番外・同人誌即売会イベントデート(3)
※(全視点)
……う~~ん、ちょっとやり過ぎたのだろうか?女装って、そんなに奇抜な手段とは思えなかったので、事前にわざわざ言わずにいたのだけど。
僕は、隣でなんだかギクシャクと、不自然にロボットみたいな感じに歩く沙理砂先輩を見て考える。
先輩のお母さんがデジカメを用意していたのも、それが簡単に予想出来たからだと思う。
……でもあのデジカメ連写撮りは、自分の母とまるで同じな行動で、母親という生き物は親馬鹿で物好きで、風変りな性質を持つ人が多いのかもしれない、とか思ったりも……。
それはともかく、僕の女装姿を見た沙理砂先輩が、多少ひきつった表情をして、若干引き気味だったような気がしないでもないのが気にかかる。
まあ、女装した男子を見て、目を輝かせて喜ぶ母親二人よりも、かなり正常な反応だと思えはするのかなぁ……。
※以降(沙理砂視点)
「……そんなに、僕の恰好、変ですか?」
あれから家を出て、徒歩で駅につくまでの途中で、全君がなんだか心配そうな感じで聞いてくる。
「え?ななな、なに?なんで?」
私は、全君のいきなりな発言にちょっとキョドってしまう。
「先輩、なんか表情がひきつってますし、やっぱり女装男って、普通にキショい、キモいですよね……」
と、全君は凄く落ち込んでる風だ。……って、私のせいか!
「あ、じょ、女装の事ね?べ、別に私は、そんな風に思ってないよ!ていうか……、一緒に行くって言われてから、もしかしたら、と予想してはいたのだけど、普通に似合ってて、ちゃんと可愛い女の子に見えてるから、それで単に驚いただけだからっ!」
思わず力説してしまう。
おまけに全君は、声色を変えて高い女の子の声まで出せるのだ。周囲に人がいても会話出来る様に、との事だけど、そっちも可愛い系ボイスで、まるで女の子そのものなのだ。(ちなみに、調整すれば腹話術みたいな事も出来るらしい)
後、女装だと見破られない様に、女の子らしい仕草やちょっとした身振りとかを、周囲の女性達やTVとかで観察して練習したとかで、ちょっと小首かしげたり、手先の繊細な仕草、歩く感じもゆったり小股で、普段も歩く速さは私に合わせてくれているのだけど、今日は本当に同性と一緒に並んで歩いている感がハンパない。
それで「サリサ先輩~♪★」とか、女の子声で語尾に音符か星でもつきそうな感じに呼びかけられると、なんか部活とかで出来る可愛い後輩と会話しているみたいで、私にはそんな経験はまるでないので、ちょっと無意味に感動してしまっている。
(健康的な一高校生男子が、そんなに可愛くてどうするのよ……)
それに、行ける筈もない、と決めつけていた念願の同人誌即売会のイベントに参加出来る事も合わせて、私は少々(本当はかなり)浮かれて舞い上がっているのだろう。
……つまり私は、あんまり正常な状態とは言えないのだ(胸張って言える事ではないけど)。
「ぜ、ぜん君こそ、女装なんかして、嫌じゃないの?私としては、一緒にイベントに付き合ってもらえるんだから、凄く心強いのだけど、やっぱり悪いなぁ、と思ってしまうのよ」
そこで、私も気がかりになっていた事パート1を尋ねてみた。
「あ~~、別に、まったく抵抗がない訳じゃないんですが、昔から母が衣装持ちで物好きで、すでに何回もこんな“仮装(アホな恰好)”の経験があるので、全然平気ですよ。
それに、サリサ先輩の男性恐怖症の事をシア先輩に聞いた時も、なら、僕にも拒否反応が出るならしばらくの間、最初の慣れない内は女装して行動するのもありかな、とか考えてもいたので……」
「えぇっ!そんな事まで考えてくれてたの?!」
本当にビックリして、つい少し大きい声を出してしまった。
確かに、その可能性はあったのだ。
全君が、詩愛風のいわゆる、“六番目の幼馴染”であった為か、あるいは年下で余り大きな男子ではなかった為か、他の幼馴染同様に、まったく平気な上に謎の安心感まであって、私と全君は普通に二人きりでも出かけられると判明したのは、彼の告白後に何度か行動を共にするようになってからなのだから。
「はい。それで、この無駄な女装経験も役立つかなぁ、と。学校でも、僕が同学年で同クラスとかだったら、女子の制服を着てたかもしれません。
まあ、実際は下級生で、登下校と昼休み以外はご一緒出来る機会がありませんから、考えるだけ無駄なシミュレーションでしたが」
「……いや、学校で女装とか、漫画やアニメじゃあるまいし、普通に認められないでしょ。それに、そこまでしてもらうのは流石に……、ハハハ……」
私は思わず乾いた笑い声が出てしまう。
ちょっと、私ってばこんなに色々と考えてもらえてて、一方的に気遣わせてばかりじゃ、傲慢最低女な所行じゃない?ただでさえ、女装なんて普通の男の子だったら泣いて嫌がるような無理してもらってるのに!
(はぁ……)
思わず知らず、溜息が漏れる。
こんないい子になんで私なんかが好かれるのか、謎過ぎて意味不明だよ……。自分ではいくら考えても明確な答えは出ずに無意味だから、最近はもう考えるのを放棄して思考停止状態。今はあるがままを受け入れて楽しんでいるのですが……。
※
いつもの私鉄電車の駅から、いつもとは逆方向の電車に乗って目的地へ。
時間的には、普通に通勤通学の時間帯だけど、今日は日曜の休日なので、それほど人は多くない。朝から張り切って出かける家族連れとその他って感じ。
なんとなく、いつも通りに人の視線を感じるけど、ちょっと面白い事に私は気が付いた。
いつもだと、詩愛が7割私に3割ぐらい?瀬里亜も加われば、詩愛6に瀬里亜
が3、私が1ぐらいが視線の割合だと思う。これは、別に大袈裟な話じゃなく、本当に体感がそんな感じなのだ。
基本、詩愛が北欧系の銀髪美少女でとても目立ち、明るく陽気な瀬里亜も人の目を惹きつける要因が多い外見だからなんだけど、それに合わせて二人が私を目立たない様に矢面に立ってくれているからなんだよね。私に男性恐怖症、嫌悪症があって、余り人の視線、特に男性の、が苦手で下手をすると貧血とか、まれに気分が悪くなる時もあるから。
で、今日はそんなに周囲に人が多くいる訳じゃないけど、人数が二人だけで、しかも女の子二人連れ(に、一見すると見える)。どうしても興味本位にチラチラ見てくる男性の視線が多くある。
で、その割合が、私6に全君が4か、いや、やっぱりほとんどゴブゴブか(ゴブリンゴブリンの略ではない。漢字で書くと、私の女としての矜持(プライド)が……)。
でも、それも分かる。
全君の完璧な演技のせいか、彼はどこからどう見ても女の子そのものだし、身バレ防止の為に前髪で目元を隠しているけど、常に明るく楽しそうに笑顔をふりまいているので、なんていうか、コケティッシュな愛らしさが溢れている。
私の幼馴染の一人、宇迦野(うかの) 瀬里亜(せりあ)と同種の魅力を持った、背が小さめだけでどそこも微笑ましい素敵に愛らしい女の子、……に見える。
なのでまあ、いつものデカ物幼馴染の肉壁二枚無しで、ナンパ目的らしき男子が何組か、私達のところまで近づいて来ようとしていたのだけれど、その歩みは途中でピタリと止まってすぐに引き返して行った。
それは、例の“殺気”とかの物騒な物ではなく、全君が武術のお師匠様から習った別の技術、“威圧”、“威嚇”とかのたぐいの物らしい。って、異世界物ファンタジーのスキルかなんかっぽくない?
まあそれはともかく、現実的に考えると、精神的な迫力とか凄味、気合とか、なのかな?そんな曖昧模糊とした物が、超音波の虫除け電波みたいに、ハッキリと明確な効果を人に及ぼせるのだから、物凄く便利でとても有難い。コミュ症もこじらせてる私にとっては特に。
全君が、そういう全方位便利バリヤーみたいなのをしてくれるお陰で、彼と遊びに行くようになってからは、ほとんど他の人から話しかけられた事がない気がする。
みんなと一緒の時でも、図々しい変なグループから絡まれた事が何度もあるのに。
それでも、全君が言うことには、妙に無神経だったり、空気が読めない様な人種にはこれが通じない事もあるとか。後、全君よりも精神的に強い人には“威嚇”も“殺気”も効果がない、もしくは薄い感じ、になるらしい。
通じない相手がいる事はともかく、やっぱり凄いと思う。
でも、全君のお師匠様は、手本として軽くやるだけで、お寺周囲の森から一斉に小動物達の集団が逃げまどい、鳥の大群が我先に飛び去って黒雲のようになって空を覆い、ふもとの街では、天変地異の前触れか、大地震の予兆か、と大騒ぎになって後から真相を知った大勢の人達からの苦情がお寺に寄せられた、とか。
……まるで悪い冗談としか思えない話なのだけど、全君は余り変な嘘や冗談は言う人ではないので、多分本当に本当の事なのだろう。いったい、どんな人外魔境の化け物なんだか……。
全君曰く、岩のような筋肉ゴリラ、道着を来た大型のヒグマ、としか形容のしようがない、とかなんとか。多分、私が一生会いたくないタイプの人種なのだろう……。
「と、ところで、ぜん君は、そ、その、や、や〇いとかに嫌悪感とかはないの?今から行くイベントって、中身健全な本ばかりじゃなく、むしろそっち系がメインのサークルの方が多いと思うのだけど……」
私はまた、イベントでの懸念事項パート2をどうにか切り出せた。
全君が同人誌を買う訳ではないと思うけど、そっち系の女の子が集団でワチャワチャ盛り上がる集まりなのだから、男性でそちらの趣味は苦手という人は少なくなくて、全君もそうだとしたら最悪だ。それでも、全君なら我慢して平気だと言いそう。しかしそれだと、このイベントは彼にとっては楽しくもなんともない、ただの苦行の時間になってしまうかもしれない。
「ああ、えっと。そういう系統の同人誌があるのは知ってましたし、買った事は勿論ないのですが、そういう趣味に理解がない訳じゃないですよ。
同人誌ではないのですが、母が日本の漫画を、古いのも新しいのも、面白ければ何でもいいと集めていて、僕も読ませてもらった物に、少女漫画の“パタ〇ロ!”というのがありました。先輩も多分、内容を知ってますよね?」
「あ、うん、勿論!名作だし、“こち亀”以外では百巻超えの、唯一の少女漫画大作だもの!愛読書で聖典(バイブル)の一つよ!」
好きな物の話だから、私はつい現金に声を弾ませて答えてしまう。
「あれってアニメ化もされて、うちにそのDVDもあるのですが、TVの黄金時間(ゴールデンタイム)、夕食時に放送してたらしいですね」
「そうそう、そうなの!アニメも大人気で、“クックロ〇ン音頭”なんて、夏祭りの盆踊りでも曲が流されて、意味が分かってる訳でもないと思うのに、普通に踊ってたらしいのよね!」
日本人の、無意味な程の寛容さには、呆れるけど嬉しい。
全君は私の少し横道にそれた話にも、にこやかに笑ってくれる。
「で、あれってMI6の少佐の、大人の恋愛話もありますが、普通に読んでましたよ。アニメでは、そういう話って省くか、適当にボカすかするのかと思ったら、結構ガッツリ原作のままにやっていて、よくあの、お茶の間の家族で見る時間帯に流せたなぁ、と感心しました。当時のPTAから苦情とか出なかったんですかね。男同士ならセーフとかだったりでもするのかな……」
全君の結構鋭い指摘に、私は冷や汗を流しながら、ソウネー、と苦笑いして誤魔化すしかなかった。私自身も放送時に見れた世代ではないので、細かい話は知らないし知りたくもないのだ。本当に、なんて寛容なお国柄なんデショネ……。
でもなるほど。全君にはそっち系の話に拒否反応や嫌悪感なんかはまるでないらしいのが、そのあけすけな感想からうかがえた。私の心配は杞憂みたいだった。私はそこでホっと一安心。
それに、全君とそっち方面の話も出来る事が分かったのは思いがけない収穫だ。
全君が中学時代にイジメから助けた子の一人から、図書室で全君が読んでいた小説がたまたま偶然に、名作アニメの原作小説だった事から、自分と同じ趣味の同士と勘違いした相手から、これもいいあれもいい、と猛プッシュされたんだそうな。
オタクって、自分の趣味の事になると、とたんに積極的に盲目的に、押しが強くなったりするよね。私も心当たりがないでもない……。
で、全君は断るのも面倒なので、ある程度の漫画やアニメなんかを押し付けられて、見るようになった、というのは聞いていたのだけど、そこにお母さんの所持する蔵書からの影響もあってか、彼に話せるオタ話に、NGはほとんどない様だ。
詩愛には余りディープな話は出来ないし、寮暮らしの瀬里亜とは電話かレインでしか連絡出来ないから、余り頻繁に趣味の話とか出来ない。やると止まらなくなって、いつのまにか長時間経っているのが常なので、彼女の負担になってしまう。当然私にとっても。
だから、その手の話は休み前の夜で、それなりに時間がとれる時に、とお互い暗黙の了解が成立しているのだ。
だから、そういうオタ趣味の話相手が増える事は素直に嬉しい。ネットのコミュニティのチャットで話せる人もいるのだけど、オンとオフとではやっぱり全然違うから。
そんな風に私達は、基本どうでもいいような四方山話をしていると、すぐにイベントの開催している会場近くの駅に着いた。
うん。着いた、はいいのだけれど………
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暑い……。ゆだる……。
皆さん、熱中症には気をつけましょう。
節電?ナニソレ?美味しいノ?
イベントの話だけ書くつもりが、前段階の余計な話が長くなってます。
次には多分、会場入りして1話目に追いつく、筈、デス……
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