第3話
◇◇◆◆◇◇
……コンコンカラン
「いらっしゃいませー!どのようなご要件ですか?」
昨日来た男性が入ってきた。
サングラスと毛皮のマフラーを外してにこりと微笑みながら。
彼は周りを見て何かをさがしているよう。
「あれ?ピッピはどうしたんだい?」
「それが、作業部屋に昨日の夜から篭ったきりなんです。」
「ああ、またか、」
そういうと男性は心配そうに螺旋階段の上を見る。
「また?ですか?」
「まあ、気にするな。入るぞ。」
ティオンは彼が入ろうとすると両手を広げて睨みつけて「入るな」と目で訴える。
男性はふぅっと一息着くとカウンターの横に置いてある古いソファに腰をかけ、足を組む。
ティオンはそんな彼を見て、結界魔法をカウンターの入口にかけて、急いで螺旋階段を上がる。
作業部屋に入ろうとすると彼女の声が頭に流る「私が作業中は絶対に入らないこと。」。
入らないべきか?と一瞬頭をよぎるが、頭を大きく横に振って中に入ろうとドアノブを握る
「ビッ…っ!!!」
不意に開く扉に驚き飛び退く。
中から出てきたのは先程までソファに腰かけていた彼がピッピを抱き抱えた姿だった。
ティオンの中では「何だこの男は、人の店にヅカヅカと入り込んで」と、怒りが湧いて来た。
手を強く握る。
「どきな。」
「あなたなんなんですか?!ここはピッピさんのお店なんですよ!それなのに誰の断りもなく勝手に入ってきて!」
「…俺のことは気にするな。」
彼はそういうと螺旋階段から飛び降りて、外に出る。
ティオンはその場でペタリと座り込んでしまう。
どれくらいの時間が経っただろうかふと顔をあげると彼がいた。
「何時までそこにいるつもりだ?君の仕事はなんだ?」
「私の仕事はピッピの手伝いと、ここの清掃…」
「そういうことを聞いてるんじゃない。ピッピがどういう経緯で君を雇ったのかは知らない。彼女は…いや、話すべきではないな。君には早い話だな。忘れてくれ…君1回家に帰ったらどうだい?」
「私はここに雇われてます!なんであなたに決められないといけないんですか!?今は私の家はここです。」
「…では座ってないで仕事をしろ。」
はっと息を飲む。
ティオンは螺旋階段を駆け下りて、ピッピの寝ている部屋に向かう。
◆◆◇◇◆◆
「んっんー!!!…ん?」
私はグイグイっと背伸びをして、目を擦りながら起き上がる。
ベットの傍らで寝ているティオンを見つける。
私は顎に手を当てて何があったんだっけ?の記憶を辿る。
最後の記憶は作業部屋だった。
ということは彼女が作業部屋に入ってきたと言うことだろうか?あれだけ入るなと言ったのに…。
だかよく入れたな…あの結界をくぐり抜けて感心感心。
「ふぁ~ピッピ!良かったー!」
不意に抱きつかれ驚くが、背中をさする。
私は心配をかけたようだ…。
「うむ起きたようだな、」
「アンっ!ああ…署長が作業部屋に入って私を運んだんですね…なら良かった。」
「ご…ご飯の準備してきます。」
急に走り出し、出ていくティオン私は首を傾げてしまう。
彼を見ると頭をかいている。
何かあったのだろうか?
「その…な…彼女の中では、もうここの従業員のつもり…従業員なのだが、なにも間違ってないのだが…仕事を任されないのが腑に落ちないようでな…私もうまく説明できなかった…そして彼女に厳しい言葉をかけてしまった。」
「あらあら、わかったわありがとう。アン。」
そういうと顔を逸らす。
彼らしいな…。
私は彼の顔を手を伸ばし髪から耳にかけて撫でる。
「いつもありがとう…。さて…おきようかしら!」
彼は2回首を振り、布団をのかして私の体を支えてくてた。
手を取り立ち上がるとぎゅうっと手を握られた。
◇◇◆◆◇◇
「さて!朝ごはんの前に仕事の話よ署長!」
「「だめ!」だ!」
私は手を叩きニッコリ微笑む。
「あら息ぴったり!」
「ぴったりじゃないです!また倒れたらどうするんですか!」
ティオンはサンドイッチのお皿をトンっと机に置き、冷蔵庫からポテトサラダを出して、小さいお皿にスプーン2杯をトントンと入れる。
大丈夫なのになぁ~と耳をかいて、彼が入れてくてた紅茶をひと口飲むフルーティーな香りが口いっぱいに広がる。
ティオンとアンの仲で何かがあったようだが、そうとは思えないほど息はピッタリで、3人食卓につけば簡易的なお祈りを捧げて食べ始める。
サンドイッチの具はベーコンエッグにチーズをかけて焼いたものと野菜を挟んだものだった。
野菜がシャクシャクしているのとパンを軽くトーストしてあるのでチーズも熔けていてとても美味しい。
そして紅茶を1口飲む、 今日も素晴らしい朝だ。
その日は彼は帰って行った。
◇◇◆◆◇◇
3日後彼は店を尋ねてきた。
今日も鳴り響く乾いたベルの音。
「完成だよ。渾身の出来。」
「おお、これは…すごい。持つとさらにわかる。手に吸い付くような感覚。私のために計算され、丁寧に仕上げされている。魔力の通りもいい。素晴らしい。しかも長杖にしたのか珍しいな。」
「魔術回廊が足りなくなってしまいまして。増築と修正を繰り返したんですけど、長くなってしまいました。」
「お代と少しの気持ちだ。」
彼は内ポケットから麻袋を取りだし渡してくる。
受け取り、確認すると少しだけ多いようだった。
チップである。
頂いておこう。
「元あった『妖精王の小指』は、結着部分に使いました。杖の元を古の赤龍の爪と杖先は黒珊瑚晶。またこれも、素材同士の相性も最悪でこれもまた魔術回廊をめちゃくちゃにしてしまうので、水晶と『精霊王の小指』で完全に魔術回廊を絶って、ブラックスライムの液に漬けた……」
「あー、まあ、最高傑作ってことだろ?」
「ええ、勿論よ!どこに出しても恥ずかしくないし、こんなめちゃめちゃな杖中々ないわよ!」
「いつもありがとうな。あとこれ…二人で食べてくれ、」
「あら!新しく出来たお菓子屋さんの…ペペンプ・ププール行ってみたかったんだよね~ありがとう~」
「ティオンによろしくな、あの子真面目でいい子だよ。あの子の事よく見てやりな。お前はもうそろそろ弟子を持つべきだ。」
「署長のお墨付きが貰えたなら安心ですね。ふふふ」
カランと乾いた音が店内に響く。
どうしたものかね?
「戻りました~」
「おかえりなさい」
二人でお昼ご飯の準備をしていく。
たまには庭で食べるのもいい。
暖かい陽だまりに、シートを敷いて、お昼ご飯にと作っておいた、アボカドのサラダと、サラダチキン、トマトのオリーブオイル漬け、シャケのグリルのクリームチーズ和え、バスケットにバターロール、フランスパンを切って盛り付ける。
ああ、今日も美味しい。
魔女と東の灯台屋 Q @melt0244
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