第13話 第二バビレーヨ〔軒先の2人の女子〕
皆が寝静まった夜の駅逓にて
「――薄赤い花を―――レピアの鳥よ、故郷へと――」
なにか歌が聞こえた気がして目が覚めた。
すぐに寝ようと思ったが意外と眠気が飛んでしまった。なので興味本位で駅逓の軒先に出ると、誰もいないと思ってたのに人影があったのでびっくりしてしまった。
「……ラグナ?」
「わっ、メル? 驚いた、目が覚めちゃった?」
「うん、なんかね。ちょっと眠気が飛んじゃったみたいで……」
ウィルみたいに時計を持っているわけではないので今が何時頃かはわからない、しかし外は真っ暗だし多分深夜なのだろう。
「ラグナ、何か歌ってた?」
「あ、聞こえてた? 声は潜めてたつもりなんだけど……」
そう言ってラグナは照れ隠しのように笑う。星空が明るく、月も煌々と照っている夜だ。その月明かりによって、ラグナの青い眼がより美しく見えた。
「ユラフタスに代々伝わる歌でね、口伝だから合ってるかはわからないけど……」
「へぇ、そんなのもあるんだね。ね、ちょっと気になるからさ、さっきの続き歌ってみてよ」
「ここで!?」
意外な申し出にラグナは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。だがメルはお構いなしだ。
「さっき歌ってたんだからイイじゃん! どうせウィルは起きてこないって」
そう言うとメルはラグナの肩を持ってゆさゆさと揺らしながら催促していた。同い年というのもあるのだろうが、とても会ってから1日や2日には見えないぐらいメルとラグナの間柄は親密になっていた。
「わかったわかったって! メル、結構強引じゃない?」
そう言いながらラグナも満更でもなさそうな表情をしている。同年代の同性の友達がいなかったラグナにとっては、そんなじゃれあいこそ憧れだったのだ。
そしてラグナは静かに口ずさみ始める。
『これは遥か海の彼方へ、送りし
レピアの鳥に託す文、薄赤い花を携えて、その金の輪を運んでくれ
レピアの鳥よ故郷へ、安らかなる地へと、真っ直ぐ真っ直ぐ飛んで行け
長い長い洋上を、迷う事なく進むかの鳥よ
遥か南の我々の、かつての楽土へ
レピアの鳥よ飛んで行け』
ゆっくりと美しい旋律の歌が終わると、メルが小さく拍手をした。
ラグナの歌い方が上手いのかそういうメロディなのか、心に長く残るような歌で、遠い故郷への思いを切に歌った曲だというのがよくわかるほどだ。
「綺麗な歌……」
「でしょ? だから歌い出すとどうしても気分が乗ってきちゃってね。それより気になってたんだけどさ……」
今度はラグナがメルを見てニヤニヤし始めた。
「ねぇメル? 実はウィルのこと好きなんじゃないの?」
メルはハッキリと感じた、自分の顔が瞬時に赤くなっていったことを。
「いいいいいやいやそんなこと無いって無いからなんでよ急に驚いたぁ」
「すごい早口じゃん、そんな慌てちゃってー」
「変なこと聞くからでしょ! もう」
メルがラグナを叩いて顔を俯かせる。
「だって言ってたじゃん、"どうせウィルは起きてこない"って。なんであれぐらいで起きないって知ってるのよ」
反応が面白かったので、ラグナは面白そうにメルを追い立てる。
「いや……それは……ほら! 幼馴染だから! 一緒に寝ることもあった……し…………」
メルは反撃に出るも、自分で言ってて恥ずかしくなってきたのかまた目線を下げた。分が悪い事この上ない。
「同衾したの?」
「同衾言うな!!」
思わずメルが大声をあげた。その声に驚いたのか、近くの木から鳥が数羽飛んで行く。
「しーっ静かに、それこそ愛しのウィルくんが起きちゃうよ?」
あまりにわかりやすい反応が面白かったのか、ラグナの追撃は止まらない。
「"愛しの"は余計! そう言うラグナこそどうなのよ、誰か意中の人いるの?」
ここでメルが反転攻勢に出た。
「んー、同年代の男がいないわけじゃ無いんだけどねぇ。どうもなんとも……」
そう言って考え込むラグナ。実際にユラフタスの村は沢山の人が住んでいるわけではないので、ラグナと同年代の人は少なかった。
「そうだねぇ、メルがウィルのこと興味ないなら私が貰っちゃおうかな? 結構美形だし性格も良さそうだし?」
「それだけはダメ! ――あっ」
メルの心の叫びを聞くとラグナはしたり顔、誘導が上手いようだ。メルはというと顔を覆って足をバタバタさせていた。
その後は少し話して2人とも寝床についた。話し込みすぎたのがメルは翌朝は、いかにも寝不足と言った顔をしていた。心配して声をかけたウィルには「ちょっと眠れなくて」と誤魔化しつつ、昨夜の話を思い出して自分が変な顔とかしてないか気が気ではなかった。
ちなみに同じぐらいの睡眠時間でありながら、魔法で質の良い睡眠を取っていて元気そのものなラグナには、恨みつらみ言っていたとか言ってなかったとか。
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