、とか言えるわね。国の上の目線で言わせて貰えば、有用な資源ならば、それはイグナスという国全体で共有するべきモノだわ。それを独り占めしようとしてたなんて、許されない。これだけで充分よ」
自信満々に語るミラムだが、ウィルにはどうも心配だった。
「そんな程度で追い込めるんですか?」
「そう思うでしょ? でも政治なんてそんなものよ、困った事にね。疑いさえかければ、後はそれが勝手に暴走していくのよ。学舎でもそういう事、無かった?」
心配を見透かされたウィルだったが、確かに思い返せば学舎でもそういう事があった。根拠の無い噂であろうと、その人の信用を揺らがせるに十分な事もあるのだ。
「……分かりました、もし資源になりそうな物なら報告します。でもいずれにしても処分するつもりで行きます、良いですね?」
最後の言葉は、その場にいた全員に向けて言った。たとえ資源として有用でも、竜を狂わせない為には処分した方が安全だ。
そして全員がウィルの言葉に頷いた。事の重大さは全員が理解している。
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