第3話 相貌失認症
「で、結局朝からついイッパツやってしまった。」
と、ベットの上で緩い倦怠感を味わっているカズマの耳に、シャワーを浴びているディアナの鼻歌が聞こえてくる。
カズマにとってディアナはカワイイ彼女である。
背が低いところとか、目が大きいところとか、まつ毛が長いところとか、小顔なところとか、柔らかく瑞々しい唇とか、他にも上げたらきりがないほどである。
しかし、カズマはそれを覚えていられない。
「お兄ちゃん。また難しい顔してる。」
シャワーから上がったディアナがカズマの顔を覗き込んで、あきれ顔でため息をつく。
「その、すまないな、っと思って。毎度毎度顔を合わせるたびに他人行儀みたいにさ。」
「しかたないわよ。「
「そうは言っても。」
「気にしないで。私だってお兄ちゃんに依存しなきゃ生きられないデーモンを飼っているのよ。押しかけ女房のように、ストカーのように、お兄ちゃんにすり寄って無理やり童貞を奪って彼女になった異常者よ。ホントは私の方が謝らなきゃならないのよ。」
「でも、謝ってはくれないんだろ。」
「当たり前よ。それが私のカルマだもん。――でも、感謝は言うわ。私の様なストーカー女に付き合ってくれてる。それがすごい嬉しい。お兄ちゃんが死んだとき私も死ぬわ。」
「重いな。」
「尻の軽い女より愛の重い女の方が本来普通なんです。最近の若い子は貞操観念が歪んでいるわ。」
唇を尖らせて吐き捨てるディアナ。
「人を無理やり襲った人が何を言いますか。」
「据え膳を食べないお兄ちゃんが悪い。」
「はい、すみません。それより早く服を着なさい。風邪ひくよ。」
カズマの目の前には華奢なディアナの裸体が惜しげもなくさらされたままである。
頭の上には髪を拭くバスタオルがあるだけ。
可愛い彼女がそんな姿で目の前にいられたらカズマのアソコも反応してしまいそうになる。
「なんなら2回戦行っとく?」
「行かない。俺もシャワー浴びてくる。」
「ちぇ~、残念。まぁいいわ、ごゆっくり~~。」
【相貌失認症】
カズマが煩わっている病気である。
正確には脳神経系の障害であり、生まれつきないし、事故などによる頭部へのダメージによって後天的に発症する類のものである。
軽い物なら人物の顔を覚えづらいという程度のものだが、重度になれば親兄弟の顔も見分けが付かなくなってしまう。
ここまでくると理屈とは別に、他人なんてみんな一緒だ。という意識が強く根付いてしまい、自分から他者とのコミュニケーションを取りづらくなり、果てには他人を恐怖するようになる。
また、服装や仕草など条件を付けて判別している人物に対しても記憶との結びつきが遅れてしまい、最初は誰か思い出すのが困難なことが起こる。
以上のことから対人適応障害、通称コミュ障に陥りやすい。
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