第6話

人間の時のわたしは、銀髪に金目の目付きの悪い男に成る。

この姿のわたしはアレクと名乗る。

身長はどうしても高くなってしまう。

年も二十後半になってしまう。

造作は弄れない。

ままならないものだ。

もう少し親しみやすい、線の細い小柄な若い姿であればよいものを。

衣裳は魔力で作っている。

白一色だ。

体毛と同色が、やはり落ち着くのだ。

落ち着くのだが、衣装は現代の流行を取り入れるべきだろうか。

古臭い装飾が施されたローブではなく、最新の洋服に着替えれば、少しはましになるだろうか。

悩ましい。


「ぎゃっ!」


そんなわたしの姿を見て、エールくんがはじめてわたしを見た時と同じ反応を示した。

驚き飛びのき慌てている。

ううむ、傷付く。

アレクは如何せん、人間に好かれない容姿をしている。

あんなに親切で優しかったエールくんが、わたしをまともに見てくれなくなってしまった。


「あ、の、急に、人間にっならないでくださいよっ!」


しどろもどろになり、顔を真っ赤に染め怒られてしまう。

悲しい。


「すまない…これを飲んですぐに出てゆくので」


「あ、そんな急がないでくださいっ!雨とか降りそうですし!」


真っ赤な顔を背けたまま怒鳴られても。

わたしは急いで薬を喉へ流し込む。

人間の身体の使い方が下手糞なので、何度もむせてしまった。

時間を掛けている間に、窓の外から雨音が聞こえてきた。


「ほら、雨降ってきましたよ。だめですよ、身体濡らしたらよくないですから」


「だが」


「だ、いじょうぶなんでちょっとこっちみないでください」


「…うむ…」


泊めてやるからこっち見るなとは、つまりはアレクは歓迎しがたいということだ。

我専用に用意してくれた寝床がまだあるのを確認し、わたしは本来の姿に戻ろうとした。


「エールっ白鷹様来てるか?!来てた!良かった!!」


「ハット…どうしたんだよ」


エールくんが家に飛び込んできたハットくんに嬉しそうに駆け寄った。

わたしへの反応の違いさ加減に、寝床へ頭から飛び込んでしまいたくなった。


ハットくんはすぐさまわたしを見つけ、わたしを睨んで叫んだ。


「白鷹様っ…!だからっ急に姿消さないでくださいって!おねがいしたのにっ!酷いです…っ!」


雨の中走って来たのか、エールくんは濡れた身体を上下させていた。

エールくんが急いでタオルをと心配し、わたしも同じ気持ちになってハットくんの傍へ寄った。


「ハットくん…風邪を、引いてしまう」


わたしは暖かな風を送風し濡れた服を身体を乾かした。

ハットくんは怒った顔のまま、わたしの両手を静かに握った。

心なしか頬が赤い。

熱が?

でも手は冷たい…。

わたしは身体が温まる様に温風を送風し続けた。


「ハット…白鷹様、今度は何をしたの?」


「いい加減ご自愛してくださいって関係者各位お願いしたら、勘違いして逃げて飛んでったんだ」


「…白鷹様……」


ハットくんに寄り添いながらエールくんが半目になってわたしを睨む。

何故だ。

理解できない。


「…むぅ、これ、わたしが悪いターンなのか?」


「そうですよ」


「そうですねぇ」


「何故だ」


「…エール、悪いけど俺と白鷹様泊めてもらっていいか?」


「いいに決まってるだろ。さぁご飯食べよう。白鷹様も」


「おや?わたしが悪いターン続いている?」


ふたりはわたしを見て、深いため息を吐いた。

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