第8話

悲しみに項垂れていると、エールくんがおそるおそる言葉を掛けてくれた。


「…あの、ですね、アレク様」


君もわたしが苦手だろうに、それでも我慢してくれるとは、良い子だ。


「その、俺も、アレク様に…そういう態度を取ってしまいがちなんですが…」


顔を赤らめ辛そうだ。

隣のハットくんも何故か赤くなっている。

うむ、仕方なしの反応だ。

悲しくなんて、ない。

駄目なわたしアレクが悪いのである。


「アレク様の容姿があまりにも神々しくって美しすぎて、駄目なんです!」


そうか、駄目か。


ん?


神々しい?


それはわたしが白き鷹の神だからだろう?


んん?


うつくしい?


誰が?


わたしが?


アレクが?


「本当に心臓に悪いんです!綺麗すぎて…ヤバイ!」


「わかる!アレク様やばいよなっあの猛禽類じみた瞳で見つめられたら…やばい…」


「ヤバイよ!時々微笑むのが駄目っ!あれ、ホント!惚れちゃうよ!」


「わかるぅ!!うちの隊、微笑まれて良い子良い子って頭撫でられたりする時あって…やばい!」


「なにそれずるい!!!俺も…いや…耐えられなくて気絶する…」


「なにからなにまでカッコイイのに、中身もっとカッコイイだろ!?そんで声がまた…好い…!」


「全部いいよね!?」


「わかりみがつよいーっ!うちの部隊、そもそもファンクラブみたいなもんだし」


「だってヤバイものね!」


「微笑んで頭撫でられたらさ…惚れる…あ、この方に一生ついてこって…この方を護りたいって…見放されたくないって…思うんだよー」


「わかるぅ!」


ふたりは何故か盛り上がっている。

わたしの造作の話で、すごく楽しそうだ。

黙って耳を傾け「わたしは、やばいのか…?」どうやらそいうことらしいと確信を得た。


「やばいです。かっこよくてやばいです」


「笑顔がヤバイです。声がヤバイです」


「やばいのか…」


その、やばいとは通常、良くない意味を指す。

だか、ふたりが使っているのは、どうやら、良い意味でやばいというような?

ややこしくなってきた。

人間への理解度が浅いわたしには、難しい話に聞こえてきた。


「見つめただけで、ゴライオス国の王子様とお姫様卒倒させたことありましたよね」


「ああ、あれは大変申し訳ない事をした」


大事な国賓であった王子と姫をわたしは気絶させてしまったのだ。

白鷹の姿で宴会に出席したわたしに、獣が出席するなと激昂。

無作法を詫びるべく変身したところ、アレクの姿を見るや気を失ってしまったのだ。

以降は顔を真っ赤にしながら、わたし、ではなく鷹の姿の我を望まれ…。

最期まで目を合わせてくれなくて。

よく来られるようになったけれども、鷹の姿で、と念を押され…。

悲しいっ。


「あれはですね。アレク様の御姿があまりにもかっこよすぎて惚れちゃって今も照れてしょうがないってのが真実なんです。…お姫様なんて嫁に来ようしてるんですよ?」


「それ、噂で聞いたことある!…他にも、ギガ魔王国の将軍様とか青砂漠の国の貴族の令嬢とかが、アレク様を欲してるって聞いたけど本当?」


「ホントホント…ここだけの話だけど、アレク様に分かって欲しいから言います。アレク様の姿を見た国賓のほとんどが、ほとんどが、婿に嫁を番になりたいって言ってるんです。そのくせ本人に会うとかっこよさでおかしくなってまともに会話出来ないっていう…俺たちは慣れました。大好きなんで慣れて護らないとってことで!でも不意打ちの頭撫でとか、高い高いとか、笑顔とか、止めて欲しい…」


わたしとの番を望んでいる?

あの将軍殿か?

あのご令嬢が?


いやだがしかし、みな、確かにわたしを見て顔を真っ赤にして…。


「アレク様。顔を真っ赤にして目を逸らすのは、カッコイイ造作の所為です。アレク様は好かれているんです。見た目も中身も含めて。人間は見た目で判断してしまう生き物なんです。美しいものが大好きなんです。宝石と同じなんです」


「わたしは…人間の美醜はわからないが…そう、なのか」


「そうなんです。こればっかりは、アレク様は神様だから理解出来ないかもしれませんが…」


「…うむ…そうだな、わたしは、見た目で君たちを判断しないから」


「…アレク様は俺たちの何を見て…その判断するんですか…?」


エールくんに聞かれ、わたしは、わたしと人間との違いに気が付いた。

そうか、この違いか。

わたしは、美醜が理解できない。

その変わりに、見えているものがある。


「わたしは、魂をみているよ」


ハットくんの正義の光満ちた魂。

エールくんの優しい魂。


わたしは魂をみて、人間を、見つめてた。

あの子は、良い魂だった。

初代帝王ルスナ。

あの強い信念に満ちた魂。

わたしは、我は、彼の魂に、惚れたのだ。

あの子の魂が望むものを、叶えてあげたくなったのだ。


「いまのやばぃ、みたか」


「みた…かっよすぎ」


「如何したんだふたりとも…ものすごく顔が赤い…発熱か?」


ふたりの元へ近寄り額に手を当てる。

うむ、熱がある。


「ひゃあああああ…それをやめてくれってぇぇぇ」


「……」


「あっえっえーるいきろぉいきをするんだっぁあ」


「だめむりとおといやさしいかおちかいすごい…」


「…そんなにわたしはやばいのか…」


心配して癒しの魔法を頭を撫でながら施す。

だが効いている様子が無い。

これがわたしがやばいということなのだろうか。

だとするとまさか。

わたしは馬鹿な考えを巡らせてしまった。

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