第30話 人間の鎖、またの名を肉の壁
「ふぁ〜あ、夜番は眠いねぇ」
シナーク現地司令部の物見櫓では、夜の監視に当たる兵士が眠気を堪えながらその任務に就いていた。いくら夜襲の恐れがあるからと言ってもこんな基地を襲う人などいない筈だし、そうでなくても
4000ロンドも取られた保温効果のある魔法陣の付与された水筒にいれたお茶はまだ少しは暖かさを保っていたので、それを飲みながら特に変わり映えのしない夜は過ぎていく。筈だった。
朧げに見える月に照らされた平原に、何かが光ったように見えた。人気の無い方向なので獣の眼か何かかとは思ったが、念のため望遠鏡を取ろうとして……その兵士はその場に崩れ落ちた。
黒い服に身を包み、音も気配も殺して櫓の近くまで接近していたヨナクの私兵に睡眠魔法をかけられたのだ。
魔法をかけた兵士が指先に小さく炎を出し、それを円形に大きく回した。無力化成功の合図だ。それと共にヨナクの私兵と人質の合わせて600人が、シナーク現地司令部に雪崩れ込んだ。
流石にそれだけの人数が入ってくれば、非常用の半鐘が鳴らずとも異常事態が起きていることはわかる。次々と天幕から兵士が飛び出してきて明かりのための篝火が焚かれ、あちこちで交戦が始まっていたがそれも間も無く収まっていった。
ミツオルの作戦通り、ヨナクの私兵達が人質を横一列に並べ、その人質を盾に私兵達は現地司令部の最奥部へと進んでいったからだ。
篝火が焚かれ服ぐらいは視認できるぐらいの明るさなので、先頭を歩く人達が粗末な服を着て武器も持たず歩かされていることは見て取れる。だからと言って、見るからに無抵抗なその人達を殺すわけにもいかず現地司令部のイグナス軍の兵士達は混乱に陥っていた。そしてその混乱に乗じてヨナクの私兵はイグナスの兵士を1人、また1人と無力化していく。
恐らく司令部として使われている建物を見て人質の男が何やら騒ぎ出し、隣にいたもう一人の女も何か声を上げていたが、ヨナクは面倒なので放っておいた。今更何を言ってもどうにもなるわけが無い。それよりも倉庫と言うにはあまりに大きい建物の中から、しきりに獣の
――まぁいい、採掘場建設の邪魔になるような存在ならそこら辺の家畜商にでも売っぱらえばいい。とにかく今はここの完全制圧だ。
敵を見るに、ここにいる兵士達は決して賊でも"イグナス軍の軍服を着た何者か"でも無い。紛れもなくイグナスの正規軍だ。各々の動きにはムラが無く、鍛えられた軍人そのものだったからだ。
だが動きに統率が見られない。魔法使いもいるようだが、最初に魔法で敵の戦力を削いだり動きを封じたりして、それから武装した歩兵が無力化していくのが魔法を使える者と純粋に武装した者とが共闘する時の定石だ。
それがここの連中にはその動きが全く見られない。戦闘訓練を行っていないのだろうか。
私兵達はヨナクとミツオルから「軍服を着ている者は容赦なく殺せ」と言われているので、まるで何の痛痒もないような風に首を斬り、胸を抉り、確実に無力化している。
「貴様らは何者か! 誰の命を受けての狼藉か知らぬが、これがイグナス軍全てを敵に回すと知ってのことか!」
司令部らしき建物から男が1人、目に峻辣な怒りを湛えて出てきた。雰囲気から察するに、ここの司令塔たる人物なのだろう。後から部下と思しき男も出てきた。
「名乗る筋合いは無い」
そうヨナクは言い捨てた。
「何だと?」
「名乗る筋合いは無いと言ったのだ」
相手の男の顔が怒りに歪むのが見えた。
「先ほども言ったが、これはイグナス軍に対する明確な攻撃なるぞ! 今ここで貴様らを全員殺しても構わんのだぞ!?」
「貴様らが我々を攻撃しようとするならば、それはつまり民間人を殺すことになるのだぞ?」
そう言うとヨナクの両脇の2人の兵士が、人質を縦にするようにヨナクのことを守った。
「この下衆め……! 卑怯な!」
「下衆で卑怯なのが戦争というものだ。違うか?」
「何だと?」
ヨナクの言葉に男は不信感をあらわにした。
「数年前のリハルト公国と、今は無くなったラングス王国の戦争を覚えているか? あの戦争では民間人は傷付けないという戦時協定が結ばれたにも関わらず、リハルトは無差別攻撃でラングスを蹂躙したな。結果的にそれでラングスの継戦能力と士気が挫けて、リハルトに恭順する事になったな。
つまり勝てば良しだ。それなのに何故お前らは清潔に戦おうとする? それが俺には分からん」
「勝てば良しなどと……貴様らには武器を持つ者としての矜持は無いのか!?」
半ば絶叫のように聞いてくるが、ヨナクにはそれこそ敗者の戯言にしか聞こえなかった。
「国軍と言う名の下に胡座をかき、自らが国を守っていると言う使命感に耽溺し、それに仇なす者は容赦無く、意味も考えずに殺す。そういう者らがよくもまぁぬけぬけと矜持がどうのと言えたものだな。え?」
ヨナクは呆れと怒りを持って、そう言い捨てた。出てきた男も呆然とした表情だったが、そんなことは知ったことでは無い。
ヨナク=ナールファルトはノータス王国の国教であるシャルドール教の大きな3つの宗派のうちの1つ、ヨナク派の長であったが、あとの2つであるリコ派とガブラル派からは正統な教えとは認められていなかった。それどころか異端であり、糾弾すべしとされていたのだ。そしてそれ故に、常に迫害と差別を受け続けていたのだった。
——————————
喋りながらもナールファルトの記憶は、幼い頃の忌々しい記憶が蘇っていた。
ナールファルトには姉が1人と弟が1人いた。シャルドールの教えに"女性が教祖となってはならない"という教えはない為、宗派を問わず女性の教祖や宣教師は数多いる。その為、当然ヨナク宗派の長も姉が引き継ぐはずだった。
しかしある日、突然沢山のノータス王国軍がヨナク宗派の会合を襲った。
「邪教討つべし」の掛け声と共に会合を行なっていた建物に侵入してきた軍の兵士は、その場にいたヨナク派の者らや長であったナールファルトの父を惨殺していった。姉の機転で避難用に作ってあった穴に逃げ込んだナールファルトは、上蓋を閉じようとした瞬間に父親が胸に銃弾を受けるのを見た。
暗い穴に閉じこもりやがて外から音がしなくなった頃、一緒に穴に入った何人かと恐る恐る外に出た。
外は、まさに死屍累々の世界だった。
ナールファルトにはその時の記憶がほとんど無かったが、だが父親は胸の辺りから広く赤いシミを作っており頭はかち割られて白い脳漿をぶちまけていた。逃がしてくれた姉は何故か裸で倒れており、その胸には姉が愛用していた短刀が刺さっていた。
その時のナールファルトには意味がわからなかったが、今では姉は慰み者にされた上に自らの短刀で殺されたのだと言うことがわかる。あまりに惨い死に方であった。
それ以来、ヨナクは正義だの正統だのという言葉を信じなくなっていた。司令塔と思しき男の言葉をどこか白けた表情で聞いていたのはその為だ。
——————————
「言いたいことはそれで終わりか? ならば敗残兵を連れてさっさと出て行け」
ヨナクはめんどくさそうにそう言った。
「出て行けるわけが無いだろう。私はここの責任者だ、何が何でも今ここでお前を殺す」
そう言うと男は銃を構えたが、すかさずヨナクの私兵は人質を盾にして守りに入る。
「おやめくださいラティール大尉! ここは引くべきです!」
「わかっている! だがカイルよ、コイツらはここで仕留めねばならないだろう!」
カイルと呼ばれた部下と思しき男は、ラティール大尉とやらの銃を押さえて止めに入っている。賢明な判断だ、こちらも人殺しがしたくて来ているわけではない。邪魔だから殺しているのだ。部下たちがどうかまで責任は持てぬが。
やがて部下の説得に折れたのか、ラティールとやらは銃を下ろした。
「仕方ない。ここは一旦引くとしよう、貴様等がいくら卑怯な手を使ったとはいえ我々は負けたのだ。だが私だけは殺していけ、それが負けた者の道理というものだ」
「それも断る。いいから早く出て行け」
ヨナクはまたも憮然と言い捨てた。
「何故だ? それが兵士としての……」
「五月蝿い。それ以上言うなら今からでもお前等全員を皆殺しにするぞ?」
ヨナクも睨みを効かせて言ったからか、敵の2人は引き下がった。自分は殺されてもいいが部下が殺されるのは耐えられないと言ったところか、敵ながら見上げた精神だ。反吐が出る。
2人が去った後で周囲を見回すと、概ね占領は上手くいったようだった。あの中から嗎のような声が聞こえていた建物も今は沈黙しているし、それより兵を集め籠城戦の準備をしなければならない。
「ミツオル、次は防衛戦だ。人質達はどこか倉庫にでも入れておいて、兵士達にはこの中の武器を片っ端から使える状態にさせておけ」
「は、承知しました。ヨナク様」
夜が明けてヨナク達に占拠されたシナーク現地司令部では、死体の片付けと防衛陣の構築が着々と進んでいた。
*
一方でラティール達は、現地司令部から逃げだせた者達で近くの平原に一時的に集まっていた。
「……以上、報告終わり」
落ち着いたところで損害の確認をさせたが、思った以上に酷いものだった。
確かに総勢250名程度のこちらに対して、あちらはかなりの軍勢で攻めてきた。しかも人質もいれば満足に戦えるわけが無い。しかし残ったのは僅か30名ほどだ、うち11名は竜の世話をしていた兵士なので実質戦えるのは約20名である。そして機密文書の類も、ほぼそのままであの司令部に残されている。まさに完敗だった。
「最後に竜舎の損害を知らせ!」
竜舎だけは機密保持も含めて、有事の際には竜を即効性の睡眠薬を入れた餌を与えた上で真っ先に逃げ出すように指示していた。上手くいけば全員いるはずだ。
「1人いません!」
上手くいかなかったようだ。
「誰だ!」
「ウヌンを担当していた、オルトゥスのコウル一等兵です! ウヌンが最近は調子が悪かったので、それで様子見で残ったのかと……」
「馬鹿者……! あれほど何かあったら逃げろと言ったのに!」
ウヌンは最近になって、後ろの翼の先端から僅かに変色が進んでいた。そのうえ日によっては兵士の言う事を聞かなくなることもあり、竜舎の特にウヌンを担当する兵士はみな心配していたのだ。
その中でもコウル一等兵は最年少であったが、実家が牧畜をやっているとのことで人一倍竜の世話に力が入っていたのだ。
「ならば仕方ない。せめて軍人らしく潔く死んでくれる事を願う他無いか……」
そう言ってコルセアはまた歩き出した。軍人は常に死と隣りあわせだ、将来有望な兵士を亡くしてしまった事は惜しいが、しかしいつまでも固執してもいられない。
「この後はどうしますか? ラティール大尉」
横を歩いていた側近のカイルが聞いた。
「最寄りのシナーク駐屯地まで引き上げるぞ、あそこは仮設だがそれなりに人はいるはずだ。報告の上で増援を要請する」
ラティールは口を真一文字に結んで、払暁の中をシナーク現地司令部の兵士を連れて歩いていく。その顔には悔しさがありありと滲み出ていた。
「しかし奴らはどこの誰なのでしょうか?」
部下の1人がそう問うた。
「分からん。そもそもこの計画自体、知る者は多くないはずだ。知っているとすれば内通者か、或いはこの計画を知る上層部の誰かが漏らしたか……」
「あの、ひとつよろしいでしょうか?」
コルセアの考えを遮るように、1人の兵士が声を上げた。
「なんだ?」
「私は親戚がノータスにいるので何度かノータス王国に行ったことがあるのですが、奴らはノータス語で喋っていました」
コルセアを含めたその場にいた皆が、その兵士のほうを向いた。
「なにっ! それは本当か!?」
「はい、恐らく間違いありません。私も詳しいわけではないのですが、ノータス語で誰かを罵倒するときに使う言葉とかが聞こえたように思います」
逃げてきたシナーク現地司令部の兵士たちは騒然とした。これが本当ならノータス王国による明確な武力侵攻であり、宣戦布告の無い奇襲攻撃ということになる。
「落ち着け! まだそうと決まったわけではない、ノータス王国内のどこかの過激派という可能性もあるし、わざとノータス語を喋っていた可能性もあるだろう。とりあえずシナーク駐屯地を目指す。追撃の恐れもある、急ぐぞ!」
コルセアの号令とともに、兵士たちは明け方のあぜ道を駐屯地へと急いだ。
*
シナーク現地司令部が占拠されたとの報は、その日の朝にシナーク駐屯地に、昼過ぎにはサルタンの中央司令部にもたらされていた。
「シナーク現地司令部が占拠された!? あそこの守備隊は何をしていたというのだ!」
オルトゥス魔法師団のサルタンの基地で報告を受けたアルメス=ヒューデン大将は、顔を真っ赤にして報告に来た兵士に執務机に乗っていた紙束を投げた。
「も、申し訳ございません。これもまだ汽車にてもたらされた第一報でして、まだ詳しい状況などは判明しておりません。目下、シナーク現地司令部にて聴取中かと……」
「もうよい下がれ! モロス皇子殿に会ってくる!」
そう言うなりアルメスは外套を引っ手繰って報告に来た部下を押しのけ、宮殿のほうに向かっていった。
遠距離通信法が確立されていないので、電話というものもあるが有線でしか使えず普及もしていない。つまり鉄道か早馬でしか遠距離にて通信する方法は無いのだ。それこそ伝書鳩が一昔前までは使われていたが、伝えられる文字数が極めて少なく調教の手間も相まって、一部を除いて時代とともに淘汰されていった。
こうしている間にもシナークではコルセア達の事情聴取が進んでいたが、続報は次の汽車か早馬を待つ他無い。
「アルメスか、血相を変えてどうしたというのだ? お前というほどの男が連絡も護衛も無しに来るとは」
一の館でアルメスを出迎えたモロスは、必死の形相のアルメスを見るなりそう言った。
「モロス皇子、一大事にございます。竜騎兵隊を置くシナーク現地司令部が占拠されたとの報が……」
「わかった。下がってよい」
モロスの淡々とした受け答えに、思わずアルメスは「えっ…」と声を漏らしていた。
「いいのですか――? 正体不明の敵に襲われ占拠されたのですぞ! もし竜や竜騎兵たちが敵の手に落ちたなら……」
「心配は無用だアルメス、お前はさも動揺しているかのように振舞っておればよい。処理は私のほうでしておく」
「は、畏まりました」
アルメスは釈然としない表情であったが、第一皇子がそう言うのならば大丈夫なのだろうと思ったのかそれ以上は何も言わず退室した。
「聞いたかラミス、ヨナクの連中はこちらの思惑通り動いてくれたな」
執務室の死角でアルメスとモロスの会話を聞いていたラミスは、薄く笑いながら死角から出てきた。
「いや、まったくです。夜も明けましたし今頃は竜を見て肝を抜かしているか、それとも勇んであの黄色い石の採掘にでも出ているか。いずれにしても、これからの運命も知らずに哀れなものです」
モロスの企ての全貌を知っているのは、モロスの他にはラミスだけであった。それ故に今回のヨナク宗派によるシナーク現地司令部の襲撃がモロスの差し金であることを知っていたので、アルメスの報告にも困惑することは無かったのだ。
「さてそういうわけだ。海の向こうの方にも動いてもらわねばならないな」
「そうですね。もうリハルトに送る書簡の準備は出来ておりますが、如何いたしますか?」
そう言ってラミスは、懐から1枚の封書を取り出した。
「相変わらず準備がいいな。いいだろう、もう送っていい。明後日ぐらいには着くだろう?」
「はい。なのであちらの艦隊の準備も考えると、恐らく6日後ぐらいがヨナク達の最期かと」
それを聞いたモロスはおもむろに笑い出した。
「そうか…! そうか! それは楽しみだ! 憎きノータスの蛮族め、それまではせいぜい最期のひと時を楽しむがいいさ!」
シナーク現地司令部を占拠するだけならば、人質がいればモロスの子飼いの兵士でも造作も無いことである。しかしそれをあえてノータス王国のヨナク宗派にやらせたのは、モロスの配下の兵が事を起こせば万が一露見したり失敗した際に厄介な事になるというのが一つ。そしてモロスに対する評価を決定的に落とした時間、リメルァール攻撃の主犯であるヨナク宗派に対するモロスの私怨であった。
そもそも自分への人気が無いのは、リメルァール攻撃の際の対応にあるということはモロスもわかっていた。だがモロスはその失敗を認めないばかりか「そもそも攻めてきたヨナク宗派とやらが悪い」と言って憚らず、周囲の人を困惑させていたのだ。
つまりは自分で自分の首を絞めていたのだが、そんな事に気付くわけもない。
*
襲撃のあった日の午後も、コルセア達の聴取は続けられていた。不意打ちによって攻め落とされた上に大半の兵士を失ったのだから、コルセアをはじめとするシナーク現地司令部の人間を責める空気は無かった。しかし形上でも誰かが責任を負わねばならないのが軍隊と言うもの、そしてこの場合は責任者たるコルセアだ。
「つまり貴様達は民間人を人質に捕らえられ、抵抗したくても出来ない状況だった。その上、数でも相手の方が圧倒的に勝っていたために、撤退するしか無かったとこういうわけだな?」
周辺の駐屯地では一番大きいカグル駐屯地の司令長官であるナックは、コルセアにそう問いかけた。コルセアも何度も話した事なので、短くそうですと答える。
「成る程な、恐らく夜の監視に当たるものを最初に潰されたとなると確かに迎撃は難しいか。しかもあそこは元より戦うための現地司令部ではないし……誰に襲撃されたのかの見当は無いのか?」
「実はその事でナック大佐にご相談があります」
聴取に使っている部屋は狭い部屋の中で、コルセアは声を潜めた。
「なんだ」
「ノータス王国の何者かによる襲撃の可能性があります」
ナックの顔が驚きに満ちた。
「それは本当か?」
「わかりません。ただ一緒に逃げてきた部下の1人が、襲撃した者らがノータス語を喋っていたと言っていました」
2人とも厳しい顔をして、狭い部屋で顔を突き合わせている。
「誰かに言ったか?」
「いえ、誰にも。今初めて言いました」
「何故だ?」
「ノータス語を喋っていたからといって、必ずしもノータス王国人とは限らない事が1つ。わざとノータス語を喋って撹乱したいだけかもしれません。
そしてもう1つ、下手に話が広がってしまうとノータスとも戦争になりかねません。そうでなくてもリハルトと戦争状態にある今、余計な噂を立てるのは禁物と考えました」
コルセアの説明を聞いて、ナックはうーむと唸った。
「お前は政治家でもやっていけるよ、全くその通りだ。今国内に不要な混乱を招く事は出来ない、しかしこの襲撃が誰によって行われたのかも解明せねばならない」
ナックの言葉にコルセアは静かに頷く。
「しかし、な」
ナックが腕を組んだ。
「一応お前の直属の上官として、お前には処分を下さねばならない」
「承知しております。敗戦の将として、如何なる処分も甘受する所存であります」
コルセアは内心の悔しさを押し殺して、真っ直ぐに上官の方を見た。
「その前に確認するが、ロヴェルの竜騎隊とオルトゥスの独立竜騎隊はこういう有事の際に指揮権が誰かに移譲するという事は?」
「それは無いです。サルタンの中央司令から沙汰が無い限り、生き残った者らは全て私の指揮下にあります」
それを聞くとナックは満足そうに頷いた。
「わかった、では処分を言い渡す」
コルセアは大きく息を吸って、覚悟を決めた。
「ロヴェル機甲師団第二聯隊竜騎隊、ラティール=コルセア大尉。貴様を謹慎処分とし、別に指示があるまでシナーク現地司令部長の任を解く。またその間、貴様は私の指揮下に入ってもらう。異存は?」
あるはずも無い、コルセアは2段階の降等ぐらいは覚悟していたのだ。それが階級はそのまま、しかもナック大佐の下に付けという。
「いえ……しかしそれで良いのですか? しかもそれですと私の部下もナック大佐の指揮下に入るという事ですが……」
「問題無い、中央には話を通しておく。お前は真相を探れ。襲撃はノータス人を装った誰かなのか、或いはノータス人なのか。それなら国軍なのか、それとも国内の他の誰かなのか。それを探れ。
まともな処分なら営倉入りでもおかしくないのだ、しくじるなよ?」
コルセアは胸の内に闘志が湧いてくるのを感じた。
1年にも満たない間だったとはいえ、殺されたのは私の部下だ。死んでいった者の為にも、あんな卑怯な真似をしてまでシナーク現地司令部を奪った連中の素性を必ず暴いてみせる。
「わかりました……ご期待に添えるよう努力いたします」
そう言ってコルセアは立ち上がり、敬礼した。
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