第24話 ある医師の手記

 悪魔憑きの隔離において重大な問題が発見された。

 悪魔憑き達は一か所に集めることでエレクチオン・ラーマ反応が共鳴作用を及ぼすことが分かったのだ。

 これにより、共鳴値が一定に達した空間には悪魔付きとは異なる新たな悪魔が生まれ出ることが確認された。

 この悪魔を便宜上は野良悪魔と呼称するとともに、悪魔憑き達の隔離保護施設には何らかの対処が必要であると示しておこう。


 その隔離保護施設についての案がある科学者から提示された。

 それは月面基地を使った都市を作ることだった。

 悪魔憑きと非悪魔憑きのパーセンテージを考えると悪魔憑き達をすべて移住させた場合の都市規模は大都市規模になるだろう。

 だが、地球上に悪魔憑き達を残しておくことのリスクを考えるとその案も一考の余地があるだろう。

 問題は彼らを保護する資金をどのように算出するかどうかだが。


 馬鹿げている。

 この世界は古代ローマではないのだぞ。

 悪魔憑き達を戦わせてそれを見世物にして賭けを行いその興業収益で賄うなど蛮行極まる。

 だが、悪魔憑き達の戦闘衝動を抑えるにはそれしかないか。

 彼等にとって戦いは避けられない生存本能と化している。

 それを有効活用しようというのだろう。

 それは分かる。

 だが中には年端もいかない子供もいるのだぞ。


 悪魔憑きの研究が進んだ。

 彼等のエレクチオン・ラーマ反応を解析して個人パターンを機械に読み込ませることに成功した。

 それをソウルコードと呼び、各人の端末を支給してVRゲームでの対戦を可能にすることもできるようになった。

 まあ妥協範囲内だろう。


 月の都市化計画が順調に進んでいるようだ。

 本来ならば今の技術では不可能だった月面の大型基地作成だったが、悪魔憑きの研究データを応用することでパラダイムシフトをすることができた。


 ついに悪魔憑き達の月への移住が始まった。

 家族と離れ離れになる者もいるだろう。

 宗教的対立者がいるだろう。

 問題点はまだまだ残されている。

 にも拘わらずに世界はこの計画を強行した。

 私にもまだ小さい子供がいる。

 もしこの子が悪魔憑きにでもなったらと思うとやるせない。


 私見ながら私は今回の計画に大きな意思の働きかけを感じずにはいられない。

 神が居るならなぜ人は悪魔になるのでしょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る