第3話

扉を抜けるとすぐに吹き抜けの渡り廊下に出る。

書架へ向かうこの自然と向き合える渡り廊下が、わたしはとても好きだった。

季節の花を育み愛で、春から冬にかけても移り変わりを感じられる場所を城の各所に創ってあるのが、実に好ましい。

そして我が森に繋がっているのが、実に佳い。

しばらく快晴の元そよ風を感じていると、城の方から誰かがやってくるのが見えた。


「あれ、アレク様」


「おや、イクサバくんこんにちわ。息災そうでなによりだ」


「へへへ…アレク様にそー言って貰えて、光栄っす!あ、フーレ居ます?」


特別な呼び名に胸がムカムカした。

いや仕方無し。

彼はイクサバくん。

フレイルくんは彼をイックと呼んでいる。

愛称で呼び合う仲。

実に自然体な笑みと様子で話す姿を見かけたその日。

わたしの初恋は実らない事を悟った。

フレイルくんが好きなのは、間違いなく彼だ。

気持ちの良い青年だ、仕方ない。

わたしのような人間の気持ち分からぬ愚か者なぞ、比べ物にならない。

わたしは、所詮。


考え込もうとしてしまうのを押しとどめ、わたしは平静を装い答えた。


「ああ、居るよ」


「そっすかそっすかー。そうだアレク様、この間の戦ん時、まじでびびりましたよ」


「要らぬ心配を掛けたな。だが我は騎士を守護して死の底に堕ちても、蘇る事を約束しよう」


「え、いや、あの、ですね。堕ちないでほしーって話、なんすけど」


「心配するな我が愛しの騎士よ。我はそなたら残して消えたりしない」


「…だめだこの脳筋…騎士団長と宰相殿と魔導師殿にたっぷり叱られきてくださいっす」


「なぜ我が叱られる…?」


「俺めっちゃ心配したし、フーレなんか砦飛んでったんすからね!」


「…?フレイルくんが我を?」


「…えーっまじかっ…あー…その話フーレしてねぇのかよーあいつ…いや、俺から言うのもなんですが、アレク様のことめっちゃ心配してましたよ!」


イクサバくんは短髪が勇ましい頭を抱えた。

頭痛だろうか。

心配だ。


「フレイルくんはわたしの心配なんてしないだろう」


そもそも書架の番人が前線に近い砦に来るはずがない。

ハっ…これはもしや、彼氏であるイクサバくんのわたしに対する嫌がらせ?

ま、マウンティングというやつだろうか。

わたしを勘違いさせて、なーに勘違いしてんすか愚かなアレク、フーレは俺のもんなんすよ、という展開…。


「今考えてる馬鹿な妄想はあり得ないんで止めてほしいっす」


「…」


わたしは目を逸らしたが「嘘吐くの下手糞だなー」何故かバレた。


「まぁ、とにかく、会議室行ってください。フーレにはちょっと俺が言っときます」


「あ、あぁ…でわな、イクサバくん」


呆れた様子で手を振られ、わたしは急ぎ足で会議室へ向かった。

本来の姿ではいかない。

会議では人間の姿で出て欲しいと請われているからだ。

それにやはりまだ羽根に違和感があるのだ。

ああ早く、気分よく空を飛びたいものだ。

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