ディアブル・ド・ラプラス

第21話 鬼VSヘカテー ３

『痛い、痛い、痛い。』

「も～～～～～う、痛いんだってばあああああああああ。」

　ついにヘカテーは心の叫びを口にして、一歩前に出た。

　鬼・改はこれを警戒して距離を取る。

「紅蓮の劫火よ。汝に意味を与えん。」

　ボウ！ボウ！ボウ！とヘカテーの詠唱に合わせて炎の柱がいくつも立ち上がる。

　その炎の柱の間をぬって鬼・改がヘカテーを強襲する。

　ガキッンンンンンンン！

　鬼・改の金棒はしかし今度はヘカテーの手に捕まってしまう。

「炎、汝の意は蛇なり。連なり締め上げその劫火で獲物を飲み込む大蛇也。」

　鬼・改は必死に金棒を振りほどこうともがく。

「ええぃ、離せ。これは俺のだ。離しやがれこのババァが。」

　ぴくっ。

　ヘカテーの片手がひくつき、鬼・改の体を掴もうとしたので、鬼・改は金棒を諦めて素早くそこを離脱した。

「誰がクソババァだ。焼き尽くせ【炎の蛇（ヒビィフローガス）】。」

　ヘカテーの詠唱が完了し、立ち昇っていた炎がうねり始めた。うねる炎は互いに絡みつき一つの炎の連なりとなると先ほどまで鬼・改が居た場所を飲み込む。

　炎がもう一度鎌首を持ち上げた時、ヘカテーが掴んでいた金棒はドロドロと真っ赤になって溶け落ちていた。

「どうやらババァ呼びはお気に召さなかったようだな。」

「気に入る者が居るとでも？」

　そう言ってヘカテーは持っていた金棒を放り捨てる。

　鬼・改の目の前に、もはや武器として使えそうにない金棒が転がる。

　金棒はジュージューと音を立てて焼け爛れていた。

　鬼・改は自身の課金ポイントを確認して今後の戦術について考える。

　しかしそれを待つヘカテーではなかった。

　炎は蛇となり鬼・改に襲い掛かる。

　鞭のようにしなり蛇の頭から鬼・改へ襲い掛かる。

「くぅ、さっきより早い。」

　鬼・改は回避に成功するも歯噛みした。

「早いだけではないぞ。」

　ヘカテーがそう言うように炎の蛇は弾着後に弾けることなく、本物の蛇のようにうねり鬼・改を追いかけてくる。

「くそ。」

　執拗に追尾してくる炎の蛇の頭から逃れんと飛んだり跳ねたりくぐたりして躱していく。

　ぐるぐるぐるぐると。

　これが本当の蛇なら体が絡まっていたかもしれないが、残念ながら炎で出来た体は絡まることなく鬼・改の逃げ場を封じて囲い込んでしまった。

　それを見たヘカテーは次の手を打つ。

「炎よ、汝に更なる意を与えん。汝は牙、三つの顎（アギト）、その意味を持って我が眼前の敵を焼き滅ぼせ【トリスアギオン】。」

　その詠唱で鬼・改を取り囲んでいた炎の壁に、鋭い牙を生やした口がガパリと開き鬼・改に一斉にかみついて来た。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！」

　灼熱の劫火による噛みつき、それに鬼・改は苦悶の声を上げる。

　しかし、それだけでは終わらない。

　ヘカテーが上げた手のひらをグッッと握り込むと同時に、今や炎の塊になっていた蛇がギュッと圧縮されて大爆発を起こした。

　ヘカテーは爆風でたなびく髪を押さえながら満足そうに微笑むのだった。