第17話 空を飛ぶということ

 目覚めても家の中は、耳をすませば外の音も聞こえるほどに森閑としていた。


 外はもう薄明るかったが、日はまだ昇っていないようで、窓から射し込む影は薄い。太陽が昇ってくる方の山に近くなった分、日の出も遅いようだ。だがその分、ウィルの家ならば斜めに差し込んでくる強烈な太陽の光が、ここでは柔らかな光となって家の中を明るく照らしている。


 ウィルはそろりと寝床を抜け出すと窓の外を覗いた。朝からどこに行くというのか、男たちが忙しなくあちらこちらへと動き回っていた。


「ん……? おはようウィル……」


 声がしたので振り返るとちょうどメルも起きたようだ、心なし顔が赤らんでいるのは気のせいだろうか。


「おはよう、メル。よく寝れた?」

「あ、いや、うん。ちょっと目が覚めちゃったけどよく寝れたよ」

「じゃよかった。とりあえずラグナの家に行こう」


 昨夜のことを覚えているのかいないのか、とりあえず安心して眠れたのならいいかと思い直してウィルはとりあえずラグナの家に行くことにした。

 何をすればいいのか全くわからないが、飯も食わずに仕事ができるわけがないのだ。


 2人してラグナの家に向かうと既に朝餉は終わりかと言うところだった。


「あら! おはようお2人さん。そろそろ起こしに行こうかと思ってたのよ」


 そう言ってトゥミは笑って出迎えてくれる。しばらく一人暮らしだったウィルには、そのことでさえもなんだか懐かしかった。

 招かれるままにラグナの家にお邪魔すると、ラグナは見慣れない食べ物を頬張っていた。父親と弟2人はすでに外出しているようだった。


「あ、おはようメル! ウィル! よく眠れた?」


 若干口をもぐもぐさせながらラグナが挨拶をした。


「おはよう、おかげさまでよく眠れたよ。ありがとう」

「ラグナおはよう! それが朝餉?」


 そう言ってラグナの手元を見やると、何やら齧りかけの白い棒を持っている。


「そうよ、"リノ"って言って私たちには普通のご飯なんだけど……見たことない?」


 見たことないのである。ウィルはイグナスの色々なところで色々なものを食べているが、それでも見たことがないような食べ物だった。

 よくよく見ると同じ白い棒が炉を中心にもう何本か刺してあって、いい塩梅に焼けて焦げ目がついている。


「椀に入れたお米をすり潰してね、真っ直ぐに整えた木の棒に巻きつけて焼く。それだけなんだけどね」


 そう言ったところでトゥミが追加のリノと、何やら他の汁物を持ってきた。汁物には山菜がゴロゴロ入っていてほのかに湯気が立っている、見るからに美味しそうだ。

 物珍しそうに見ていると匂いを嗅いで体が素直に反応しているのか、早く食わせろとばかりに腹が鳴った。


 朝餉の後に、今度は一緒にリノを作ろうとラグナとメルは約束していた。聞いたところユラフタスでは一般的な食べ物で、手軽に作れるので特に朝餉で食べることが多いのだという。

 しかしウィルからすれば米の味しかしなかったので、腹は膨れるが山菜汁(と勝手に呼んだ)をすすりながら適当に味をつけて飲んでいた。


 ――これは何か工夫が必要だな。どこだったか、確かレブンティルに行った時に食べたセッカとか言う菓子。あれには焼くと香ばしい匂いのするタレを付けて焼いてたな。名前は忘れたが確か市販もしていたし、リノに合うんじゃないか?


 なんて考えているうちにもメルとラグナはお互いにどんな料理があるとか話している。リノを作ったら、是非ともご相伴にあずかりたいものだとふと思った。


 *


 メルはラグナと一緒に竜の乗り方を教わるとか言って森の方へ行ってしまったが、さて俺は何をしようか。

 そう考えウィルは家の周りを見回す。


 聞けば家の男衆は今日は街に出る日らしく出払っているそうだ。弟2人も修行と称してくっついて行ってるらしい、ただオレスはともかくラスァは外つ土地が見たいだけだろうとトゥミさんは言っていたが。

 本音を言えば竜を間近に見てみたかったのだが、おそらくラグナがいないと駄目だろう。


 そんなわけで昼までは村のあちこちを回ってみた。客人が来ていることは皆知っているらしく、お年寄りを除けば概ね好意的な対応をしてくれたと思う。

 外つ土地からの客人がよほど珍しいのか、行く先行く先であれやこれやと質問されたりした。だがユラフタスにとって自分たちが珍しい存在であるように、自分たちにとってもユラフタスはなかなか奇妙な存在なのだ。と言うわけで、こちらからも色々と質問してみた。


 わかったところだと、まずユラフタスは自給自足に見えて完全にはそうでないところだ。

 こんな山奥なのだから自給自足で、余ったものを売ってるんじゃないかと聞いたら半分あたりで半分間違っているらしい。


 まず牧畜ができないのが大きく、牛や豚など家畜が飼えるだけの場所が無い。なのでその辺の肉は全て街で買うのだそうだ。鹿だけは沢山捕まえられるらしいが。

 逆に野菜はほとんど自給自足らしい。畑はあるし山菜も採れるからだ。ウィルの目からすればアレが無いコレが無いというのもあるが、街の市場を知らない事を考えれば自然だろう。


 朝餉にも出た米はと言うと、これは時期によって変わるらしい。田圃があまり広くないので農閑期に向けて溜め込むことができず、そういう時は街で買い付けることもあるそうだ。


 さてユラフタスの生活はと言うと、成人の男衆は街に降りる者もいれば狩りに出る者もいるのだという。ちなみに16歳で成人らしい、自分たちは18歳で成人だから2年早いわけだ。


 大人の仲間入りをしたから全員が狩りに出れるわけでは無いので、本人の向き不向きを考えた上で狩人か商人かを決めるのだという。

 女衆は専ら農業と内職だそうだ。一部、商人として街に降りる者もいるらしいが、あまり数は多く無いらしい。


 では成人前の子供、ユラフタスの大人たちが童と呼んでいる子供たちはと言うと、学舎が無いそうなので字の読み書きなどは親の仕事なのだという。もっともこれは親の知識に依存してしまうところがあるので、初等舎に通っていた時の読み書きの教科書でも手に入れば持って来ようかとふと考えた。


 男の子は大体10歳か11歳ぐらいになると父親に付いて狩猟なり商いの見習いを始めるそうだ。丁稚のようなものだろうか、しかしそれはウィルも通った道だ。

 女の子は家事に内職にと、幼い頃から色々と親を手伝うらしい。だがやはり10歳を越えて周りの男の子が見習いを始めてくると、一緒に狩猟や商いをする子もいるとか何とか。


 色々は話を聞いてて思ったのは、本当に自分たちはユラフタスの事を何も知らないということだった。

 思えば初等舎にも中等舎にも、クラスの中に必ず1人はユラフタスの事を気味が悪いとか異質な存在だとか吹聴しているのがいた。


 確かにシナークに限らず、イグナスに住む人にとってユラフタスとは何となく近寄りがたい雰囲気を持つ人々だと思う。だからと言って邪険にするのもどうかと思って何も言わなかったし、大体そういう事を吹聴する人はユラフタス相手に限らず他人の悪口を平気で言ったり問題行動を起こすタイプだったので、馬鹿の戯言。自分の馬鹿さから目を逸らして格下に見れるものが欲しいだけだと放っておいた。


 だがわずか1日、ユラフタスの人たちと交流すればわかる。結局自分たちもユラフタスも本質的には同じだということが。

 結局のところお互いがお互いを知らなすぎるから、距離を取りたがるのだ。知らなすぎるが故にお互いに気味悪がるのだろう。


 この騒動が終わったらラグナを友達の誰かに会わせてみようか。やはりネスかな、あいつ初対面でも結構仲良くなるタイプだし。そう言えばネスは今どうしているのだろうか、駅の詰所を出る前に見た今後の運行予定表には大きくばつ印がされていたので旅客列車なんてほとんど走ってないだろう。今頃は何度かお邪魔させてもらった、あのお世辞にも広いとは言えない部屋で暇を持て余しているのだろうか……


 *


 一方でメルとラグナは訓練のために、昨日フレイヤと合わせてくれた平原に来ていた。

 今日は先にラグナの竜であるフレイヤが待っており、昇ってきた朝日にその翼を光らせていた。


「何度見ても惚れ惚れするぐらい綺麗だね……」

「でしょー? 他の盟友にも負けないんだから」


 メルは口をぽかんと開けてフレイヤを見てるし、ラグナはドヤ顔で応えている。


「おっといけない、訓練だったわね。

 フレイヤ、ちょっと後ろ向いて!」


 そう言うとフレイヤは素直に背中を見せた。何となく犬か何かみたいだとメルは思いつつも、ラグナの説明は続く。


「背中に二つの角みたいなのがあるでしょ? 飛ぶときはあれを持って魔力を込めながら飛ぶのよ」


 詳しく聞くとその二つの角は魔力を介して人間と竜が意思を疎通できる場所らしく、ユラフタスが竜に乗る際には両方の角を、少なくとも必ず片方は掴んで乗るらしい。

 竜の角を持ち、竜と共に優雅に空を舞う。その姿から縁を結んで竜に乗れる人のことを、コルノからもじって「コルナー」と言うのだそうだ。


「私もコルナーだけど、竜と縁を結んで無いと飛べないってわけではないの。誰でもあの角を掴めば飛ぶことができるのよ。

 でも複雑な意思疎通ができないのよね、普通は"飛べ"、"降りろ"、"右へ"、"左へ"、"攻撃しろ"ぐらいじゃないかしら」

「そんな感じなんだ……でもそれだけだと色々と不便じゃない?」

「まぁ数で押せればあまり関係無いのかな、10頭も並べば壮観なものよ」


 そう言われてメルはフレイヤと同じような竜が並ぶ姿を思い浮かべた。なるほど迫力はあるし、10もの竜が一斉に火でも吹いたら凄そうだ。見たことないけど。


「でもとりあえずメルには竜に慣れてもらわなきゃだからね、昼餉まではフレイヤに頼みましょ」

「わかった! よろしくねフレイヤ!」


 メルがそう言うと呼ばれたのに気づいたのか、フレイヤが小さく啼いた。


 *


 乗っては落ち、僅かに飛んで落ち、少しずつ飛んで調子に乗って落ち。そんな事を繰り返しているうちに昼になった。

 落下してもうまくラグナが魔法で衝撃を緩衝してくれるのでメルは怪我をしていないし、メル本人はと言えば竜に乗るという快感に目覚めたのか物凄く楽しそうにしていた。


「いやいや、あれだけの時間で火まで吹かせるとは……ちょっとありえないぐらい早いよ?」

「そうなの? 私は途中から無我夢中だったからなぁ」

「"盟友"は実に良く人の気持ちを読む。コルナーとなる者も、最初は馬よりも大きい姿に怖がる者も少なくなくてのう。そういう者は決まって盟友と自由に飛ぶまでに時間がかかるのじゃ」


 突如木の影からノーファンが笑みを浮かべつつ歩いて来た。気配などしなかったのに。


「ノーファン様!? いつからそこに?」


 ラグナは慌てて一礼すると、そう尋ねた。


「訓練してると聞いてな、ちと冷やかしに来たのじゃ。メルーナがフレイヤに火を吹かせた時には驚いたものじゃ」


 その後にメルは4回ほど落竜(?)しているので、そこそこ長い時間見ていたことになる。


「しかしメルーナよ、お前さんはずいぶんと筋がいい。一つ聞きたいのじゃが、何回目ぐらいから飛ぶのが楽しくなってきた?」

「えっ? 覚えてないですけど、この森の木を超えて一面に広がる景色を見た時だったかな」


 コルナーが皆そうであるように、最初はメルもおっかなびっくりだったのだ。まずはどうやって竜に乗るかの練習から始まり角を掴んだ状態で体を固定させる練習、竜にどう魔力を同調させるか等々。


 やっと飛翔の練習に入っても、飛ぶまでの踏ん切りが付かず迷って迷って。

 やっと「飛んで」と角を通してフレイヤに伝えれば、すこし舞い上がったら急に怖くなって手を離してしまって落ちて。それからは飛んでは落ちての繰り返し。


 だが、何度目かの飛翔でメルはいよいよ勇気を振り絞って高いところまで飛んで見せた。

 幾度となく飛んで、多少は空を飛ぶということ自体に慣れたのもあるのだろう。

 意を決して空高くまでフレイヤに連れて行ってもらえば、そこは世界の四隅まで見渡せるのではないかと言うほどの広大無辺の大地だ。

 そして怖がって目を閉じていたメルは恐る恐る目を開けて、確かにそれを見た。


 目の前には天を突く蒼い山脈、そして一段と高い霊峰マレス山。下を見れば山麓まで続く一面の森だ。

 今チラッと森の上で光ったのは……竜だ! 地上で見る竜も美しかったが、太陽の下で燦然と輝くあの体毛の綺麗なこと!


 知らない間にメルは、目の淵に泪を溜めながらその景色を見ていた。それが強い風によって目を守るために出たものなのか、それとも見える景色に感動してのものかは誰も知るまい。


 あれだけ心を支配していた恐怖をも忘れ赴くままに左を見ると、白露山脈の山麓沿いに延々と続く森。そして国の北側に鎮座する北方ワクリオン山脈。

 ところどころに見える街は視界に入るだけで20? 30?

 いや……それ以上ある。あれらの全てに人が住んでいて、色んな人が色んな生活をしていると思うと不思議な気分になった。親に連れられて皇都で見たあの大きくて煌びやかな宮殿も、この空から見るならばただ周りより少し大きい建物に過ぎない。


 右を見ると森の向こうにすぐ海が見えた。シナークの港からも盛んに船が出ているソトール海だ。

 あの彼方に見える島々はユラントス王国だろうか?


 国外に出るには旅査券と呼ばれる許可証が必要だと言う。ユラントスには山の斜面沿いに石造りの建物や教会が立ち並び、海は空がそのまま続いてるかのように真っ青でとても綺麗だという話を旅の商人から聞いたことがある。

 珍しく親にねだって買ってもらったユラントスの街の絵画はメルのお気に入りで、自室に恭しく飾るほどだった。


 ――あの絵は無事かな、せめてあれだけは……


 そう考えつつもユラントス王国の向こうを見ると横に一直線に広がる大陸が見えた。まさかあの見える範囲全てではないだろうが、あれが交戦国であるリハルト公国だろうか。


 くだらない、とメルはふと思った。


 確か皇帝からの宣戦布告の詔には"我が国の大切な領土を刈り取ろうとする愚かな者ども"などと書いてあった。しかしどうだ、空から見れば国境線なんて無い。大地があって海があって、また大地があるだけじゃないか。


 そう考えていたら高く飛び過ぎていることに気付いた、怖さを忘れていたとは言え調子に乗り過ぎたようだ。

 フレイヤもその意図を汲んだのかゆっくりと降下し始め、音もなく地上へと降り立った。


 そんなことがあったので、それ以降はメルも高く飛ぶことへの恐怖心が薄らいでいたのだ。

 降りてきた時に目の淵に泪を溜めていたメルを見てラグナはそんなに怖かったのかと大層心配したが、それは杞憂だったと知って笑っていた。


 *


 さて昼餉はと言えば、打ち合わせ通り女性陣がリノを作るようだ。

 メルとラグナにトゥミも加わって炊事場からは楽しげな声が聞こえる。ラグナの父親のグロースと弟のオレスとラスァは街に出ているが、一度街に商いに行くと早くても帰るのは翌日らしいので、昼餉を待つのはウィルだけだ。

 ウィルも一人暮らしなので料理の心得が無いわけでは無いが、手伝おうかと炊事場に顔を出したらラグナとトゥミに猛然と反対された。何故だ。


「旨いな」「「美味しい!」」「これだけで味がこんなに変わるのねぇ」


 4人は作ったリノを食べながら、口々にそんなことを言っていた。

 と言うのも、作る前にウィルが「肉につけるタレみたいなものがあるなら、一度リノの表面に塗ってから焼いてみるといい」と言ったのが発端だった。


 イグナスにいれば多少の値段の上下はあるものの、豚肉と鶏肉なら割とどこでも手に入る。なので街には一軒ぐらいは、ご飯に肉をのせてタレをかけた丼物を売っている店がある。

 そのタレだけをご飯にかけて食べればそれはそれで旨いので、よく自炊が面倒な時など食べていたものだということをウィルは思い出したのだ。

 リノも元は米なら多分合うだろうと思ってふと言って見たが、こんな食べ方もあるのかと好評だった。


「いやしかしこんなに変わるもんかね、気付かなかった自分が恥ずかしいわ。こんなことなら旦那にこのタレだけ余分に買ってきて貰えば良かった。次に商いに行く人に頼んでみようかしら」


 トゥミはしみじみそう呟いている。


「そんな余分に何か買ったりして大丈夫なんですか?」

「多少の貯蓄はあるから大丈夫だわ。町でも確か500ロンドぐらいでしょう? 問題無いわよ」

「いえ、というより自分とメルの食い扶持が……」

「客人が心配するもんじゃないわよ。それにノーファン様から当分の間頼むって言ってアレも貰ってるし」


 そう言うとトゥミは一度奥の部屋に行き、手に袋を持って戻ってきた。

 袋の中身を取り出すと見事な羽根飾りが付いたブローチやイヤリング等々、沢山の貴金属が出てきた。


「これって白銀鳥の羽根飾り!? こんな高いものがどうして……」


 ウィルには高そうな貴金属にしか見えなかったが、その辺はメルの方が詳しいようだ。

 メル曰く、シナークと周辺各国で売られているこの「白銀鳥の羽根飾り」は、森の奥深くにある湖に年に数日間だけやってくるというピルーツという鳥の羽根から出来ていると説明された。


「なんでこんな高級品がこんなところにあるんですか!?」


 メルが声を上げるのも仕方ないことで、白銀鳥の羽根飾りはそれだけで購入する人の身分の高貴さを証明する程に高価なものだ。


 宝石店に並べば安くて金貨1枚(5000万ロンド)、高級品なら金貨10枚はするだろうか。ウィルの月俸が銅貨2枚(20万ロンド)程なので、庶民がおいそれと手を出せる値段ではない。つまり上級貴族や王族、イグナスなら皇族が持つような代物だ。


 それが山奥のユラフタスの村で4つも5つも目の前に、それも無造作に転がされたら唖然とする他無い。


「あれは鳥の羽根ってことになってるんだろ? ありゃ最初にコレを売り出した人の方便さ。実際は盟友の羽根よ」


 そうトゥミが説明した。確かによくよく見ればフレイヤの羽根はこんな感じだった。

 森の奥深くにある湖に年に数日しかいない鳥、という設定はなかなか上手いなとウィルは思った。確かにそういう風にしておけばその鳥を俺も……という輩も迂闊に手を出せないだろうし、山奥にいるのが普通と思われているユラフタスが町で売ると言うのも分かる気がする。しかし……


「フレイヤって身体は青くなかったか?」


 ウィルがラグナに尋ねた。


「ああ、外側はみんなそんな色なのよ。内側の羽根ほど青かったり赤かったりするわ」

「赤い竜もいるのか」

「いるわよ。と言うより……」


 そう言ってラグナの竜講座が始まった。


 竜は大きく分けて「フラム」「ウォルト」「ヴェント」という属性に分かれ、フラムなら火を操り、ウォルトなら水を操るそうだ。ヴェントはユラ様と同じらしく、ノーファンさんにも詳しいことはわからないらしい。なんでもかなり神に近い存在なんだとか。


 ――そう言えばメルが"神様が本当にいるのなら、あんな視点で世界を見てるのかなぁ"と竜に乗った感想を評していたな。午後は俺も訓練見に行ってみるか。


 ウィルはそう心に決めて、竜語りが止まらないラグナと苦笑しつつ聞いているメルを横目に見つつ残っていたリノに噛り付いた。

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