第3話 勇者の説明


「魔王領へ侵攻し攻め滅ぼせ!魔族を根絶やしにするのだ!」


その日、ソノ国の国王アンタデスは王命を発した。


彼は魔族が大嫌いであった。

奇怪な耳や角を生やし人間のふりをしている化け物ども。

それがアンタデスの魔族の認識だ。

彼らを生かしていく事はこの世のためにならない。

アンタデスは、心の底からそう信じていた。


そしてそう思っているのは何もアンタデスに限らなかった。


魔族は化け物。

その考えはマリアナ教の教えに沿ったものであり、国の中枢はマリアナ教が牛耳っていたためソノ国の権力者の大多数がそう考えていた。


『はっ!必ずやこの命に変えましても!』

城の謁見の間に集められた6人の英雄もまたマリアナ教の信者。

王の意向に疑問すら持っていなかった。

それどころか王の勅命に高揚すらしていた。



(なんだこいつら…こわぁ)


1人、そんな6人の仲間を見てドン引きしているものがいた。

それが勇者、イースである。


彼は、スラム生まれのスラム育ち。

マリアナ教の教えなど信じてなかったし、魔族たちに嫌悪感も覚えていなかった。


そんな彼であるが、彼は今勇者として王の前に跪いていた。

彼は正教会の祭壇にある勇者にしか引き抜けない聖剣を引き抜いてしまった事、そしてそれにふさわしい規格外の能力があることで今回の遠征のリーダに仕立て上げられてしまった。


「勇者よ。頼んだぞ?」

アンタデスはいやらしい笑顔でそうイースに声をかける。

この国王、イースの事をスラム育ちであること、マリアナ教信者ではないことから今まで冷遇して来たのだが何故か最近はイースのことを大層持ち上げて来る。



「うふふ、頼りにしてますよ勇者様!」

「うむ、お主の腕っぷしには世話になる」

 これから苦楽を共にするであろう聖女アイリや拳王ルーインなどもそう言ってイースを持ち上げる。



この職についているうちは食いっぱぐれなくていいかと軽く考えていたが…どこかすわりが悪く気持ち悪い。彼はこの王、そして共に戦場を駆け抜けるはずの仲間に何処か薄ら寒いものを感じていた。


そしてその違和感は戦場ですぐに現実のものとなる。



『ヒャッハー!!魔族は皆殺しだー!!』

旅している時は一応普通に見えた仲間たちは魔族を前にすると豹変した。

目を血張らせ、村に住むなんの罪もない魔族たちを楽しそうに殺戮していく。


イースはドン引きどころの騒ぎではない。

強い嫌悪感を抱き軽蔑した。


スラム育ちであるため殺し殺されには慣れていたが、そこにも一定のルールがあった。

しかし彼らの行っているのは虐殺。なんの理由もなかった。


「どうかしましたか?勇者様?」

白いロープを鮮血で染め、魔族の首を片手にぶら下げた聖女アイリがにこやかに微笑む。


ただのスプラッタホラーだった。

こんな頭のおかしい連中とやってられるか!!


「…いやなんでもない」

イースは言葉では冷静を装い応えるが、この惨劇を目撃するにあたり国の連中共は異常だと確信するに至った。


その時から裏で魔族を助けること、和平の道を目指すことに決めたのであった。



ーーーーーーー


「と言うようなことで、そういう事があってから俺は率先して前に出て魔族を切ってるフリをしては魔族を転移させたり、死にかけた魔族を裏で蘇生させたりと、色々してたわけです。仲間(笑)にバレないかいつもヒヤヒヤしてましたよ」


「…そうか」

リリーは予想以上にヒャッハーしていた勇者の仲間達に恐れ慄いていた。


人間には敵意を持たれているとは思ってはいたものの、まさかそれほど魔族に対して敵意を持っていたとは予想していなかった。


「そなたはを友和を望んでいるようだが…その調子では無理ではないか?国民が納得せんだろう」

「それがそうでもないんですね。確かに国王らは納得しないでしょうけど、国民は納得すると思いますよ。」


「…どういうことだ?」

「やばい奴らはみんな国の中枢のやつらですからね。国民は重い税金や上がらない給料に苦しまされてるんで、戦争なんてしたくないってやつが多かったんですよ。国の上層部を一掃できれば大丈夫です」


人間たちも一枚岩ではないと言うことだ。しかし勇者の話を聞いていると、これまでリリーが得ていた情報と少しズレがあるように感じた。これはうちの情報収集力が甘いのか、それとも…。


「まぁ、そこについては魔王さま方にご協力いただきたいとこですけどね。俺とあなた方の力があればソノ国の上層部を潰せるはずです。そうすれば、先の世界を半分こ、なんて話も可能になりますよ」

「そうか、貴重な情報感謝する。今日はもう遅い。続きは明日また話をすることにしよう」


リリーは若干の違和感を感じながらも少しは明るい未来を見られそうだと希望を見出せたことに安心していた。


そして秘め事をうまく隠し通せたことにイースも安心していた。


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読んでいただきありがとうございます!

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思って貰えたら是非★評価お願い致します(*´∇`*)

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魔王「世界の半分で手を打たんか?(震え声)」勇者「その話、詳しく」 羽希 @-uki-

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